降圧剤“ミネブロ錠”が発売されて1年ほど経過しました。医療機関では長期投与が可能となりましたので、今まで以上に手に取る頻度が増えるのかなぁと感じております。
今回はミネブロ錠の特徴の特徴、既存の治療薬との違いをまとめてみました。
血圧を上昇させる生体内物質として「ミネラルコルチコイド」と呼ばれるホルモンがあります。この「ミネラルコルチコイド」は腎臓(尿をつくる臓器)に作用して、昇圧の原因となる「ナトリウム」を体内に残しましょう!という働きをします。
特に“しょっぱい食べ物”が好きな方では、この「ミネラルコルチコイド」ホルモンが活性化していることが報告されており、“ナトリウムを体内に保持する=血圧を高めに保つ“状態が慢性的となり、高血圧に加えて、腎臓などの臓器障害(腎機能低下)などリスクを伴うことになります。
ミネブロ錠は、「ミネラルコルチコイド」が受容体にくっつく作用を妨げる(拮抗する)ことで、腎臓においてナトリウムの再吸収を抑制する効果があります。
(ナトリウムを排泄させる効果があります)。
「ミネラルコルチコイド」は“ステロイドホルモン”とも呼ばれており、ステロイド特有の構造をした物質です。ミネラルコルチコイドの働きを妨げるための薬を考える場合、構造が似ている薬を作ると、受容体とよばれ作用部位にくっつくことができるため有益な薬ができる場合が多いと考えられてきました。
既存の治療薬としては「アルダクトンA錠」や「セララ錠」がミネラルコルチコイドと似た構造を有する薬です。(ステロイド特有の構造を有しています)。
そのためアルダクトンAやセララ錠は降圧作用がある半面、ステロイド特有の副作用(女性化乳房、性欲減退、多毛、月経不順)といった性ホルモン系の副作用が懸念されていました。
ミネブロ錠の画期的な点は、ステロイド特有の構造を有していないにもかかわらず、ミネラルコルチコイド受容体(ミネラルコルチコイドが作用する部位)に選択的に作用する点です。
ミネブロ錠はステロイド特有の構造とは異なる構造の薬であるため、臨床試験における副作用で「性ホルモン系の副作用」が報告されておりません。これはミネラルコルチコイドをターゲットとする薬にとって革新的なことです。
ステロイドホルモンがくっつきやすい受容体には
・ミネラルコルチコイド受容体
・プロゲステロン受容体(女性化乳房の原因となる)
・グルココルチコイド受容体
・アンドロゲン受容体
上記のような受容体が存在します。(ステロイド受容体ファミリー)
例えばアルダクトンA錠はミネラルコルチコイド受容体に作用すると同時にプロゲステロン受容体にもくっつきやすい特徴があるため、降圧作用に加えて、性ホルモン系の副作用も起こりやすい性質があります。
逆にセララ錠はどの受容体にもくっつきにくいため、副作用は出にくいものの主作用(降圧作用)を示すためは、薬の量を増やさなければならないという特徴がありました。
ミネブロ錠はミネラルコルチコイド受容体に非常にくっつきやすい(アルダクトンA錠より4倍くっつきやすい、セララ錠より76倍くっつきやすい)という特徴がある一方で、他の受容体にはくっつきにくいという特徴(選択性が高い)を有している薬です。
更にミネブロ錠は、受容体にくっつくと離れにくいという特徴があるため、アルダクトンAやセララ錠の1/10程度の量を飲むだけで、より長い降圧作用が持続することが報告されています。(半減期が18時間)
ミネブロ錠は食塩摂取量が多い高血圧患者さんに対してナトリウムの排泄を促す作用により十分な降圧効果(-15~-20mmHg)程度の効果が報告されている薬剤です。既存の治療薬と比較して副作用の少ないということも利点となりますので、手に取る機会が増えるかもなぁと感じております。