オルメテック(オルメサルタン)は、良く効く血圧の薬として多くの患者様が使用している降圧剤です。患者様の中にはオルメサルタンの効き目についてインターネットで調べる方も多くおりまして、様々なご質問をいただくケースがあります。特に「効き目の長さ」についてのご質問をいただいたことが何度かありましたので、以下に私の解釈を記します。
オルメサルタンの効き目の指標である半減期を確認してみると「7~11時間程度」と添付文書には記されています。最大血中濃度到達時間は2時間程度と記されています。
(半減期=血液中の薬物濃度が半分になるまでの時間)
上記の記述を見る感じですと、オルメサルタンを飲んだ後、2時間くらいで血液中のオルメサルタン濃度が最大値となって、その後7~11時間ほどかけて半分にまで減る(排泄される(腎臓排泄40%、短銃排泄60%))感じかなぁ、だいたい半日以上は効くのかなぁ。といったデータにも見えます。しかし実際、オルメサルタンは24時間にわたって安定した降圧作用を示します。
以下にその理由を2つ記します。
オルメサルタンの降圧効果は以下のように説明されています
アンジオテンシンⅡ(血圧を上げるホルモン)が血管壁に存在するアンジオテンシンⅡ受容体にピタッとくっつくと血管が収縮して血圧が上がります。オルメサルタンはアンジオテンシンⅡ受容体に覆いかぶさることができる薬です。オルメサルタンがアンジオテンシンⅡ受容体に覆いかぶさると、アンジオテンシンⅡ(血圧を上げるホルモン)が受容体にくっつくことができませんので、結果的に血圧を上げることができなくなる、という降圧効果です。(厳密な表現としましてはアンジオテンシンⅡ受容体にはAT1とAT2があり、今回の記述ではAT1のことアンジオテンシンⅡ受容体と表現しています)
ここで、ポイントとなるのが、一度アンジオテンシンⅡ受容体にくっついたオルメサルタンがどの程度くっつき続けるかということです。受容体にくっつき続ける度合いの指標として“阻害定数・解離定数(Ki)”という指標があるのですが、この阻害定数は値が小さいほど受容体にしっかりくっつくということを意味します。添付文書に阻害定数に関する記載がある品目を探してみると、以下の数値を確認しました。
オルメテックKi:0.57nM(動物名不明)
ブロプレス:Ki:0.56nM(ウサギ大動脈)
ニューロタン:Ki:56nM(ウサギ大動脈)
ディオバン:Ki:2.38nM(ラット大動脈平滑筋細胞)
上記のデータだけでは、なんともいえないのですが、オルメサルタンのKi値が小さい=しっかりくっつくタイプの薬であることがわかります。
実際にオルメサルタンを一定時間作用させた動物の血管を切り出して、水で血管内を洗い流した後、アンジオテンシンⅡを血管内に投与した実験結果によると、
「アンジオテンシンⅡによって血管は収縮しない」
=「アンジオテンシンⅡ受容体にオルメサルタンがくっついたまま離れないために、アンジオテンシンⅡが効かない」
ということが示されています。上記の実験内容は実際に私たちの体の中でも起こりえます。このことを考慮して以下にオルメサルタンが24時間効き目が続く理由を記します。
オルメサルタンは24時間にわたって血圧を低めに保つ効果があります。腎臓で作られる血圧上昇ホルモンが血管の壁にピタっとくっつくと、血圧が上がるのですが、オルメサルタンは血管の壁に存在する“血圧を上昇させる部分”に先回りして張り付くことで血圧上昇を抑えます。オルメサルタンを飲むと小腸から吸収された後、血液中をぐるぐるまわって、血管の壁に張り付きます。飲んでから半日ほど経過すると、血液中のオルメサルタンは徐々に尿や便から排泄されていきます。しかし、血管の壁に張り付いたオルメサルタンは持続的に張り付いたままです。(はがれにくい)。そのため血液中を流れるオルメサルタンの量が減っても、血管壁に張り付いて切るオルメサルタンがある限り、血圧を低く保つ効果が続きます。(24時間、降圧作用が続きます)
飲み薬を服用後、どの程度体の中をぐるぐると流れて排泄されるかを見る指標の一つに“定常状態”があるか、ないか、という指標があります。(定常状態=薬が効いている状態)
オルメサルタンを毎日同じ時間に飲むと以下のような薬物動態を示します。
オルメサルタンの半減期は7~11時間ですので、血液中を流れるオルメサルタンは7~11時間ごとに半分の濃度になることを意味します。1日は24時間ですので、オルメサルタンを0時に飲んだ場合、2時に血中濃度がMAX(100%)となり、9~13時に(50%)となります。その後16~24時までの間に(25%)、23時~翌日までの間に(12.5%)まで血中濃度が下がります。翌日の0時にオルメサルタンを服用しますので、翌日2時には血中濃度が再度MAX(100%)まで上昇します。オルメサルタンを毎日同じ時間に飲み続けると、このような血中濃度の推移を繰り返します。
血液中のオルメサルタン濃度が“0”になることはありません。このような薬を“定常状態がある薬=1日を通して効果が持続する薬”と表現します。
上記しました2つのポイントをまとめます
「オルメサルタンを毎日だいたい同じ時間に飲み続けますと、血液中のオルメサルタンがゼロになることはなく、一定濃度を保つことができます。さらに一度血管の壁に張り付いたオルメサルタンは水で洗い流しても離れないくらい強力に血管壁に張り付け続けることができるため降圧効果は24時間にわたって長く作用することができます。
オルメサルタンを含むアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)における下痢の副作用頻度は以下のような発現頻度で同程です。
オルメテック:0.15%
ブロプレス:0.06%
イルベタン:0.06%
アジルバ:0.3%
ニューロタン:0.02~0.04
ディオバン:0.06%
しかし、オルメサルタンを服用すると「重度の下痢」が生じることが報告され、2013年にFDAがオルメサルタンの使用による「スプルー様腸疾患:重度の下痢」の副作用に関する注意喚起を行いました。
オルメサルタン関連の慢性下痢の特徴は、1日10回程度の下痢が長期間持続・その後の体重減少が自覚症状としてあり、小腸の絨毛委縮や上皮内リンパ球浸潤・小腸粘膜の炎症を特徴としています。オルメサルタン関連の慢性下痢は2012年以降、国内海外を問わず、散発的に報告されており、オルメサルタンの中止によって症状が緩和し、中止から数カ月が経過すると下痢症状は正常化しています。
オルメサルタン関連下痢の発現時期については個人差があり、オルメサルタン服用開始から14日で発症した症例もあれば、5年後に発症した報告もあります。
(オルメサルタン関連の慢性下痢症状発現までの平均期間は服用から3年)
オルメサルタン関連の慢性下痢症状の発症メカニズムはわかっておりませんが、オルメサルタンが腸管のアポトーシス促進作用を介して絨毛委縮をもたらすのではないかと示唆されています。
現状で大きな副作用もなくオルメサルタンを継続服用している方に関しても、1日10回以上の重度の下痢症状が続く可能性はゼロではありませんので、念のための注意喚起が必要かと思われます。