胃酸分泌抑制薬であるPPIまたはH2ブロッカーを長期服用することで鉄欠乏症のリスクが高まるというデータについては2017年にアメリカの研究チームが7万7000人規模の臨床データを公開しています。今回は、PPIやH2ブロッカーを長期間服用することで起こりうる鉄欠乏性貧血について調べてみました。
アメリカのグループが1999年~2013年に新規で鉄欠乏症と診断された7万7046例について胃酸分泌抑制薬の使用歴と鉄欠乏症のリスクについて報告しています。
結果は2年以上胃酸分泌抑制薬を使用した場合
PPI服用群(2343人)では何も飲まなかった群(3354人)と比較して、鉄欠乏性貧血となる割合が2.49倍高いという結果となりました。
(PPIの例:タケプロン・パリエット・オメプラール・ネキシウム)
H2ブロッカー服用群(1063人)では、何も飲まなかった群(3354人)と比較して、鉄欠乏性貧血となる割合が1.58倍高いという結果となりました。
(H2ブロッカーの例:ガスター・アシノン・アルタット・ザンタック・タガメット・プロテカジン)
というデータが報告されました。
鉄剤フェロミア・フェルムカプセル・フェロ・グラデュメット・インクレミンとPPI、H2ブロッカー、制酸剤との併用について
PPI使用群に関しては、PPIの服用を中止すると貧血のリスクが低下したと報告されています。また少なくとも10年間はPPIを1.5錠以上飲み続けている群では、鉄欠乏性貧血リスクが4.27倍と高い値を示すデータ記載されています。
食事から摂取される鉄の吸収部位は小腸の近くで行われるのですが、胃酸の量が減ると、野菜や果物に含まれる鉄(非ヘム鉄)の吸収が特に低下することが示されています。そのため長期的に胃酸抑制状態が継続されると、徐々に貧血傾向が進んでいくのかもしれません。
(PPIの長期摂取により鉄分だけでなくビタミンB12やマグネシウムの吸収低下を報告しているものもあります)
とは言え、ストレス社会において胃酸分泌抑制薬は非常に有用な薬ですので、PPIやH2ブロッカーを継続服用する方が多くいらっしゃいます。薬の副作用に薬を追加することがいいかどうかはわかりませんが、PPIやH2ブロッカーを服用している患者様に対して、貧血対策として鉄剤が処方されるケースはあります。その際に処方される鉄剤は酸性~塩基性まで幅広いpHで溶けることができる鉄製剤(フェロミアなど)が選択されていることを確認してもいいかもしれません。