パーキンソン病治療薬”アジレクト“の販売開始から1年が経過し、外来での長期処方が可能となったことをうけて、これまでエフピーOD錠を飲んでいた方の処方がアジレクト錠へ切り替わるケースを多く見かけます。
アジレクト錠の添付文書情には「エフピーOD錠からアジレクト錠へ切り替えを行う際は、エフピーOD錠の投与を中止してからアジレクト錠を開始するまでに少なくとも14日間の間隔を置くこと」と記されています。
アジレクト錠:選択的MAO-B阻害剤
エフピーOD錠:選択的MAO-B阻害剤
両剤はどちらも同じ受容体(モノアミン酸化酵素B)をターゲットとする薬剤ですので、エフピーOD錠を中止後すぐにアジレクト錠を飲んでも良さそうな気もしますが、14日間の休薬期間が必要ということです。今回は、なぜ休薬期間が必要なのか、休薬せずにエフピーOD錠からアジレクト錠を連続服用すると何が起きるのかを調べてみました。
エフピーOD錠もアジレクト錠もどちらも非可逆的にMAO-Bを阻害することが理由となります。“非可逆的“とは一度くっついたら取れないという意味です。
例えば7月1日にエフピーOD錠を飲んだ場合、エフピーOD錠は、MAO-B(グリア細胞膜上に存在する)に、ずーっとくっつき続けてMAO-Bの働きを阻害し続けるということです。いつまで作用するかというと、次のMAO-Bが作られるまでです。MAO-Bが作られるサイクルは2週間に1度程度ですので、7月1日に飲んだエフピーOD錠は7月15日にMAO-Bが壊れるまで作用し続けるということになります。
7月1日にエフピーOD錠を飲んだ方、7月2日にアジレクト錠を飲んでしまった場合、体内ではエフピーOD錠とアジレクト錠によるMAO-Bの取り合いが始まります。エフピーOD錠もアジレクト錠も本来であれば、MAO-Bに非常に選択性の高い医薬品なのですが、体内で同時に存在した場合、MAO-Bとくっつくことができなかった成分が、MAO-AとくっついてMAO-Aを阻害してしまうことになります。
MAO-Aとはノルアドレナリンやセロトニンを分解する酵素です。体の中で行き場を失ったエフピーODやアジレクトがMAO-Aとくっついて、MAO-Aの働きを阻害してしまうと、体内のノルアドレナリンやセロトニン量が増えてしまいます。脳内のノルアドレナリンが急増すると高血圧性緊急症(高血圧クリーゼ)といって血圧が著しく上昇することで脳・心臓・腎臓などに急性の臓器障害が起こる可能性があります。またセロトニン量が急増するとセロトニン症候群といって体温上昇・過度の発汗・心拍数増加・振戦・不随意運動などが生じる可能性があります。
いずれにしても、本来MAO-Bを阻害するための薬が、MAO-Aを阻害してしまうと、生命に危険を伴う副作用が生じかねない状況となります。
海外での臨床例として、アジレクト錠を3~100mgの投与を行った際に、軽躁・高血圧クリーゼ・セロトニン症候群などの有害事象が報告されています。原因はアジレクト錠を増量しすぎたためにMAO-BだけでなくMAO-Aまでも阻害してしまったために脳内のノルアドレナリン・セロトニンが増えすぎて生じた副作用と考えられます。
以上のことから、エフピーOD錠からアジレクト錠へ切り替えを行う際は、MAO-B阻害作用に加えて、MAO-Aまでも阻害してしまう恐れがあるため十分な休薬期間(MAO-Bがリフレッシュする期間として14日間)を設けて薬の切り替えを行う必要があるということがわかりました。