「ロキソニン錠」は効くんだけど、「後発医薬品のロキソプロフェン錠」は効かないんです。という患者さんの声を耳にしたことがあります。ロキソニン錠のように頓服で使用する痛み止めは「シャープな効き目」が勝負です。しかし「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」という言い回しが「効かないかも」という先入観としてインプットされてしまうと、それが余計なバイアスとなり、初めて飲む薬であったとしても「シャープな効き目の阻害」となる要因となります。
後発医薬品(ジェネリック医薬品)という言葉は、ここ数年で非常に患者さんに認知されており、「値段が安い薬」という認識は広まってきています。あとは各薬局が在庫している後発医薬品について、「効き目」が先発医薬品と比べて、どの程度の誤差なのかを把握していれば、いつでも患者さんに安心して薬を使用してもらうことができます。特に頓服薬として使用する薬は「定常状態を持たない薬」ですので効き目がシャープに表れます。そのため頓服薬として使用する薬の後発医薬品について、具体的なデータが手元にあれば非常に有用な情報を患者さんいお伝えることができます。
そこで、今回はロキソニン錠とその後発医薬品(ジェネリック医薬品)であるロキソプロフェン錠に関して「効き目」にどの程度の違いがあるかについて調べてみました。
後発医薬品の(ジェネリック医薬品)を製造する際のルール
後発医薬品(ジェネリック医薬品)は厚生労働省が定めた「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に則って製造されており、このルールは世界共通となっています。
生物学的同等性試験ガイドラインの中からポイントになる数値をピックアップしてみます。
標準製剤の含量又は力価はなるべく表示量に近いものを用いる。また,試験製剤と標準製剤の含量又は力価の差が表示量の5 %以内であることが望ましい。
~薬物動態測定法~
採取体液(血液・尿)を用いる場合、投与直前に1点、Cmaxに達するまでに1点、Cmax付近に2点、消失過程に3点の計7点以上の体液の採取が必要である
~生物学的同等の許容域~
AUC及びCmaxが対数正規分布する場合には、試験製剤と標準製剤のパラメータの母平均の比で表すとき0.8~1.25である。AUC及びCmaxが正規分布する場合には、試験製剤と標準製剤のパラメータの母平均の差を標準製剤の母平均に対する比として表す時-0.2~+0.2である。
~同等性の判定~
試験製剤と標準製剤の生物学的同等性評価パラメータの対数値の平均値の差の90%信頼区間がlog(0.8)~log(1.25)の範囲にあるとき、試験製剤と標準製剤は生物学的に同等と判定する
では実際にロキソニン錠およびロキソプロフェン錠の効き目について添付文書のデータをもとに比較してみます。
各後発医薬品(ジェネリック医薬品)の添付文書の薬物動態という欄には標準製品(ロキソニン錠)と後発医薬品(ジェネリック医薬品)との薬物動態パラメーターが記載されています。本来であればAUC(血中濃度-時間曲線下面積)およびCmax(最高血中濃度)という2つのデータを用いて比較したいところなのですが、各後発医薬品の添付文書を確認したところAUCの表記時間が4時間~8時間とバラバラであり、計測時間が異なるため同一時間でのAUCを比較することができません。
そのため今回の比較はCmaxでのみ検証しております。またロキソニン錠はプロドラッグであるため効き目を検証するためには本来であれば活性代謝物を測定しなければなりません。しかし生物学的同等性試験ガイドラインでは原則として未変化体(ロキソプロフェンとして)としての薬物動態を測定することとなっており、代謝物の薬物動態を表記する義務はありません。そのため一部のメーカーを除いて活性代謝物の薬物動態は記載されておりませんでしたので、今回は未変化体(ロキソプロフェンとして)のCmax、Tmax、t1/2、について検証しておりますことをご了承ください。
先発医薬品であるロキソニン錠のCmaxは5.04㎍/mlです。(標準偏差を除く)しかし、各後発医薬品の添付文書に記載されている標準製品(ロキソニン錠)のCmaxは3.37~8.38㎍/mlとバラつきがあります。おそらく測定機器の違いによるものと思いますが、これでは、ただデータを並べても比較ができません。そこで各後発医薬品の標準製品Cmaxをロキソニン錠のCmaxである5.04㎍/mlと換算したとして、後発医薬品のCmaxを相対的に計算し、比較してみました。
計算式
(5.04㎍/ml)÷(各後発医薬品に記載されている標準製品のCmax)×(後発医薬品のCmax)
上図が標準製品のCmaxをそろえた時の各後発医薬品のCmaxです(相対的Cmaxとして記載しております)。Tmaxおよびt1/2については添付文書通り記載しました。図をみるとロキソニン60mgを中心として90~110%の間に各後発医薬品のCmaxが含まれていることが分かります。データをみるとサンロキソ錠60mgのCmaxが低く、ロキプロナール60mgのCmaxがロキソニンの1.1倍であることが分かります。(あくまで添付文書上のデータであり、実際の効果には個人差があります)
例えば相対的Cmaxを「効き目」、Tmaxを「効き目の早さ」、t1/2を「効果時間」と表現するのであれば、Cmaxが「大きく」、Tmaxが「短く」、t1/2が「長い」後発医薬品があれば、それは先発医薬品であるロキソニン錠に比べて、ほんの気持程度ですが「少しだけ早く、少しだけ長く、少しだけ良く効く」と表現してもいいかもしれません。
(あくまで私独自の解釈です)
図の赤色で示した数値が先発医薬品のロキソニンに比べて”少しだけ優っている”部分です。ロキプロナール60mgやロキソプロフェンNa「日医工」60mg、ロキソプロフェンNa「ファイザー」60mgを採用している薬局であれば、「ロキソニン錠の後発医薬品って効くの?」という患者さんに対して「データ錠はロキソニン錠と同等か又は、誤差の範囲かもしれませんが早く長く良く効くジェネリック医薬品を選定して採用しております」とデータ値に則って効き目を伝えることができるかもしれません。また、勤務している店舗で採用しているロキソプロフェン錠がロキソニン錠に比べて全要素が優っていなかったとしても、優っている要素が1つでもあれば、それを”ウリ”に説明してもいいかもしれません。
ロキソニン錠の後発医薬品(ジェネリック医薬品)であるロキソプロフェン錠の効き目についてCmax(最高血中濃度)を相対的に比較したところ、ロキソニン錠に比べてCmaxは90~110%の範囲にあることが分かりました。
またTmax(最高血中濃度到達時間)についてはロキソニン錠が27分(0.45hr)であるのに対し、ロキソプロフェン錠は18~40分(0.3~0.67hr)であり、t1/2(半減期)についてはロキソニン錠が1時間13分(1.22hr)であるのに対し、ロキソプロフェン錠は59分~1時間36分(0.99~1.61hr)であることが分かりました。
薬の効果を患者さんにお伝えする時は、上記データはあくまで平均値であり、先発・後発医薬品を問わず、薬の効果には個人差があることを十分に考慮する必要があります。