久光製薬からモーラスパップXR120mgという製品が発売されます。今回はこの薬の発売に至る経緯、既存のモーラスパップおよびモーラステープとの違いについて調べてみました。
販売元の久光製薬では、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)であるケトプロフェンの浸透性を高め、慢性疾患である「腰痛症」にも効果を発揮させるためにケトプロフェンを2%含有する1日1回貼付のテープ剤であるモーラステープ20mg及びモーラステープL40mgを製造販売しています。
NSAIDS貼付剤の剤形はパップ剤及びテープ剤がありますが、それぞれの製剤は特徴、使用感、患者さんの好みにより使い分けられています。しかし「腰痛症」に対する効能・効果を有するNSAIDS含有パップ剤はナボールパップ(ジクロフェナクNaパップ)のみです。パップ剤を好む腰痛症患者さんの選択肢を増やすために開発されたのが1日1回貼付のパップ剤「モーラスパップXR120mg」というわけです。
ボルタレンゲル(ジクロフェナクゲル・ジクロフェナクNaクリーム)
ボルタレンテープ(ジクロフェナクNaテープ)
ボルタレンローション(ジクロフェナクローション)
ナボールパップ(ジクロフェナクパップ)
モーラステープ(ケトプロフェンテープ)
スミルスチック(フェルビナク含有製剤)
スミルローション
スミル外用ポンプスプレー
ノルスパンテープ
上記品目に「モーラスパップXR120mg」が加わります。
貼り薬の構造は支持体、薬成分、剥離フィルムの3層構造になっています。3層構造の薬成分おいて、水溶性基剤に薬成分を練りこんでいる製剤をパップ剤とよび、脂溶性基剤に薬成分を練りこんでいる製剤をテープ剤とよんで区別しています。
貼り薬の効き目を考える場合、「薬成分(膏体)」の濃度が指標となります。
例えばモーラスパップ30mgおよびモーラスパップ60mgの場合は
膏体質量10g(1枚)中にケトプロフェン30mgを含有しています(ケトプロフェン0.3%)
一方、モーラステープ20mgおよびモーラステープL40mgの場合は
膏体1g中にケトプロフェン20mgを含有しています(ケトプロフェン2%)
つまり膏体濃度を確認してみるとテープ剤はパップ剤に比べて6.7倍のケトプロフェン濃度を有していることがわかります。効能効果が6.7倍になるかというとそこまで差はなく
モーラスパップ30mg:Cmax:43.11ng/ml、Tmax:12hr、AUC(0→12hr):322ng・hr/ml
モーラステープ20mg:Cmax:135.85ng/ml、Tmax:12.7hr、AUC(0→12hr):1086 ng・hr/ml
モーラスパップとモーラステープの効能効果を比べると
およそ3倍のCmaxおよびAUCであることがわかります。
(モーラスパップ20mgのAUC0→12hrについてはインタビューフォームのグラフより概算しております)
新発売されるモーラスパップXR120mgについて膏体濃度を調べてみると
膏体6g中にケトプロフェン120mgを含有しています(ケトプロフェン2%)
つまり膏体濃度はモーラステープと同じケトプロフェン2%であることが分かります。
さらに膏体量についても着目します。
モーラスパップ30mgは10cm×14cmの大きさに対して膏体質量10gという製剤です。
モーラステープL40mgは10cm×14cmの大きさに対して膏体質量2gという製剤です。
新発売されるモーラスパップXR120mgは同じ10cm×14cmの大きさに対して膏体質量が6gと添付文書に記載されています。
偶然か計算かはわかりませんが、ちょうどパップ剤とテープ剤の中間の膏体質量であることがわかります。パップ剤を好む方にとっては、少し薄めのパップ剤のように感じるかもしれません。(シップ特有のプヨプヨとしたゼリー感が少ないように感じるかもしれません)
~モーラスパップXR120mgの効き目について~
上記の内容からモーラステープと同じ程度の効き目であることが推測されます。実際にモーラスパップXR120mgのインタビューフォームを確認してみると、ラット10匹に対して鎮痛効果を検証したデータではモーラステープL40mgとモーラスパップXR120mgとで同程度の鎮痛作用を示したというデータが記載されています。それ以外の効能効果を示すデータはモーラステープ20mgまたはモーラステープL40mgのデータを参考データとして引用記載されています。
~モーラスパップXR120mgについてのまとめ~
・ナボールパップ(ジクロフェナクパップ)に次いでパップ剤で「腰痛症」の適応を有する2剤目の製剤として発売されます
・モーラステープ20mg・モーラステープL40mgと同じ膏体濃度(ケトプロフェン2%)製剤です
・パップ剤でありながら膏体量は既存のモーラスパップ30mgよりも少なめです(6割程度)
・モーラステープと同様に1日1回貼付します
・インタビューフォームのデータは、ほぼモーラステープと同じです
・祐徳薬品からは併売されず、久光製薬オリジナル製剤です
モーラステープの膏体濃度(ケトプロフェン2%)を調べるにあたり、念のためモーラステープのジェネリック医薬品(ケトプロフェンテープ)についてもも同様に膏体濃度を調べてみました。すると
ケトプロフェンテープ「SN」、ケトプロフェンテープ「杏林」、ケトプロフェンテープ「日医工」、ケトプロフェンテープ「BMD」、タッチロンテープ、フレストルテープ、レイナノンテープ、ロマールテープという8製剤において
膏体0.7g中にケトプロフェン20mg含有(ケトプロフェン2.86%)
という膏体濃度の製剤があることを知りました。
先発医薬品であるモーラステープの膏体濃度は2%ですので、上記後発医薬品のケトプロフェン濃度は2%に対して143%UP(1.43倍)であることがわかります。
「局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドライン」によると
生物学的同等性の許容域
生物学的同等性の許容域は,同等性評価パラメータが対数正規分布するとみなせる場合には,試験製剤と標準製剤のパラメータの母平均の比で表すとき,作用が強い医薬品では0.80~1.25,作用が強い医薬品以外の医薬品では0.70~1.43である。と記載されています
ケトプロフェン製剤はおそらく作用が強い医薬品以外の医薬品に分類されるのでしょう。上記後発8製剤の製薬会社は効能効果を十分に発揮できるように1.43倍ぎりぎりまで意図的にケトプロフェン膏体濃度を上げて製剤を作ったのではないか、と私は推測します。(あくまで私独自の解釈です)
では、実際の鎮痛効果について確認してみます。
モーラステープまたは上記8製剤を使用してみて
腰痛症および変形性関節症を改善した割合を確認してみると
モーラステープ
腰痛症:中等度改善率;63%(155/246)、軽度改善率;89.8%(221/246)
変形性関節症:中等度改善率;68%(155/228)、軽度改善率;93.4%(213/228)
上記8製剤のケトプロフェンテープ(おそらく上記8製剤は同一成分だと思います)
腰痛症:中等度改善率;60%(12/20)、軽度改善率85%(17/20)
変形性関節症;45%(9/20)、軽度改善率;85%(17/20)
という臨床成績でした。
上記8製剤は膏体濃度を1.43倍に高めたにもかかわらず腰痛症では同程度の効果、変形性関節症では見劣りする効果となっています。(有意差はないので、あくまで数字上の比較です)
後発医薬品外用テープ剤の生物学的同等性ガイドラインにおいては血中濃度(CmaxやAUC)を測定する義務はありません。そのため上記後発医薬品8製剤とモーラステープの効能を比較するためには、20人の腰痛症患者さんを対象として行われた臨床報告(上記データ)とラットに対して行われた薬力学的試験(抗炎症作用試験・Cmax・AUCなどの薬物動態)を見比べるしかありません。正直、後発医薬品側の症例母数が少ないことと、被験者の主観を改善度合いとして比較しているのデータであるため、なんとも捉えにくい比較データであると感じます。
モーラステープの後発医薬品は上記8製剤以外にもまだあります。ケトプロフェンテープ「ラクール」、ケトプロフェンテープ「東光」
この2製剤はモーラステープと同じケトプロフェン2%製剤です。
~モーラスパップXR120mgの開発経緯~
臨床成績も
腰痛症:中等度改善率;65.2%(15/23)、軽度改善率85.6%(19/23)
変形性関節症;65%(13/20)、軽度改善率;85%(17/20)
と先発医薬品に近いデータとなっています。後発医薬品ごとの値段を比べると
上記8製剤(ケトプロフェンテープ「SN」などのケトプロフェン2.86%製剤)が14.3円なのに対してケトプロフェンテープ「ラクール」などのケトプロフェン2%製剤は9.4円と割安になっています。
(鎮痛効果に関しては、あくまで添付文書に記載されている被験者20人のデータを記載しているだけです。実際の効果は個々で異なると思います)
ケトプロフェンテープ剤に関して、特にどのメーカーの薬が良いという評判は聞いたことは私はありません。あくまで使い勝手が良い製品がよいかとは思いますが、上記データの特徴は頭に入れておいてよいかと思います。
後発医薬品の選定は薬局(または会社)の事情があるのでさまざまかとは思いますが、各製剤について具体的に調べてみると”差”が見えてくる品目があることが今回わかりました。