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Ca拮抗薬はハルシオン、リピトールはグレープフルーツジュースを飲むと効き目が強くなるので控えましょうというのが薬剤師の教科書に記されているわけですが、このようにグレープフルーツジュースを控えた方がいいと言われる薬の名前を単純に暗記するだけでは、通り一遍で定型文の薬剤師になってしまうんですよね。
そのような状況から一歩進むために、どの程度のグレープフルーツジュースを飲んだら、どの程度薬の効き目が強くなるのか?また、グレープフルーツの果実ならばどうか?といった具体例を含めて、処方頻度の高い医薬品について、調べてみました。
Ca拮抗薬などの薬は、消化管に存在するCYP3A4という酵素で一部分解を受け、その残りが腸管から吸収されて降圧作用示すように設計されています。
グレープフルーツの薄皮(果皮)に含まれているフラノクマリン類は、私たちの消化管の壁に存在するCYP3A4という酵素を阻害(抑制)します。
そのためグレープフルーツジュースを摂取した腸管内ではCa拮抗薬などの薬は分解されずに、そのまま腸管から血中に取り込まれます。
そのため薬剤の血中濃度が高くなり、効き目も強くなるというのが、グレープフルーツジュースとCa拮抗薬との相互作用の流れです。
尚、グレープフルーツジュース250mlに含まれるフラノクマリン類の量が74~226㎎であるのに対して、グレープフルーツの果実1個(実の部分だけ)に含まれるフラノクマリン類の量は165㎎ということで、グレープフルーツジュース1本(250ml)とグレープフルーツの果実1個に含まれるフラノクマリン類の量は同程度であることが報告されています。
また、一度摂取したグレープフルーツの果実またはグレープフルーツジュースによって腸管のCYP3A4は3日~4日阻害され続けます。
イメージとしては腸管のCYP3A4という酵素の機能が75%復活するまでに3日を要し、90%回復するまでには4日を要することが報告されています。
また、イメージ通りかもしれませんが、Ca拮抗薬などの薬を飲んで、1時間後にグレープフルーツジュースまたはグレープフルーツの果実を食べた場合を①群、グレープフルーツジュースまたはグレープフルーツの果実を食べてから1時間後にCa拮抗薬などの薬を飲んだ群を②群としますと
グレープフルーツジュースまたはグレープフルーツの果実を食べずに薬だけを飲んだ群と比較して
ニフェジピンを例にだしますと
①群では吸収量が1.1倍に増加し、②群では1.3倍に増加することが報告されています。
これは、グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン類が私たちの腸管の壁にくっつくタイミングによって、薬の吸収量が変化したことを示しています。
また、先ほども記載しましたが、フラノクマリン類は3~4日、腸管にくっつき続けますので、タイミングをずらせばよいということではないことをご理解ください。
ここまでを前提条件としまして、一つ極端な例をご紹介します。
2025年時点では、ほとんど使用されていないCa拮抗薬の話なので、読み流す程度の薬についてのデータです。
スプレンジ―ル錠(フェロジピン)というCa拮抗薬があります。この薬を水で飲んだ場合の最高血中濃度および体に取り入れられた量をそれぞれ100とした場合、
グレープフルーツジュース250mlでスプレンジール錠1錠を飲んだ場合の最高血中濃度は3.3倍、体に取り入れられた量は2.2倍にそれぞれ増加したというデータです。
さらに、1日3回、5日間にわたり、グレープフルーツジュース250mlを飲んだ場合(合計250mlを15回)では、最高血中濃度は4.3倍、体に取り入れられた量は3.1倍にそれぞれ増加したというデータもあります。
グレープフルーツジュースを飲んだ量と、薬の吸収量は比例しているわけではありませんが、グレープフルーツジュース250mlの飲む回数が増えるたびに腸管のCYP3A4が阻害される量が増え、体に取り込まれる薬の量も増えることが見て取れます。
もう一つ、苛酷試験のような臨床データをご紹介します。
2倍濃縮されたグレープフルーツジュース200mlを1日3回、2日間のみ、3日目にリピトール錠40㎎を200㎎のグレープフルーツジュースで飲み、更にその30分後と90分後にグレープフルーツジュースを200mlずつ飲んだ場合のリピトール錠の最高血中濃度は変化はみられなかったが、体に取り入れられた量は2.5倍に上昇した
というデータがあります。
リピトール(アトルバスタチン)の場合は、高用量・高濃度のグレープフルーツジュースと併用した場合のデータが公開されているだけなんですね。
私の体験ですが、週に1回程度グレープフルーツを(半分)を食べる人で、毎日アトルバスタチン5㎎を飲んでいる患者さんがおられるのですが、この方の採血データに関しては、LDL-CHOの数値はグレープフルーツを食べ始める前と後で大きな変化はないとコメントしていたことを記憶しております。
(上記は個人のデータですので、参考までにしてください)
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では、ここから先は使用頻度の高い医薬品について、グレープフルーツジュースとの併用データを開示します。
アムロジン(アムロジピン)
グレープフルーツジュースによるアムロジピンの血中濃度の上昇は軽度(Cmax 115%、AUC 116%に上昇)で血圧と心拍数に影響はなかったとの報告 )及び薬物動態と血圧に影響はなかったとの報告 )がある。(グレープフルーツジュース:200~400ml)
アダラート(ニフェジピン)
グレープフルーツジュースと一緒に飲むと最高血中濃度2倍、体に取り込まれる量2倍へ増加
アテレック(シルニジピン)
グレープフルーツジュースと一緒に飲むと最高血中濃度2.3倍、体に取り込まれる量2.3倍へ増加
カルスロット(マニジピン)
グレープフルーツジュースと一緒に飲むと最高血中濃度2~3倍、体に取り込まれる量2.4倍へ増加
カルブロック(アゼルニジピン)
カルブロック錠8mgをグレープフルーツジュースとともに単回経口投与したところ、水で服用した場合に比較して最高血中濃度は2.5倍(1.6~3.2倍)、体に取り込まれる量は3.3倍(2.3~4.3倍)に増加
サムスカ(トルバプタン)
サムスカ錠をグレープフルーツジュースにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は1.9 倍、体に取り込まれる量は 1.6 倍に増加
ザルティア(タダラフィル)
グレープフルーツジュースにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は1.2 倍、体に取り込まれる量は 3.1 倍に増加
ハルシオン(トリアゾラム)
グレープフルーツジュース250mlにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は1.3 倍、体に取り込まれる量は 1.5 倍に増加
ビラノア(注意:吸収阻害により効き目が低下)
グレープフルーツジュース240mlにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は0.6 倍、体に取り込まれる量は 0.7倍に低下した
プレタール(シロスタゾール
グレープフルーツジュース250mlにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は1.5 倍、体に取り込まれる量は 1.1 倍に増加
リポバス(シンバスタチン)
グレープフルーツジュース200mlにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は3.9 倍、体に取り込まれる量は 4.3倍に増加
ルパフィン(未変化体)
グレープフルーツジュースにより服用した時、水で服用した場合と比較して最高血中濃度は2.8 倍、体に取り込まれる量は 4.1倍に増加