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老化を遅らせ、寿命を延長する“若返り酵素”が発見される

老化を遅らせ、寿命を延長する“若返り酵素”が発見される

eNAMPT-antiaging

私たちの体の中では、体を動かすエネルギーを作ったり、肝臓や膵臓などの臓器の働きをサポートしたりするための補酵素として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD+)という物質が全身を駆け巡っています。

 

最近の研究によると、全身を流れるNAD+の量が減少すると、体を動かすエネルギーの生産量が低下し、臓器の機能も衰えることから老化が進むことが明らかとなっています。

 

身体の中でNAD+が作られる経路を確認してみると、

 

ニコチンアミド→ニコチンアミドモノヌクレオチド→NAD→NAD+

 

という経路で合成されます。

 

ニコチンアミドは別名ナイアシン(ビタミンB3)とも呼ばれ、まぐろなど赤みの魚や生たらこ、インスタントコーヒーなどに多く含まれる成分です。

ニコチンアミドからニコチンアミドモノヌクレオチドを作り出すために活躍する酵素が細胞外型ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(以下、eNAMPT)と呼ばれる酵素であり、eNAMPTが血液中を豊富に流れていると、NAD+の合成が進み若返り効果・アンチエイジング効果があるのでは?と示唆されておりました。今回は、このあたりの詳細に関する報告がありましたので下記します。

 

マウスにおける血液中のeNAMPT量

 

月齢6カ月(人間で20歳代)のマウスと月齢18カ月(人間で50歳代)のマウスにおける血液中のeNAMPT量を測定したデータによると、加齢に伴いオスで33%、メスで74%の減少が確認されました。加齢に伴うeNAMPTの減少はヒトでも法おっくされております。さらにマウスにおける実験では、血液中のeNAMPT量と余命が相関しており、eNAMPTが少ないと残りの余命も少なることがわかっています。以上のことから血液中のeNAMPT量と老化・寿命の関連性が強く示唆されました。

 

年をとってもeNAMPTが低下しない遺伝子組み換えマウス

 

上記のデータより、年を取るとeNAMPTが低下して老化が進むことが示唆されましたので、次の実験では年をとってもeNAMPTが減少しないような遺伝子組み換えマウスをつくったらどうなるのだろうという話に進みます。

(eNAMPTは特にメスで加齢による減少が大きい成分です)

 

遺伝子組み換えによってeNAMPTがたくさん合成されるマウスを作成した結果、月齢24カ月(人間で70歳代)の時点で、普通のマウスと比較して血液中のeNAMPT量が3.3~3.6倍高く保たれるマウスを作ることに成功します。

 

eNAMPTがたくさん合成されるマウスは普通のマウスと比較して、健康寿命が13.4%伸びることが示されました(最大寿命は普通のマウスと同じです)。

eNAMPTがたくさん合成されるマウスの利点は以下の通りです。

 

・マウス回し車(観覧車)を回す能力が12カ月ほど若いレベル
・睡眠の質がよい

・長寿遺伝子Sirt1の発現率が高い

・膵臓が元気(インスリン分泌能力が高い)

・網膜の視神経機能が高い

・記憶力がよい

 

上記の結果から、人為的に遺伝子組み換えを行い、eNAMPTをたくさん合成できるマウスは、「良く動き」、「良く眠り」、「臓器も元気な状態」で生活できるが最大寿命は変わらないマウスであることがわかりました。ヒトに置き換えますと、心身ともに非常に元気な状態で平均寿命80代まで生活できており、その状態で生涯を終える(息を引き取る)といった人生である感じでしょうか。

(私の個人的な感想ですが、非常に理想的な生涯のように思えます)

 

さて、上記のデータは遺伝子組み換えマウスによる実験ですので、そのままヒトに流用することはできません。しかし、血液中のeNAMPTを増やすことができれば健康寿命が延びることは示されました。次の実験では若いマウスから老化マウスへeNAMPTを注入したらどうなるかどいう実験へ移ります

若いマウスから採取したeNAMPTを老化マウスへ注入したらどうなるか

 

月齢4~6カ月(人間で10~20歳代)のマウスの血液中から採取したeNAMPTを含む細胞外小胞を、月齢20カ月(人間で70歳代)のマウスへ継続的に投与すると、中間寿命が10.2%、最大寿命が15.8%延び、さらに毛並みもよく、運動レベルの顕著な改善も確認されました。

 

遺伝子組み換えマウスでのデータと、若いマウスから老化マウスへeNAMPTを注入したデータとの違いは、最大寿命が延びた否かという点です。筆者らが検討の中で記している内容としては、eNAMPTは肥満細胞で作られる酵素なのですが、遺伝子組み換えマウスでは加齢とともに肥満細胞が壊れてしまってeNAMPTの合成量が低下したために最大寿命を延長させることができなかった。しかし若いマウスから老化マウスへeNAMPTを注入した実験では、老化マウスへ外部のeNAMPTを継続的に注入して血液中のeNAMPT量を保つことができたため寿命の延長にも寄与できたのではと示唆しています。

 

現時点では人為的に“eNAMPTを含む細胞外小胞”を作ることはできませんし、10~20代の若者の血液中にある“eNAMPTを含む細胞外小胞”を精製して、若返りを希望する方へ継続的に投与する技術もありませんので、現実的には難しい医療行為です。しかし、文字通り“アンチエイジング”が現実味を帯びてきたことは間違いありません。

 

高齢化が進む日本において、年をとってもなお、若者と同じくらい元気に動くことができて臓器も元気な状態で、さらに毎晩ぐっすり眠れるようなライフスタイルが、将来の医療では起こりうるかもしれません。

eNAMPTを含む細胞外小胞によるアンチエイジング効果(マウスにおけるデータ)

 

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業

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ojiyaku