おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

抗生剤

ニューキノロン系抗生剤と併用できない金属カチオンの量

投稿日:2017年12月13日 更新日:

ニューキノロン系抗生剤と併用できない金属カチオンの量

 

ニューキノロン系の抗生剤はアルミニウムやマグネシウムとキレート(金属錯体)作成するため服用時間をずらす必要があります。

 

アルミニウムやマグネシウム・カルシウムといった金属カチオンは食事中にも含まれているわけですが、クラビットやスオード・ジェニナックなどのニューキノロン系抗生剤のインタビューフォームには食事による総吸収量(AUC)に影響を受けないと記されています。

そこで、今回は各種抗生剤に対する金属カチオンの量に注目して併用できない量を調べてみました。

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〜抗生剤と金属カチオンのキレート(錯体)の形〜

不溶性の金属キレートの構造を確認してみると、金属1molに対して抗生剤は1〜3molが結合してキレートを平衡状態として形成していることがわかります。(下図参照)

金属キレート

そこで、各薬剤について一般的な常用量をmolという単位へ変換してキレート作成に必要な量を試算してみます。

 

~グレースビット50mg(0.1nmol)~

水酸化アルミニウム1g(12.8nmol)との併用:吸収量が25%へ低下

酸化マグネシウム0.5g(12.5nmol)との併用:吸収量が49%へ低下

炭酸カルシウム1g(10nmol)との併用:吸収量が68%へ低下

硫酸鉄160mg(6nmol)との併用:吸収量が33%へ低下

 

いずれもグレースビット0.1nmolに対して大量のカチオンと併用することになりますキレートを作る率はカチオンにより異なるかと思いますが、大量のキレートが精製させることが示唆され、その結果吸収量の低下へとつながります。

 

〜クラビット〜

アルミニウム製剤:56%へ低下

マグネシウム製剤:78%へ低下

カルシウム製剤:97%へ低下(低下率が低いため、Caと併用しても良い)

鉄製剤:81%へ低下

併用による低下に関するデータは記されているのですが、各種カチオンの具体的な併用量は記されておりません。

クラビット500mgは1.35nmolというモル数になります

以下に金属カチオンを含む医薬品の1回服用量に含まれる各種カチオンのモル数を表示します

マグテクト10mlに含まれるアルミニウムイオンの量:4.4nmol

イサロン100mgに含まれるアルミニウムイオンの量:0.46nmol

酸化マグネシウムに含まれるマグネシウムイオンの量:12.4nmol

乳酸カルシウム5水和物1gに含まれるカルシウムイオンの量:3.2nmol

フェロミア50mgに含まれる鉄イオンの量:1.9nmol

インクレミン10mlに含まれる鉄イオンの量:2.6mol

フェログラデュメット105mgに含まれる鉄イオンの量:4mol

参考)牛乳1杯(200ml)中に含まれるカルシウムイオンの量:5nmol

グレースビット錠と金属カチオンの併用データ

クラビット錠はカルシウムと併用してもキレートを作成しにくいため併用は問題ありません。しかし、それ以外の金属カチオンではグレースビットと同様にクラビットが大量のカチオンに囲まれる形となります。

 

 

~ジェニナック400mg(0.74nmol)~

水酸化アルミニウム900mg(11.5mol)および水酸化マグネシウム800mg(13.7mol)の混合液とジェニナック600mgを同時に服用したところ吸収量が42%へ低下した。

 

上記混合液を服用後2時間後にジェニナック600mgを投与したところ吸収量が78%へ低下し、4時間後の投与では85%へ低下した。

 

カルシウム・鉄・亜鉛を含む製剤との併用に関するデータは確認できませんでしたが、カチオンを含む医薬品の常用量ではいずれもキレートを作成する可能性が高いため同時服用は避けるか2時間以上間隔をあけて投与すること。

 

~オゼックス150mg(0.25nmol)~

アルミニウム製剤:63%へ低下

マグネシウム製剤:46%へ低下

カルシウム製剤:58%へ低下

鉄製剤:84%へ低下

というデータは記されているのですが、各種カチオンの具体的な併用量は記されておりませんでした。他のニューキノロン製剤と同様にオゼックス150mg中には0.25nmolの成分しか含まれておりませんので、常用量のカチオン製剤との併用により上記の力価低下が生じることが示唆されます。

 

具体的な数字としてはグレースビットとジェニナックしかあげられませんでしたが、1度に服用するニューキノロン系抗生剤は1nmol前後であり、それに対して一度に服用するカチオン系医薬品の量は5~10nmolとなっており十分にキレートを形成する量であることがわかります。

尚、食事に含まれるカチオン系金属とニューキノロン系抗生剤の併用に関しては、食事に含まれるカチオン系金属(ミネラル)の相対的な量が少ないことから影響が少ないというデータ(IF)となっていると私は解釈します。

 

牛乳との相性がわるいミノマイシンでさえ、海外の報告によると食事による影響は認められないと報告しているものもあります。

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-抗生剤
-アルミニウム, カルシウム, キレート, ニューキノロン系抗生剤, マグネシウム, 亜鉛, 金属, , 錯体

執筆者:ojiyaku


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