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抗不整脈薬の違いを患者様へわかりやすくお伝えする

不整脈薬の違いを患者様へわかりやすくお伝えする

 

抗不整脈薬を初めて服用する患者様にお薬をお渡しすると時に「不整脈と言われたんだよなぁ」、「脈がとんでいた」、「心電図検査でひっかかった」とコメントされることがあります。

 

私の勉強不足が原因なので恐縮なのですが「不整脈」という言葉は、私にとっては“霞”のようなもので、この言葉だけでは実態が全く想像つきません。実際、不整脈の分類を確認してみると

同性頻脈、同性徐脈、同性不整脈、上室性(心房、房室接合部)期外収縮、心室性期外収縮、補充調律、心房細動、心房粗動、発作性頻拍、各種ブロック、などなど・・・


不整脈の種類は4文字熟語のようなものばかりです。それぞれの言葉と症状を結びつけて覚えることは素晴らしいことだとは思いますが、調剤薬局勤務中に実務として使用するケースは非常に低いと感じます。

不整脈薬物治療ガイドライン

抗不整脈薬と活動電位

一応、私が薬学性の時も心臓がどのように電気シグナルと伝えて収縮拡張を繰り返すかという仕組みは“サラッと”習った気がします。さらに心電図的なものに関しても“非常にサラッと”習ったような記憶があります。

 

今の薬学性がどうかはわかりませんが、私の時代は「活動電位に作用する薬の分類」で抗不整脈薬を学びました。いわゆる「抗不整脈薬(Ⅰa群~Ⅰc群)は活動電位(脱分極、過分極、再分極)」です。しかし調剤薬局で勤務する私としては、患者様にお薬を伝える上で、この分類は利用しにくいという(武器になりにくい)という感覚があります。

 

図1:(心臓の活動電位)で刺激の伝わり方を確認します。黄色いハートで生まれた電気興奮が赤いハートに伝わり(心房が収縮する)、その後赤矢印を通って左右の心室に電気が流れる(心室が収縮する)ことを1サイクルとして心臓はドキドキしています。その時の各部位(心房、ヒス束、心室など)に流れる電気流入を確認すると、図1左部分のような活動電位として表すことができます。

 

抗不整脈薬(Ⅰa群~Ⅰc群)がわかりにくいと感じるのは単なる電気生理学的な働きしか表していないためだと私は感じます(1970年代前半から使われている考え方です)。この考え方は、分類当初は単純にⅠa群:活動電位持続時間延長、Ⅰb群:活動電位持続時間短縮と分類していました。しかし、その後強い伝道刺激抑制薬剤が次々に開発されたため、それらを新たな分類Ⅰc群としてまとめてしまった経緯がありあす。その結果、ますますわかりにくい分類表になってしまったと私は認識しています。

 

これらのことから、なにがなんでも抗不整脈薬(Ⅰa群~Ⅰc群)を使い続けなければならないかと言われると疑問を感じます。睡眠剤には睡眠導入、中途覚醒、早朝覚醒などの効能により分類がなされています。抗不整脈薬も同様に「効き目」を分類軸とした評価表がいくつかあります。それらの一つにSicilian Gambitによる薬物分類があります。

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Sicilian Gambitによる薬物分類(日本版)には薬剤の特徴(受容体やポンプに対する作用)と患者さんの症状への影響(左室機能、洞調律、心外性、心電図所見)が記載され、不整脈の原因に根差した合理的な治療にたどりつくためのツールとして利用されています。

 

専門医が使うかどうかは分かりませんが、一般内科や外科系の医師が不整脈薬の治療をするときに適切な薬の選択ができるという評価を受けています。そこで調剤薬局で利用されている抗不整脈薬をsicilian Gambitによる薬物分類に照らし合わせ、抗不整脈薬の使い分けを考えてみたいと思います。

 

心筋の活動電位はNaチャネルの活性化、不活性化、静止という3つの状態を1サイクルとして働いています。抗不整脈薬のうちのNaチャネル遮断薬は2つに分けられます。活性化状態に結合することで遮断薬として働く薬(ほとんどこれです)と不活性化状態に強く結合する薬(活性化状態には弱く結合する)薬です。前者の方が効き目が強くあらわれます。

 

つぎにNaチャネルにくっついている時間の長さに注目します。Naチャネルにくっついている時間が長いと、しっかりとした薬効が期待される一方で1サイクルを終えてから次の興奮(活動電位)にも影響が残ることがあり心機能低下患者さんへの投与には注意が必要です。以上の活性化抑制というポイントとNaチャネル結合時間という2つの尺度から、抗不整脈薬を4段階に区分してみます。(あくまで私のイメージですのでご了承ください)

 

1:Naチャネル遮断作用が弱く、チャネルからの解離が早い(効き目が非常に穏やか)

・メキシチール:速やかにチャネルから離れるので心機能抑制効果が少ない。心機能が、かんばしくない場合の第一選択薬。不整脈治療の初期段階というイメージです。

心臓への作用に関しては安全域が広い。安心して飲めます。

副作用は吐き気、腹痛、食欲不振などの消化器障害が数%ある程度とです。

2:Naチャネル不活性状態に結合する、Naチャネルからの解離は中くらい

・アスペノン:心機能への影響がすくない。回復時定数5.1秒なのでメキシチールから比べるとチャネルに長くくっついていられる。心房筋の不応期を延長することができるので心房性不整脈(上室性不整脈)に有効

心臓への作用に関しては安全域が広い。安心し飲めます。

ただし、肝代謝なので肝機能低下の副作用が5%程度と高いイメージです。服用後の食欲不振や倦怠感、体重減少、腹痛などの副作用があればすぐに連絡するよう患者様へお伝えします。

 

3:Naチャネル活性状態を遮断する、Naチャネルからの解離は中くらい

 

・アミサリン:内服薬の半減期が非常に短いため、使用するのであれば1日6回くらい飲む。ほとんど処方されない

 

・キニジン:抗不整脈効果がしっかりでるが、心機能抑制作用は弱いため心機能低下患者様(高齢者)に使用されることがあるかなぁという印象です。

 

・プロノン:心機能が低下(高齢者)していて、心房細動を含む不整脈患者さんに使用されるイメージです。抗不整脈作用がしっかり期待できる反面めまい・ふらつき・動悸・脚ブロック(徐脈性不整脈の特徴)などの副作用頻度も増します。

 

4:Naチャネル活性化状態を遮断する、Naチャネルからの解離が遅い

抗不整脈薬の中で一番強い分類と考えます。不整脈を引き起こしている細胞のNaチャネルだけに特異的に結合するわけではないので、正常な心筋細胞にも影響がある。(心機能抑制作用という副作用を考慮する必要があります)

 

・リスモダン:心筋抑制が強いため心機能低下者注意。抗コリンの作用がつよいため口渇、閉尿がみられる。交感神経緊張状態を緩和するため夜間の発作性心房細動に有効かもしれない。欧米での処方数はすくない。低血糖を起こすことがある。効果がしっかりしているため徐脈の自覚症状(息切れ・疲れやすさ・だるさ・手足の冷え)などの症状が出た場合は念のため医師へ相談

 

・シベノール:リスモダンに比べると抗コリン作用や心筋抑制作用が少し弱いため、シベノールの方が使い勝手が良い。徐脈の自覚症状(息切れ・疲れやすさ・だるさ・手足の冷え)などの症状が出た場合は念のため医師へ相談

 

・ピメノール:頻脈性不整脈、心房細動に効果的。効果はリスモダンより強いが、抗コリン作用が1/4であるため口渇や閉尿の副作用がでにくいという特徴がありあす。徐脈の自覚症状(息切れ・疲れやすさ・だるさ・手足の冷え)などの症状が出た場合は念のため医師へ相談

 

・タンボコール:不整脈薬作用が強い。心筋抑制作用も催不整脈作用も強いので器質的心疾患がある場合には注意が必要です。心房粗動にはほとんど無効。調剤薬局でお渡しする際はタンボコールを使用することで生じる動悸・頻脈の副作用について確認を行い、減塩管理、水分摂取を維持して心負荷軽減に努めるよう促します。

 

・サンリズム:タンボコールやリスモダンに比べると心筋抑制が弱い。心房細動発作停止の第一選択薬、頓服で発作停止が可能。薬効の高さに比べ副作用が少ないため多用されます。副作用項目の上位3つ(房室ブロック、QRS幅増大、めまい)がいずれも不整脈症状となっていますので、高用量を使用する際は動悸・息切れ・頻脈などの自覚症状に注意が必要です。

 

以上がチャネル抑制作用とチャネル結合時間から考慮した抗不整脈薬の効き目分類です。

Naチャネル遮断薬以外の分類としては

~カルシウム拮抗薬~

・ワソラン・ヘルベッサー

冠動脈をひろげることで新血流量をUPさせ、心臓へ栄養を補うと同時に心臓の拍動を遅らせる効果があるため頻脈状態から通常の力強い拍動へ改善する働きがある。洞結節と房室結節の興奮性、電動速度をおくらせて不応期を延長する

 

~活動電位持続時間延長・有効不応期延長~

・アンカロン:Kチャネル遮断作用により活動電位持続時間、有効不応期を延長させる

さらにNaチャネル遮断作用、Caチャネル遮断作用及び抗アドレナリン作用を併せ持つ。他の抗不整脈薬が無効か、使用できない場合に使用する

 

~β遮断薬~

・インデラル:β遮断作用に伴い心筋細胞内にcAMP減少させCa電流が減少する結果、常自動能の抑制と房室結節の電動速度低下・不応期延長を引き起こす

 

等があるかと思います。

 

睡眠剤(睡眠導入薬、中時間型、長時間型)や胃薬(胃粘膜増強薬、H2ブロッカー、PPI)のように抗不整脈薬(Naチャネル阻害剤)をきれいに分類することは難しいですが、私が勝手に思い込んでいる効き目分類グループは

 

グループ1:メキシチール、アスペノン(おだやか)

グループ2:プロノン、シベノール、ピメノール (効く、抗コリン作用あり)

グループ3:サンリズム、タンボコール、リスモダン (しっかり効く、不整脈の副作用注意)

このような感じでとらえております。(個人的な分類です)

それ以外の注意点としては、抗不整脈薬はどういうわけか1日1回タイプの薬が少ないため、飲み忘れに注意すること。(特に1日3回タイプの昼飲み忘れに注意)。腎機能排泄型の薬が多いので年齢や透析患者さんへの代謝を確認すること、併用禁忌薬(ベタニスとタンボコール、プロノンなど)の注意点があるかと思います。

 

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業