日本国内での使用量はそれほど多くありませんが、海外で利尿・降圧剤として頻用されているヒドロクロロチアジドについて興味深い報告がありました。ヒドロクロロチアジドの使用量に比して基底細胞癌・扁平上皮癌(非メラノーマ皮膚がん)の発症リスクが上昇するという報告をデンマークの研究チームが行いました。
以前からヒドロクロロチアジドを服用している患者さんで、日光にあたると皮膚の発疹・腫脹・色素沈着などの皮疹に関する副作用が報告されており、口唇癌の発症リスクについての関連性が指摘されていました。
今回のデンマークの研究チームの報告は、累積ヒドロクロロチアジドの使用量(1995〜2012年)と基底細胞癌・扁平上皮癌(非メラノーマ皮膚癌)の発症リスクについてオッズ比を用いて報告しています。
ヒドロクロロチアジドと非メラノーマ皮膚癌の発症リスクについて
結果
ヒドロクロロチアジドの累積服用量が5万mg以上の郡
基底細胞癌の発症リスク:1.29倍
扁平上皮癌の発症リスク:3.98倍
ヒドロクロロチアジドの累積服用量が20万mg以上の郡
基底細胞癌の発症リスク:1.54倍
扁平上皮癌の発症リスク:7.38倍
ヒドロクロロチアジドの累積使用量と上記癌の発症リスクについては用量反応関係を示しております。また、他の利尿薬や降圧剤の使用では基底細胞癌・扁平上皮癌の発症リスクとの関連性は認められなかったと報告しています。
国内で使用されているヒドロクロロチアジド錠
エカード配合錠LD/HD:ヒドロクロロチアジドを6.25mg含む
コディオ配合錠MD:ヒドロクロロチアジドを6.25mg含む
コディオ配合錠HD:ヒドロクロロチアジドを12.5mg含む
プレミネント配合錠LD/HD:ヒドロクロロチアジドを12.5mg含む
ミカトリオ配合錠:ヒドロクロロチアジドを12.5mg含む
私的にはヒドロクロロチアジドは、上記のような配合錠の出始めの頃にARBとの合剤として使われていた印象があります。国内におけるヒドロクロロチアジドの使用例はARBによる降圧作用の補佐的な“塩抜き”の役割として使われることが多いように感じます。
上記の使用量で1日1回ヒドロクロロチアジドを服用した場合、累積使用量が5万mg以上となるまでには6.25mgで22年、12.5mgで11年の服用期間を要します。さらに累積使用量が20万mg以上となるまでには6.25mgで88年、12.5mgで44年という歳月の間、ヒドロクロロチアジドを服用し続ける計算となります。
(非メラノーマ皮膚癌の発症リスクに関しては日光(紫外線)の照射時間が主要リスク因子となりますので、生活環境における紫外線による侵襲性リスクを最優先で考慮する必要があるかと思います)
この報告では欧米で頻用されているヒドロクロロチアジドについてものでしたが、日本国内では同類薬であるフルイトラン(トリクロルメチアジド)が頻用されています。どちらもサイアザイド系(チアジド系)利尿薬であり光線過敏症・発疹といった副作用が報告されています。一般的にチアジド系利尿薬には光線過敏症の副作用に注意が必要と言われておりましたので、今回の報告を受けて、フルイトランに関しても累積使用量を確認してみてもいいのかもしれません。