おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

ステロイド 塗り薬

小児がステロイド軟膏をなめる、少量食べるとどうなるか?

投稿日:2017年11月18日 更新日:

ステロイド軟膏をなめる、食べるとどうなるか?

皮膚科門前の調剤薬局ではたらいていると0~1歳の子供を連れた親御さんが来局されます。「顔や手に湿疹ができた。薬を塗った部分をなめてしまうのですが、問題ありませんか?」という質問をよく受けます。私は「塗布部位をなめても、体に害はありません」と笑顔で即答します。

○ステロイド軟膏をなめる、食べるとどうなるのか?

子供の顔や手に使用するステロイド軟膏はミディアムクラスかストロングクラスが多いと思いますので、リンデロンV軟膏のデータと内服薬のリンデロン錠のデータを比較しながら私なりに「服用後の消化管内動態」、「軟膏と坐薬を消化管に入れた時の比較」とうい2点から解釈してみます。

内服薬のリンデロンと外用薬のリンデロンVについて
内服薬のリンデロンは「小児適応量(0.15mg~4mg)を1~4回にかけて分割経口投与する(適宜増減あり)」という使用量が添付文書に記載されています。

外用薬のリンデロンV軟膏0.12%(1g中にメタメタゾン吉草酸1.2mg含有)
0~1歳の子供の両手に、まんべんなくたっぷり薬を塗ったとして0.5g(1FTU)ほどの軟膏を使用します。塗ったリンデロンV(ベタメタゾン吉草酸)の量は0.6mg相当と計算することができます。

ワセリンを大量に誤飲した時の対処方法

0.6mgという量は内服薬リンデロンの小児適応量に入っていますので、赤ちゃんの手に塗ったリンデロンVをなめつくすと、内服薬と同等の効果がでてしまうのではないかと勘違いしてしまうかもしれません。以下に「服用後の消化管内動態」「軟膏と坐薬を消化管に入れた時の比較」という2つの視点からリンデロンVを飲み込んでも効果がないことを記します。

服用後の消化管内動態

リンデロンV軟膏(5g)の組成を見ますとベタメタゾン吉草酸エステル1.2mgと、残り4998.8mgは白色ワセリンや流動パラフィンなどの基剤からできていることがわかります。

ワセリンとは石油を精製して作られた製品で、大部分は分岐鎖パラフィンとシクロパラフィンとシクロアルカン(疎水性)です。リンデロンVに限らず、医療用の軟膏はその99%以上がパラフィン(流動、分岐鎖、脂環式など)からできております。

人間は各種パラフィンを分解する消化酵素を持っていないため消化できません。パラフィンを食べると油便となって、そのままの形でおしりから出てきます。

実際に「流動パラフィン」を癒着性腸閉塞の術後に便秘対策として使用している施設もあり(適応外)効果は確認されています。

以上のことから軟膏をなめても食べても軟膏の99%以上を占める白色ワセリンやパラフィンを人間の胃・小腸・大腸では消化・分解することができないため吸収されずに大便としてでてくることが示唆されます。

しかし、軟膏を経口摂取した時に吸収されないことは証明できても、消化管内の温度でワセリンやパラフィンが溶けてしまえば薬成分が流出して、体内に薬が取り込まれる可能性が考えられます。まさに坐薬はその原理で薬成分を直腸から吸収して効果を発揮する剤形です。そこで次に「軟膏と坐薬を消化管に入れた時の比較」を検討します。

「軟膏と坐薬を消化管に入れた時の比較」

軟膏を飲み込むことと、おしりに坐薬をさしたときの消化管内での溶解性について比較します。軟膏も坐薬も、基剤(ワセリンなど)に薬成分が練りこまれている製剤であることに変わりありません。ここでは基剤の特性に注目し、軟膏、坐薬それぞれの消化管内での溶解性について検討してみます。

○坐薬
坐薬には2種類に基剤があります。油脂性基剤と水溶性基剤(マクロゴールなど)です。油脂性基剤は35度の体温で溶けて体内に薬成分を溶出して効果を発揮します。一方の水溶性基剤は融点が60度と高いため、それだけでは体内の消化管ではとけません(室温保存可能の坐薬です)。

水溶性基剤は温度ではなく、体液を吸収する(水溶性のため)ことで溶解して薬成分を溶出することで薬効を発揮します。2種類の基剤は、それぞれの特徴をもって体内で溶けて薬成分を溶出する構造となっています。

ステロイド軟膏を誤飲した時の対処方法(テクスメテン軟膏インタビューフォームP.22)

○軟膏

軟膏の基剤であるワセリンの融点は38度~60度であり、パラフィンの融点は58度~60度ですので、いずれも体温では溶けにくい製剤であることがわかります。さらに両基剤ともに疎水性(水をはじく)であるため体液を吸収することもありません。このため軟膏を飲み込んでも坐薬のようにドロドロの液体にまで状態変化することはないことが示唆されます。

以上、「軟膏成分が消化されないこと」、「軟膏は消化管で溶けないこと」という内容を踏まえまして「軟膏はなめても大丈夫です」と患者様へお伝えする内容を検討してみます。

軟膏を口に入れた場合、99.9%以上が胃や腸で消化も溶解も吸収もされない成分を口から取り入れたことになります。イメージとしては食物繊維を食べたような感じです。消化されず、かつ融解しない(溶けない)軟膏に練りこまれた残り0.1%のステロイド成分だけが、消化管内ですべて溶けだして小腸から取り込まれる可能性は非常に低いことが想定されます。そのためステロイド軟膏をなめたことで、ステロイドの効果があらわれるほど体内に取り込まれる可能性は低いと考えられます。これらのことから「なめても大丈夫」と言えると私は考えます。

余談ですが、テクスメテン軟膏1%のインタビューフォームには
「13. 過量投与」という項目があります。
・通常の幼小児の誤飲程度では、ほとんど症状が現れない。
・大量に誤飲すると、軟膏、クリームの基剤(油脂)により、一過性の嘔吐、腹痛、軟便、下痢を起こすことがある

 

処置

1.誤飲の場合は、ほとんどの場合はそのまま放置すればよい。
2.念のため、塩類下剤を投与する場合もある。
3.大量誤飲の時は、胃洗浄するとよい。
という誤飲による影響と処置が丁寧に記載されています。

 

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執筆者:ojiyaku


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