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入荷困難なニゾラールローションと脂漏性皮膚炎の適応について

入荷困難なニゾラールローションと脂漏性皮膚炎の適応について

 

2025年5月現在、ニゾラールローションとそのジェネリックのケトコナゾールローションが非常に入荷困難となっています。

 

後発医薬品として

ケトコナゾールローション2%「JG」(日本ジェネリック)

ケトコナゾールローション2%「MYK」(前田)

 

という2社が販売を行っているのですが、先発医薬品同様に入荷は難しい状況です。

 

この要因の一つに「脂漏性皮膚炎」という適応症があるんですね。

 

ニゾラールローション、1999 年より臨床試験が実施されて2003年3月に「白癬、皮膚カンジダ症、癜風及び脂漏性皮膚炎」の適応症を取得した医薬品であり、頭の「脂漏性皮膚炎」に対してローションとして塗布できる「抗真菌薬」として非常に有用な医薬品なんですね。

 

そこで、この記事では「脂漏性皮膚炎」と「ニゾラールローション(ケトコナゾールローション)に」について掘り下げてみたいと思います。

 

 

脂漏性皮膚炎とは

 

頭皮や顔、皮膚などの皮脂が多く分泌される部分に「赤身、かゆみ、フケ、皮脂の分泌」が増加する症状で、進行すると湿疹ができるケースもあります。

 

脂漏性皮膚炎の発症要因

 

・皮脂の過剰分泌:皮脂腺が活発な部位で発症しやすく、皮脂が酸化すると炎症を引き起こします。

 

・マラセチア菌(癜風菌:でんぷうきん)の関与:皮膚に常在するマラセチア菌が異常増殖すると、脂肪酸を生成し、皮膚の炎症を引き起こします。

・免疫反応の異常:皮膚のバリア機能が低下し、炎症を起こしやすくなります。

・遺伝的要因:家族内で発症しやすいことから、遺伝的素因も指摘されています。

・ストレスや環境の影響:ストレスや疲労、不規則な生活は免疫を低下させ、脂漏性皮膚炎を悪化させる要因となります。

・その他:皮脂の分泌を促すホルモンバランスの変化、ビタミンB群不足、洗顔、先発不足など

 

 

という感じで脂漏性皮膚炎の原因には上記のような理由が挙げられるのですが、その中でマラセチア(癜風菌)が原因で生じている脂漏性皮膚炎に対して、抗真菌薬のニゾラールローションが有効というわけですね。

 

実際、国内の臨床試験において、脂漏性皮膚炎に対してニゾラールローションの治療成績は「改善以上の症例数:73.8%」と高い有効性が確認されています。

 

実際、原因となるマラセチアは毛穴に常在しており、皮脂の分泌が盛んな部分でよくみられる真菌でして、夏場などの高温多湿の環境下において、汗をかきやすい人や若者に増殖しやすいという特徴があります。

 

そのため抗真菌薬が有効というわけですね。

ointment

さて、ここで気にあるポイントとしては、ニゾラールクリーム/ニゾラールローション以外の抗真菌薬(外用薬)には脂漏性皮膚炎の適応症がないのか?という疑問がわくかも知れませんが、実際にその通りで、他の抗真菌薬には脂漏性皮膚炎の適応症はありません。

 

これは対マラセチア菌(癜風菌)に対する力価の違いによるものでMIC90という指標が用いられています。

 

MIC90とは最小発育阻止濃度90と呼ばれ、菌株集団の90%の発育を阻止するために必要である最小の抗菌薬の濃度を示した指標です。この値が小さいほど、少量でよく効く抗菌薬と考えられます。

 

ではマラセチア菌(癜風菌)に対するMIC90を確認してみます。

マラセチア菌(癜風菌)に対するMIC90

 

ニゾラールローション:1.6

マイコスポール:50

フロリード:100

エンペシド:100

 

上記のデータはニゾラールローションのインタビューフォームから引用したものです。

 

それ以外のサイトでもマラセチア菌(furfur)に対する抗真菌薬のMIC90についてしらべてみまいた。

アムホテリシンB:2

フルコナゾール(ジフルカン):16

ケトコナゾール(ニゾラール):0.25

イトラコナゾール(イトリゾール):0.25

ボリコナゾール(ブイフェンド):1

ポサコナゾール(マイコスポール):2

 

という感じで記載されているサイトがありました。

ケトコナゾールとイトラコナゾールが同程度のMIC90となっており、実際に内服薬のイトリゾールカプセルの効能効果に関して、適応菌種にマラセチア属が含まれており、内服での治療が可能です。

 

抗真菌薬の外用薬(ローション・液剤)についてマラセチア菌(癜風菌)への適応の有無を確認してみたところ、ルリコン液やアスタット外用液については適応菌種に「癜風」が記載されておりますのでマラセチア菌(癜風菌)への治療は可能です。

 

しかし、ニゾラールローションのようにマラセチア(癜風菌)が原因?で生じている脂漏性皮膚炎に対しての適応は、他の抗真菌薬にはありませんので、「脂漏性皮膚炎」という診断名で処方することができる抗真菌薬はニゾラールクリーム/ローションのみというのが実情です。

 

では最後に、ニゾラールクリーム/ローションとそのジェネリック医薬品(ケトコナゾール)について、脂漏性皮膚炎の治療では1日2回で使用する理由については、治療を開始して1~2週間時点での改善率がよいからという理由でした(最終的な治療成績は1日1回塗布と2回塗布で同等)

 

以下にニゾラールクリーム/ローションのインタビューフォームを引用してこの記事を終えます。

 

脂漏性皮膚炎を対象とし、1日1回塗布と1日2回塗布による至適塗布回数設定試験を二重盲検左右比較試験により実施した。その結果、最終全般改善度は同等であったが、1 週後及び 2週後における改善度では、2 回群が有意に優れていた。このことより、2 回群の方が早期改善が期待できる。また、副作用は両群とも同一の症状であり、用量依存的な傾向は認められなかった。更に、海外において脂漏性皮膚炎に対する塗布回数が主に 1 日 2 回であることを考慮し、1 日 2 回が適切な用法であると考えられた。

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業