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2025年11月12日、日本の医療界に希望をもたらす画期的なニュースが飛び込んできました。国立成育医療研究センターの森田英明研究部長らのグループが、これまで治療が困難とされてきた重いアレルギー性疾患(脱毛症、アトピー性皮膚炎など)を引き起こす新たな遺伝子変異「JAK1(ジャック・ワン)」を発見し、さらにこの遺伝子の働きを抑える既存薬を用いることで、患者さんの症状改善に成功したと発表しました。
この発見は、アレルギー疾患の根本的な原因解明と、個別化医療の推進に大きな一歩となるものです。
アレルギー疾患は、単に生活環境だけでなく、遺伝的要因も複雑に絡み合って発症することが知られています。特に、重症のアレルギー症状を示す患者さんの中には、ステロイド剤などの一般的な抗炎症治療では症状が改善しない「難治性」のケースが少なくありませんでした。これは、従来の治療法がアレルギー反応の「結果」に対処するものであり、その根本原因にまで踏み込めていなかったためと考えられています。
森田研究部長らのグループは、重い脱毛症やアトピー性皮膚炎に苦しみ、従来の治療では効果が見られなかった一人の男の子の患者さんに着目しました。詳細な遺伝子解析を行った結果、これまで報告されていなかった「JAK1」遺伝子にごくわずかな変異を発見しました。
「JAK1」は、細胞内で様々なサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)のシグナルを伝達する重要な酵素であり、免疫反応や炎症反応の調節に深く関与しています。今回の研究では、この特定の変異がJAK1酵素の活性を異常に高め、過剰な炎症反応を引き起こしていることが、細胞を使った実験で明らかにされました。
具体的には、変異型JAK1を持つ細胞では、通常よりもサイトカインのシグナル伝達が活発になり、炎症性物質の産生が促進されることが確認されました。このメカニズムの解明が、次の治療戦略へと繋がります。
この発見のさらに素晴らしい点は、この「JAK1」の働きを抑える薬が既に実用化されていたことです。リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬として開発されたJAK阻害薬は、まさにJAK1をはじめとするJAKファミリー酵素の活性を抑制することで、過剰な免疫反応を鎮める効果が期待できます。
このJAK阻害薬を変異を持つ男の子の患者さんに投与したところ、驚くべきことに約5ヶ月後には脱毛症がほぼ完治し、長年苦しんでいた皮膚炎も劇的に改善したとのことです。これは、遺伝子レベルで疾患の原因を特定し、それに対応する治療薬をピンポイントで投与する「精密医療」の成功事例と言えるでしょう。
今回の成功は、アレルギー疾患治療における新たな扉を開いたものですが、森田研究部長は「アレルギーの原因を調べる遺伝子検査はまだ実用化されておらず、今回の患者さんのように対応する薬があっても治療に結び付かないケースは一定数ある」と指摘しています。
現在、多くの患者さんがアレルギー症状に苦しみながらも、その根本原因が特定されずに一般的な治療を漫然と続けている状況があります。もし、遺伝子検査が広く実用化されれば、以下のようなメリットが期待されます。
早期診断と精密な治療計画: 患者さん一人ひとりの遺伝的背景に基づいた、最適な治療薬の選択が可能になります。
新薬開発の促進: 既存薬が効かない遺伝子変異を持つ患者さんに対しては、その変異をターゲットとした新たな治療薬の開発に繋がる可能性があります。
不必要な治療の回避: 効果が期待できない治療を避け、患者さんの身体的・経済的負担を軽減できます。
この研究は、アレルギー疾患の分野における個別化医療の重要性を改めて浮き彫りにしました。遺伝子検査の実用化に向けたさらなる研究開発と、医療現場への導入が強く望まれます。
国立成育医療研究センターによる「JAK1」遺伝子変異の発見と、それに基づく治療成功は、難治性アレルギー疾患に苦しむ患者さんとそのご家族にとって、まさに希望の光です。この画期的な成果が、遺伝子検査の早期実用化、そしてすべてのアレルギー患者さんが最適な治療を受けられる未来へと繋がることを期待します。
神奈川県立産業技術総合研究所の景山達斗研究員と横浜国立大学のグループが「オキシトシン」に毛根の成長を促す効果があることを発表しました。
出産前や授乳期の女性で体毛が濃くなったという体験談を調査し、同時期に多く分泌される「オキシトシン」に毛の成長を促す働きがあるのでは?という研究を行いました。
その結果、ヒトの細胞から毛根の「毛包」を作成し、オキシトシンを振りかけて経過を観察したところ、6日目の時点でオキシトシンを振りかけた組織の長さが1.3倍になっていたことを報告しました。また、オキシトシンの量を増やすほど、毛の成長に関わる遺伝子が活発に働くことも発表されました。
Effects of oxytocin on the hair growth ability of dermal papilla cells – PMC (nih.gov)
製薬会社のファイザーは円形脱毛症治療薬「リトレシチニブトシル酸塩かプセル」の製造販売承認申請を厚生労働省に行いました。
リトレシチニブはJAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬という作用機序をもつ飲み薬です。
円形脱毛症における脱毛の原因となるシグナル伝達分子、免疫細胞の作用を阻害することで、毛髪の再成長を誘発する作用が示されています。
頭皮脱毛50%以上の状態の円形脱毛症患者(718名)が治験に参加したデータによると、リトレシチニブ30mgまたは50mgを1日1回服用し24週間後(半年後)の頭皮の状態を確認したところ頭皮脱毛が20%以下となる割合が統計的に有意に多くなったことが示されています。
(かなりの割合の患者で頭皮脱毛率が20%以下となった)と記されています。
有害事象
一般的なもの:鼻咽頭炎・頭痛・上気道炎
治験参加者の8名で軽度~中等度の帯状疱疹を発症しています。
治験参加者の1名で肺梗塞証を発症しています。(50mg群服用)
治験参加者の2例で乳がんが報告されています(服用から68日目、195日目)
ファイザー「円形脱毛症治療薬:リトレシチニブを医薬品として承認申請」
米食品医薬品局(FDA)は2022年6月13日、オルミエント錠に対し、1日1回の投与で「重症円形脱毛症」の適応追加を承認しましたが、日本国内でもも同様の適応症が追加されました。
厚生労働省は2022年6月20日、「円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)」を効能効果とする新効能・新用量を追加しました。日米でほぼ同時期に適応症が追加されるのは珍しいですね。国内国外を問わず非常にニーズが高い治療であると感じます。
オルミエントの投与を開始してから治療反応が通常は36週目までには得られる。36週目までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮すること。
4mgを1日1回経口投与する。患者の状態に応じて2mgに減量すること。
臨床データ(頭髪の脱毛なし:0、頭部全体が脱毛:100)
円形脱毛症の重症者(50~94)および極めて重症者(95~100)の被験者654名を対象として、オルミエント錠2mgまたは4mgを36週間(8~9カ月程度)服用した時点での円形脱毛症の回復度合いを調べています。
円形脱毛症の範囲が20以下までかいふくした割合
プラセボ群(偽薬群):2.3%(189人中10人)
オルミエント2mg服用群:21.7%(184人中40人)
オルミエント4mg服用群:35.2%(281人中99人)
オルミエント錠に重症円形脱毛症の適応追加(米国)
オルミエント錠を製造しているイーライリリーは「オルミエント錠に重症円形脱毛症の適応が追加されたことは、歴史的瞬間であり、同剤が重症円形脱毛症に人々に重要な意味を持つことを喜んでいる」
とコメントしています。
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セファランチンはタマサキツヅラフジという生薬植物を抽出および精製して作成された製剤であり、主な薬理作用は生体膜安定化作用、マムシ毒による致死の抑制作用、、副腎皮質ホルモン産生増加作用、放射線による白血球減少抑制作用、円形脱毛症改善作用、粃糠性脱毛症改善作用などの効果が報告されているものの、具体的な作用がなかなか把握しきれない薬であると感じています。
今回はセファランチンの薬理作用の中でも特に円形脱毛症についての薬理作用を調べてみようと思います。まずはセファランチンのインタビューフォームから円形脱毛症の薬理作用に該当する部分をピックアップしてみます
セファランチンは細胞膜を形成する脂質二重層へ取り込まれることにより、膜撹乱物質による細胞膜の流動性を低下させ、膜構造と機能の障害を抑制していることが確認されています。具体的に生体膜のホスホリパーゼA2の活性化並びにアラキドン酸の遊離を抑え、血小板凝集、K+の遊出を抑制することで生体膜の安定化作用を認められています。
肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用が確認されています
下垂体を介し、血中のACTHを上昇させることにより、副腎皮質および血中のコルチコステロンの産生を高める作用が認められています。
末梢血管の拡張ならびに血流を促進し、末梢循環障害を改善する作用が認められています。
経皮的に毛成長機構に作用し、毛成長促進作用を有することが認められている。また毛乳頭細胞増殖傾向が認められています。
実際の臨床効果としては
円形脱毛症・粃糠性脱毛症に対する効果
「有効」以上が50%、「やや有効」以上が65%
円形脱毛症への効果に関して2010年の日本皮膚科学会ガイドラインではセファランチンを内服することによる効果を「C1:単発型および多発型の症例に併用療法の1つとして用いてもよい」と分類しています。具体的な報告内容ではセファランチンの内服で脱毛範囲が縮小することを示唆する弱い根拠が見出されている程度です。(多発型円形脱毛症において2剤の経口剤(セファランチ+グリチルリチン製剤)よりも経口剤1剤+外用剤1剤(セファランチン+塩化カルプロニウムまたはステロイド外用薬)を使用することで治癒率が45%から80%前後まで上昇するというデータがあります)
また、マウスの毛成長に関するデータとしては、「セファランチンによりマウスの背部毛の有意な毛成長促進作用を認め、毛乳頭細胞増殖促進傾向を認めたため、セファランチンは経皮的な毛成長促進作用を有することが明らかとなった。末梢血管拡張作用による毛成長促進だけでなく、毛乳頭細胞に直接作用する作用機転が存在する可能性も考えられる」という報告があります。
これらセファランチンの臨床データをもとにして、円形脱毛症治療で皮膚科を受診されている患者さんにセファランチンが処方された際に、私が患者さんへお伝えする内容について下記いたします。
セファランチンを初めて服用される患者さんへお伝えすること
「これは発毛を促す働きかあるお薬です。頭皮の血流を改善することで毛根を活性化するはたらきに加えて、発毛の司令塔である毛乳頭細胞という部分に直接働きかけて発毛を促す効果があります。
さらに頭皮の炎症症状を抑える効果もあります(ステロイド様効果)。効果の発現時期は個人差がありますので自己調節せずに使用してください。漢方薬の成分である生薬を原料にして作られた薬ですので副作用はそれほど多くはありません。極稀ですが痒みや胃腸障害を感じることがあれば先生に伝えてください。