痔核や裂肛などのいわゆる“痔”の治療薬しとして使用する強力ポステリザン軟膏に含まれている成分を見てみると“ヒドロコルチゾン”という炎症止めのステロイド成分と“大腸菌死菌浮遊液”という感染を防止・創傷治癒を促進する成分が入っていることがわかります。大腸菌死滅浮遊液という言葉は、私にとってあまり耳なじみのない言葉でしたので、今回は大腸菌死菌浮遊液の働きについて調べてみました。
試験管の中で大腸菌を培養すると一般的に生きている大腸菌は試験管の下に沈みます。一方で細胞の壁が壊れて死んでしまった大腸菌の残骸は試験管の上の方にぷかぷかと浮かびます(目には見えません)。“大腸菌死滅浮遊液”とは死んでしまった大腸菌の細胞壁などの残骸の集まりというイメージです。
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我々は小さいころに不活化ワクチンという注射をしています。これは病原体となるウイルスや細菌の感染力をなくした原材料を注射することで、それに対する免疫力を獲得するという予防医療です。大腸菌死滅浮遊液のはたらきもイメージとしてはこれと同じです。患部で悪さをする大腸菌の細胞膜の断片(膜成分)を肛門に注入することで、体はこれを異物として認識します。すると異物を排除するために免疫応答が行われて、白血球の一種であるマクロファージが活性化します。この働きにより患部周辺の細菌が減少し、患部の治療がスムーズに行われます。
上記の働きを「白血球遊走能促進(白血球が活性化)」、「局所感染防御作用(ばい菌を排除)」、「肉芽形成促進(患部の出血を治癒)」といった言葉で添付文書には記されています。
強力ポステリザン軟膏2g中には約5億2000万個の大腸菌死菌が含まれています。マウスの皮膚に5億2000万個の大腸菌死菌を注入すると白血球の一種であるマクロファージ活性が高まる(免疫力が上がる)ことが示されています。マウスのデータですが、上記の量の大腸菌死菌を皮下に投与すると血清中のTNF活性が10→800前後まで上昇することが確認されています。この働きは大腸菌死菌をたくさん入れすぎると低下してしまうため、5億2000万個程度の量がちょうどよいようです。(10億個以上使用するとTNF活性が低下することが確認されています)。
ヒトにおける強力ポステリザン軟膏の効果を示したデータ
痔核疾患または肛門周囲湿疹の患者さんを対象として2週間にわたって毎日軟膏を使用した時のデータを確認してみます。
強力ポステリザン軟膏(大腸菌死滅浮遊液とステロイド)を使用した患者:229人
大腸菌死滅浮遊液のみ使用した患者:273人
ステロイドのみ使用した患者:不明
基剤のみ使用した患者:568人
上記の割合で患者さんを割り付け、患部に軟膏を2週間使用した結果、明確な効果が確認された割合は
強力ポステリザン軟膏:83%
大腸菌死滅浮遊液のみ使用:77%
ステロイドのみ使用:75%
基剤のみ使用:52%
上記の結果より、強力ポステリザン軟膏は痔核疾患や肛門周囲湿疹に対して効果的であることが示されています。
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