プロサイリン錠はプロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)誘導体製剤であり、主な作用部位は血小板および血管平滑筋にあるプロスタグランジンI2受容体です。
一方で、オパルモン錠(リマプロスト)はプロスタグランジンE1誘導体製剤であり、作用部位は4つのプロスタグランジンE2受容体(EP1、EP2、EP3、EP4)およびプロスタグランジンI2受容体と考えられています。
オパルモン錠はその作用部位が明確に解明されていないため、オパルモン錠のインタビューフォームには、その効果は記載されているものの、具体的な作用部位は記載されておりません。
今回は、プロサイリン錠とオパルモン錠の違い、併用可否について考えてみました。
プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)のはたらき
プロスタグランジンI2受容体(プロスタサイクリン受容体またはIP)の発現部位
血管平滑筋、血小板、心臓、胸腺髄質(T細胞)、脊髄後根神経節、孤束核などの神経細胞
・抗血小板作用:血小板のプロスタグランジンI2受容体に結合することで7~8時間にわたり血小板凝集を抑制させる
・血管拡張作用:血管平滑筋のプロスタグランジンI2受容体に結合することで血管を広げるとともに、血管内膜の肥厚を抑制することで、血管内腔を広い状態で維持する効果がある
添付文書上には「血管拡張作用、血流増加作用、血小板凝集抑制作用」としか記されていません。これでは比較しようがないので、オパルモン錠が作用すると思われる各受容体のはたらきについて、「血管拡張、血流増加、血小板凝集抑制」に関する情報をまとめました。
プロスタグランジンE2受容体の4つのサブタイプ
EP1:細胞内のカルシウム濃度を上昇させる働きがある受容体(主に腎、胃、肺に分布)
EP2:血管拡張作用および血小板凝集抑制をもつ受容体(主に血管平滑筋に分布)
EP3:発熱、痛覚伝達、胃液分泌抑制作用、平滑筋収縮、血小板凝集作用をもつ受容体(主に腎臓、子宮、胃に分布)
EP4:血管平滑筋拡張、免疫抑制、骨代謝、血小板凝集抑制(主に平滑筋、腎、胸腺に分布)
◯オパルモン錠の血管拡張、血流増加作用
血管平滑筋に存在するプロスタグランジンE2サブタイプのEP2およびEP4の働きにより血管が広がります。さらにプロサイリン錠の作用部位でもあるプロスタグランジンI2受容体にも結合することで血管を広げます。尚、プロスタグランジンE2サブタイプのEP3には平滑筋収縮作用がありますが、血管平滑筋での発現量が低いため影響が少ないことが示唆されます。
◯オパルモン錠の血小板凝集抑制作用
血小板上にはEP2、EP3、EP4、プロスタグランジンI2受容体という4種類の受容体が、オパルモン錠がターゲットとなります。血小板上の発現量はEP3が多く、EP2、EP4は少ないです。そのため、低濃度の作用薬を投与しても、発現量の多いEP3へ結合して、血小板凝集刺激作用が現れてしまいます。一方、高度濃度の作用薬を投与するとEP2やEP4に加えてプロスタグランジンE2受容体にも作用して凝集抑制作用を示します。
オパルモン錠5μgは十分量のプロスタグランジンE1製剤ですので、血小板上の作用は後者“高濃度の作用薬”となりますのでEP2、EP4、プロスタグランジンI2受容体へ作用して血小板凝集抑制作用があらわれます。“オパルモン錠の血小板凝集抑制作用はプロスタグランジンI2に匹敵する”という文言がインタビューフォームに記されています。
余談ですが、オパルモン錠の分子構造を見てみると、長鎖脂肪酸を2つ持つ構造をしています。そのα鎖が肝臓で1度β酸化を受けると、2重結合がなくなるため非常に可動域の広い構造へと変化します。オパルモン錠がプロサイリン錠の受容体へ作用できる理由はこのあたりに有るのかもしれません。
上記の作用機序から、オパルモン錠5μgは1錠で“プロサイリン錠20μgの作用”と“プロスタグランジンE1の作用”をもった薬であることが見えてきます。ただし、オパルモン錠がプロサイリン錠と比べてどれくらいの力価があるかという文言はどこにも記されておりません。
いいかどうかはわかりませんが、覚え方としては
プロサイリン:プロスタグランジンI2作用薬
オパルモン錠:プロスタグランジンE2およびI2の総合作用薬
(注意:生体ではE1ではなくE2がメインですのでE2としております)
と私は認識しました。
プロサイリン錠とオパルモン錠の併用処方を目にしたことは有りませんが、複数の病院を受診していてプロサイリン錠にオパルモン錠が追加となることがあれば、私の場合は一応疑義照会で処方医へ連絡すると思います。
その際は、“作用部位が少しだけ重複する“という内容で疑義照会を行うのではなく、”2剤を併用することで、血管拡張作用および血小板凝集抑制作用が上乗せになりますが問題ありませんか?“と確認すると思います。