順天堂大学大学院神経学の研究者によりパーキンソン病やレビー小体型認知症、多系統萎縮症の原因物質の一つと考えられている「αシヌクレインの凝集体」を血液検査により検出する技術の開発に成功したことが公開されました。
同チームは、αシヌクレイノパチー患者では脳だけでなく全身の末梢にもαシヌクレインが蓄積することから、「血液を介した経路が関与している」と仮説を立てて
IP/RT-QuIC法によりスクリーニングを実施しましました。
注:IP/RT-QuIC法とは、原因となるタンパク質に、特異的に結合して蛍光を発するチオフラビンTの蛍光強度を測定する方法と、原因タンパク質に特異的な「抗体」を使用して溶液中から原因タンパク質を分離する免疫沈降法を組み合わせて技術です。
IP/RT-QuIC法により被験者の血液中のαシヌクレインの凝集体を検出した結果は以下の通りです。
αシヌクレイノパチー患者270例:感度96.7%
非αシヌクレイノパチー患者55例:感度9%
神経変性疾患のない健常者128例:感度8.5%
パーキンソン遺伝子に変異のある家族性パーキンソン病患者1
例:0%
前駆期αシヌクレイノパチーであるレム睡眠行動異常者9例:感度44%
解析結果、IP/RT-QuIC法による同定は感度96.7%、特異度86.2%と高い精度で健常者とαシヌクレイノパチー患者の鑑別が可能であることが示されました。
さらに別の被験者による検証データでも同様の解析が実施された結果
パーキンソン病患者20例:感度75%
健常者20例:5%
多系統萎縮症15例:53%
という解析結果であることが示されています。
上記の解析手法では、血液中から異常たんぱく質を検出できるようにするには5日間の増幅期間が必要であるとしながらも、IP/RT-QuIC法はαシヌクレインの異常凝集体を検出するバイオマーカーとして非常に有益なバイオマーカーであることを結論付けています。
パーキンソン病は脳内に「αシヌクレイン」という蛋白質が凝集して脳に蓄積することが要因の一つと考えられています。
そして、どうやら脳内には「αシヌクレイン」の蓄積およびパーキンソン病の進行に関して「アベルソンチンチロシンキナーゼ(c-Abl)」が関与していることが示唆されています。
以下は動物実験レベルの話です。
アベルソンチンチロシンキナーゼ(c-Abl)を阻害(働きを抑える)成分があれば、脳内にαシヌクレインが蓄積しないのではないか?という仮定の下、c-Abl阻害剤としてIkT-148009が発見されました。
遺伝性または散発性のパーキンソンマウスに対して1日1回IkT-148009を経口投与した場合、IkT-148009はc-Ablの活性をベースラインまで抑え(阻害)し、ドーパミン神経細胞の変性を大幅に保護したことが報告されました。パーキンソン病のマウスの運動機能については、治療開始後8週間以内に回復が確認され、同時にマウスの脳内ではαシヌクレインの減少が確認されました。
筆者らはIkT-148009について、血液脳関門を通過できるc-Abl阻害剤(経口薬)は遺伝性および散発性のパーキンソンマウスモデルにおいてドーパミン作動性ニューロン障害を回復させたと報告しています。
現時点ではc-Abl阻害剤がシヌクレインを減少させパーキンソン病の進行抑制および症状改善?がマウスレベルで示唆された段階ですが、ヒトへの臨床応用ができるレベルになることを期待したいです。
c-Abl阻害剤「IkT-148009」がパーキンソン病によるニューロン障害を回復させた動物実験報告
自治医科大学の研究グループは、パーキンソン病患者の脳内に遺伝子を投与することでドーパミンの分泌を促すことを目的とした治験を開始しました。被験者は50代の男性患者です。月に1人程度で治験を行い12名を治験対象としてます。
病気の進行で薬の効果が弱くなった患者の前頭部に小さな穴をあけて、大脳の「比較」に直接遺伝子を注入する治療です。
治療効果を持つ「遺伝子」はアデノ随伴ウイルスというDNAウイルスをもとにしており、被殻にあるド-パミン細胞に遺伝子を組み入れることでドーパミンが放出され、パーキンソン病症状が改善するかどうかを確認することを目的とした治験です。
パーキンソン病 患者の脳内に遺伝子投与 国内初の治験始まる | NHK | 医療
量子科学技術研究開発機構はパーキンソン病やレビー小体型認知症の原因物質である「αシヌクレイン」だけによく結合する放射性薬剤「18F-SPAL-T-06」を開発し、αシヌクレインの可視化に世界で初めて成功したことを同ホームページに公開しました。
多系統萎縮症3名(パーキンソン病症状優位型2名、小脳失調症優位型1名)と健常高齢者1名を対象として、18F-SPAL-T-06PET検査を行い、αシヌクレイン蓄積が認められる脳部位とその量を調べました。その結果、健常高齢者と比較して、多系統萎縮症患者では脳深部の大脳基底核の一部である被殻に18F-SPAL-T-06の高集積が確認されたとしています。
量子科学技術研究開発機構「αシヌクレインの可視化に成功」プレリリース
デンマークでの調査によると、インフルエンザ感染が長期的なパーキンソン病の発症リスクを高めるのでは?という報告がありましたので概要を記載します。
被験者
パーキンソン病と診断された患者:1万271例(平均年齢71.4歳)
対象群:非パーキンソン病患者:5万1355例
除外患者:35歳未満の若年性パーキンソン患者・薬剤性パーキンソニズム患者
注)複数回インフルエンザに感染したことがある場合は、初回感染をデータ対象としています。
非インフルエンザ感染者群と比べて、インフルエンザ感染群ではインフルエンザ感染から10年以上経過後に、パーキンソン病を発症するリスクが1.73倍に増加し、15年以上経過後にパーキンソン病を発症するリスクが1.91倍に上昇することが報告されました。
インフルエンザ以外の特定感染症に関しては、10年越えにおけるパーキンソン病発症リスクが上昇したのは尿路感染症のみで、上昇幅は1.19倍とわずかであったと報告しています。
尚、上記の調査において、家族歴は解析対象外としており、遺伝的背景は考慮されておりません。
筆者らは「インフルエンザ感染は感染から10年以上経過後のパーキンソン病発症リスク上昇に関連していた」と結論づけています。
ただし、観察研究であるため、因果関係は証明できないとしています。
新潟大学脳研究所脳病態解析分野の研究チームの報告によると、パーキンソン病の病態形成におけるミトコンドリア、リソソームについての関連について、ミトコンドリア由来のDNAが細胞質に漏出することで、炎症反応や細胞死、神経変性が惹起されるメカニズムが明らかとなりました。
細胞内のミトコンドリアが障害をうけた際に漏出するDNAは、本来であればリソソーム内のDNaseⅡ(DNA分解酵素)によって速やかに分解をうけるのですが、ミトコンドリア機能障害によりミトコンドリアの損傷によるDNA漏出の大量に発生する場合、DNaseⅡによる分解が追い付きません。その結果として、DNAセンサーが働いて炎症反応生じて、細胞毒性・神経変性を誘導することが示唆されました。
また、DNaseⅡの貯蔵庫であるリソソームに機能障害が生じた場合でも、漏出されたDNAを分解することができず、ミトコンドリアDNAが細胞質に蓄積し、細胞毒性・神経変性を誘導することが示唆されました。
パーキンソン病に関連する遺伝子をノックダウンさせた培養細胞による実験により、細胞質内に漏出するミトコンドリアDNAが増加し、細胞死が誘導されたことが報告されました。
また、培養細胞内のDNaseⅡを過剰発現させると、ミトコンドリア由来DNAの分解が進み、炎症反応や神経変性が改善しています。
また、ミトコンドリア由来のDNAを感知する機能を有するIFI16を減少させた場合も、炎症反応や神経変性が改善したことが報告されています。
パーキンソン病の神経変性はミトコンドリア由来のDNAが細胞質に蓄積することが要因
パーキンソン病の原因遺伝子産物と考えられている”Parkin(パーキン)”に関与するミトコンドリア酵素に関する新たな発見がありましたので下記します。
Parkinとは機能が低下したミトコンドリア(細胞内オルガネラの一つ)のみを選択的に除去する作用(マイトファージ)に関連する蛋白質と考えられています。Parkinに変異が生じると、遺伝性若年性パーキンソン病の要因となることが報告されておりますが、Parkinがどうのように細胞死を引き起こしているかについての詳細は不明です。
今回の報告では、ミトコンドリア外膜に存在する4回膜貫通タンパク質”MITOL”がPakinとどのように関与するかについての詳細が解明されたという内容です。
パーキンソン病の関連タンパク質Parkinの制御機構に関するMITOLのはたらきについて
MITOLとはミトコンドリア外膜に存在する酵素(蛋白質)であり、周辺の蛋白質にユビキチンを不可することで、タンパク質の分解を促し、細胞内の品質管理を担っているタンパク質です。
MITOLはParkinと結合することで、Parkinによるミトコンドリアの除去(マイトファージ)を管理していることが報告されました。MITOLを欠如させた細胞内ではPakinが蓄積するとともに、細胞死を抑制させる蛋白質であるFKBP38も減少することが報告されました。一方でMITOLが存在する条件では、Parkinが分解され、細胞死抑制タンパク質であるFKBP38が保護されることが報告されました。
さらに、MITOLとFKBP38は機能低下したミトコンドリアの除去(マイトファージ)の際に、ミトコンドリアから小胞体へ移動する様子も観察されました。
上記の結果から、Pakinによる細胞死において、MITOLがPakinを分解し、FKBP38を保護することで細胞死をコントロールしていることが示唆されました。さらに、MITOLはミトコンドリア外膜だけでなく小胞体へ移行することで細胞機構を調節していることも示唆されました。
過去の知見では、Parkinに変異が生じることでパーキンソン病が発症するのでは?という考えもありましたが、今回の報告では老化に伴うPakinの制御不能がパーキンソン病の原因となる可能性が示唆され、その制御においてMITOLの活性化がポイントとなることも示されました。
今後は、MITOLの活性化(Parkinの分解)を標的とした研究がパーキンソン病の治療戦略になるのでは?と期待されます。