Categories: 脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症治療薬「ロバチレリン」の効能効果について

脊髄小脳変性症治療薬「ロバチレリン」の効能効果について

 

キッセイ薬品は2021年12月22日、脊髄小脳変性症治療薬「ロバチレリン」を国内で承認申請したことを発表しました。

ロバチレリン第三相臨床試験データ

脊髄小脳変性症は指定難病で、小脳または脊髄が変性することで運動失調を生じる神経変性疾患です。

 

既存の治療薬としては甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの誘導体として

「セレジスト錠(タルチレリン水和物)」

「ヒルトニン注射液」

が使用されており、

運動失調に伴う筋肉の痛みを軽減する目的で

「アロフト錠20mg(アフロクアロン)」

「ミオナール錠50mg(エペリゾン)」

「テルネリン1mg(チザニジン)」

「ギャバロン錠5mg/10mg」

「ダントリウムカプセル25mg」

「リオレサール錠5mg」

などの筋弛緩作用薬が使用されているのが実情です。

脊髄小脳変性症治療薬を承認申請!というニュースをみたとき、もしかしたら新しい作用機序の薬がでた?と一瞬期待をしたのですが、ロバチレリンの薬理作用を確認したところ

「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの誘導体」

でしたので、セレジスト錠やヒルトニン注射液と同類薬であると思われます。

ロバチレリン第三相臨床試験データ

実際に各薬剤の構造式を確認してたのですが、どれも甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの類似構造体であることがわかりました。

 

注)甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンとは、脳内の下垂体という部分から甲状腺ホルモンやプロラクチンといった脳内ホルモンの分泌を促す作用があり、甲状腺ホルモンやプロラクチンなどのホルモンが中枢神経に広く作用して、さまざまな神経伝達物質を活性することで運動機能をコントロールしています。

 

脊髄小脳変性症は治療薬が限られており、既存の治療薬で改善がみられず、他に薬剤の選択肢がない患者様も多くいらっしゃいますので、今回承認申請が出された「ロバチレリン」の第3相臨床試験データを確認し、有効性・副作用についての情報を収集しました。

 

ロバチレリンは新規の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンで、既存の治療薬である「セレジスト錠(タルチレリン)」と比較して、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体への親和性が高く、吸収性や脳内移行性、安定性に優れた製剤であると、開発チームは情報公開しています。動物実験でのデータですが、運動失調マウスに対する効果はセレジストよりも強く、長時間持続したことを記しています。

 

ヒトに対する治験として、小脳性運動失調に対するロバチレリンの有効性と安全性を検討するための、無作為二重盲検比較試験を2つ行っていましたので、その結果を確認します。

 

20歳以上の日本人の脊髄小脳変性症患者(特に小脳運動失調)を対象として

試験1:2013年10月9日~2014年5月30日

服用期間:24週間(168日)

 

偽薬服用群:123名

ロバチレリン1.6mg服用群:124名

ロバチレリン2.4mg服用群:122名

 

試験2:2016年11月15日~2017年8月1日

服用期間:24週間(168日)

 

偽薬服用群:101名

ロバチレリン2.4mg服用群:101名

 

有効性の評価方法

治療開始前と24週間服用後の運動状態について

SARA:全8項目(歩行、立位、坐位、言語障害、指追い試験、鼻指試験、手の回内回外運動、踵すね試験)最大40点

を用いて評価を行っています。(値が大きいほど、症状が進行していると考えます)

SARAの評価項目40点

 

治療前段階におけるSARA平均総スコア

試験1:16.8

試験2:14.9

 

有効性

試験1

治療開始前と24週間服用後のSARA総スコアの平均変化量を示します。

偽薬服用群:-1.16

ロバチレリン1.6mg服用群:-0.74

ロバチレリン2.4mg服用群:-1.23

という結果となり、ロバチレリン服用群と偽薬服用群との間に有効性は見出せませんでした。

 

試験2

偽薬服用群:-1.04

ロバチレリン2.4mg服用群:-1.46

2群間における有意差は認めませんでした。

 

次に、より重症の運動失調患者を対象としてロバチレリンの有効性を検証する解析が行われましtあ。

SARA平均総スコア15以上の患者さんを対象として、偽薬とロバチレリンの有効性を比較した結果

ロバチレリン2.4mg服用群:-1.75

偽薬服用群:-0.58

有意差が確認されました。(95%CI -1.95~-0.38 p=0.003)

 

一方でSARA総スコア15未満の患者さんではロバチレリン服用群と偽薬服用群との間で有意差は確認されませんでした。

安全性(副作用)について

ロバチレリン服用における副作用は鼻咽頭炎・悪心・体重減少・挫傷が確認されましたが、その多くは軽度と判断されています。

これらの結果から筆者らは

ロバチレリンは偽薬と比較して脊髄小脳変性症のうち小脳症状が進行している小脳運動失調に対して、比較的重度の運動失調患者さんにおいて有効である可能性が示唆されたとまとめています。

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業

Share
Published by
ojiyaku