追記:2020/10/22
中国の研究チームからの報告です。20万人を対象として10年以上にわたって追跡した結果によると、PPIを長期間使用した場合、2型糖尿病のリスクが24%上昇することが報告されました。
PPIを0~2年間使用すると、糖尿病リスクが5%上昇し、2年以上継続使用すると26%上昇すると記されています。
一方で、PPIの使用を中止すると糖尿病のリスクは低下することも記されており、使用中止期間が0~2年間で糖尿病のリスクが17%減少し、2年以上の休薬で糖尿病発症リスクが19%低下することが報告され、PPIの長期間使用と糖尿病リスクとの関連が示唆されました。
https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1009532893/
2019年6月19日追記
胃酸抑制薬としてPPIを飲んでいる方(15万7625例)とH2ブロッカーを飲んでいる方5万6842例を比較した時の、他の病気を併発するリスクや死亡リスクに関するデータが公開されました。(米国退役軍人データベースより長期間服用リスクについて)
PPIまたはH2ブロッカーを飲んでいた方の平均年齢は65.1歳、追跡期間は中央値10年間で、他の病気の併発リスク・死亡リスクを調査したデータです。
死亡人数5万9776人(37.92%)
死亡までの期間(中央値):4.84年
死因:循環器疾患:12.45%、腫瘍(ガン):9.72%、呼吸器系疾患:4.8%
PPI群100人当たりの発症リスク
循環器リスク:8.87人
上部消化管ガンリスク:0.63人
慢性腎臓病リスク:0.86人
クロストリジウム・ディフィシル感染症リスク:0.12人
死亡人数2万286人(35.69%)
死亡までの期間(中央値):4.96年(PPIよりも長く生きられる)
死因:循環器疾患:11.94%、腫瘍(ガン):9.36%、呼吸器系疾患:4.75%
H2ブロッカー群100人当たりの発症リスク
循環器リスク:7.33人
上部消化管ガンリスク:0.46人
慢性腎臓病リスク:0.44人
クロストリジウム・ディフィシル感染症リスク:0.06人
上記の結果を受けて、10年間の追跡調査の結果PPIを飲むことが、H2ブロッカーを飲むことと比較して、どの程度、他の疾患を併発するリスクがあるのかを検討したところ
循環器リスク:1000人あたり15.48人多い
上部消化管ガンリスク:1000人あたり1.72人多い
慢性腎臓病リスク:1000人あたり4.19人多い
クロストリジウム・ディフィシル感染症リスク:1000人あたり0.65人多い
という結果となりました。
約10年間PPIを飲み続けると循環器リスクが1.55%、上部消化管ガンリスクが0.17%、慢性腎臓病リスクが0.42%上昇する可能性があり、それに付随する死亡リスクが高くなることが示唆されております。筆者らは漫然と長期にわたってPPIを使用するのではなく、必要最小限にPPIの使用を控えるべきですと述べています。
中央値10年間におけるPPIの長期服用と死亡リスクおよび原因について
以下は2018年1月31日に記載しました内容です
日本腎臓学会は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と慢性腎臓病(CKD)との関連性について日本人を対象とした調査が必要であると発表しました。
PPIの長期服用による腎機能低下に関する話題の元をたどりますと、2016年1月11日、アメリカのMorgan E. Grams氏らの研究報告がJAMA Intern Medに公開したデータになるかと思います。
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2481157
当時の報告ではPPIを服用する10482人(平均年齢63歳)を対象としており、10年間の間にCKDを発症するリスクは、
PPIを服用している:11.8%
PPIを服用していない:8.5%
という報告でした。相対的に見るとPPIを服用するとCKDの発症リスクが1.39倍高くなるという報告でした。さらにPPIを1日2回服用することは1日1回服用することに比べてCKD発症リスクがさらに高まると報告されています。
PPIとCKDの関連性について日本人を対象とした検証が必要(日本腎臓学会)
尚、ガスターなどのH2ブロッカーではこのようなリスクはないとまとめられておりました。(最初の報告はコホート研究として行われました)
上記の報告を受け、2016年4月に米国の退役軍人局のデータベースを用いて新規でPPI服用した群(20270人)と新規でH2ブロッカーを服用した群(173321人)を対象として5年間の追跡調査が行われました。
その結果
PPI使用群はH2ブロッカー群に比べて
・eGFRが60ml/分/1.73平方センチメートル未満となる割合:1.22倍
・CKD発症リスク:1.28倍
・血清クレアチニン値が2倍となるリスク:1.53倍
・eGFRが30%未満となる割合:1.32倍
・末期腎不全発症リスク:1.96倍
更にPPIの服用期間が30日以下の群と、31~90日、91日~180日、181日~360日、360日~720日の群とを比較したデータではPPI服用期間が増えるにつれてCKD発症リスクが段階的に増加するというデータとなっています。
(JASN:Proton Pump Inhibitors and Risk of Incident CKD and Progression to ESRD)
2017年に入るとさらに大規模なメタ解析データが公開されます。
上記の報告によると536902名を対象としてPPI、H2ブロッカーの服用と慢性腎疾患のリスクについてメタ解析が行われた結果
PPI服用群によるCKD発症リスク:1.22倍
PPI服用群による末期腎疾患(ESRD)発症リスク:1.88倍
H2ブロッカーでは発症リスクなし
という報告です。
さらに別の報告では534003人のPPI服用群は
急性腎障害を発症するリスク:1.44倍
CKD発症リスク:1.36倍
急性間質性腎炎発症リスク:3.61倍
末期腎疾患発症リスク:1.42倍
PPIの使用が腎臓の有害事象を引き起こす率が上昇する可能性があるとしています。
これらの報告をうけて、米国消化器病学会は2017年11月8日付で
「PPI服用患者は非服用患者よりも糖尿病または高血圧を有する可能性が高く、腎属性薬物をさらに使用する可能性が高い。大規模後ろ向き研究では、これらのベースラインの違いを完全に調節することができないためPPIとCKDの関連を完全に証明することは難しいとしながらも、PPI投与によるCKDの発症リスクが有意に認められたためPPIの適応患者においては、PPI治療の利益がCKD発症リスクを上回る場合に処方すべきである」と発表しました。
日本腎臓学会によると、
「これまで報告されたPPIとCKDに関するものは対象に日本人は含まれておらず(アジア人は中国人のみ)、これらの結果をそのまま日本に当てはめることが妥当とは言えず、今後は日本人を対象としたエビデンスの創出が重要である」
として日本人を対象とした検証の必要性を公表しました。
またPPIの長期服用に関しては、
「その必要性を定期的に見直し、患者へ与えるリスクとベネフィットを勘案して、漫然とした長期投与を避ける注意が必要と考える」
とまとめています。