自治医科大が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して「遺伝子薬」の治験を開始しました。
治験参加者の詳細は以下の通りです。
遺伝子治療用製品を用いた「孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象とした治験」
に参加する主な条件
· 筋萎縮性側索硬化症と診断されている方
· 年齢が40歳以上79歳未満の方
· 発症後2年以内の方
· ご家族やご親族に筋萎縮性側索硬化症が発病されていない方
· 患者さんの主治医から、画像検査、筋電図検査等を含む臨床情報をご提供いただける方
· 2週間程度の入院が可能な方及び退院後も定期的な通院が可能な方
· この治験への参加について、患者さんご本人から文書同意の取得が可能な方
<遺伝子薬による治験のイメージ>
治験用の遺伝子治療用製品(導入遺伝子:AAV.GTX-ADAR2)という遺伝子を脊髄周辺に投与して遺伝子を組み入れるという治療です。
孤発性筋萎縮性側索硬化症は脊髄や脳の運動神経にある酵素が減ることが発症原因の一つと考えられています。導入遺伝子を投与することで、神経̪細胞に遺伝子を組み込み体内で酵素を作り出すことでALSの症状進行を抑えることが狙いです。
遺伝子の組み換えに関しては、アデノ随伴ウイルスを用い、神経細胞周辺まではカテーテル注入によりアデノ随伴ウイルスに組み込んだ遺伝子薬を投与し、注入することで神経細胞内に投与されたアデノ随伴ウイルスが神経細胞に感染し、該当遺伝子を組み替えるという作用です。
アデノ随伴ウイルス:病原性をもたない無害なウイルスでヒトや霊長類に感染するウイルスです。「感染」というと悪いイメージがあるかもしれませんが、人の細胞内にウイルスが侵入して、ヒトのDNAにウイルスがもつDNAを組み入れることを「感染」と表現します。
例えば、コロナウイルスに感染するということは、コロナウイルスが保有する遺伝子(RNA)をヒトの遺伝子に組み込み、ヒトが細胞内でコロナウイルスを大量に作り出し病状を発症するという機序となります。
同様に「無害で「必要な酵素」を作り出すアデノ随伴ウイルスを神経細胞に投与して感染させることができれば・・・・「必要な酵素」を作り出すことができるためALS症状が減少するのでは????というのが今回の治験の狙いとなります。
被験者は、事前観察期間を最大12週間、治験製品投与後24週間の観察期間を評価期間としております。また治験製品の投与から5年間を患者さんの安全性を確認する期間としています。
米食品医薬品局(FDA)がALS治療薬「トフェルセン」を迅速承認(2023/4)
米国バイオジェンがALS治療薬「トフェルセン」を開発し、FDAが迅速承認しました。
ASL患者の2%程度が対象となる医薬品です。SOD1といいう遺伝子に変異があるタイプの被験者に対してトフェルセンはこの遺伝子にはたらきかける「核酸医薬」というタイプの医薬品です。108人が参加した治験で28週間後の進行抑制効果を示す目標は達成できず、脊髄炎などの有害事象の報告もありました。
ALSの原因となるタンパク質を減らす効果が確認され、FDAは薬の利益がリスクを上回ると判断して迅速承認しました。
エーザイは、徳島大学との研究チームを発足し、発症早期の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんに対する高用量メコバラミンの有効性・安全性の検証(第三相試験)を開始することを同ホームページに公開しました。新薬承認申請に向けて2022年3月に希少疾患用医薬品指定申請を厚生労働省に提出し、2023年度中の新薬承認申請を予定しているとしています。
エーザイは高用量メコバラミンに関しては、2015年5月に新薬申請を行ったものの、データ不十分のため2016年3月に申請を取り下げた経緯があります。
今回の申請に関しては、ALS発症から1年未満の患者さんを対象として高用量メコバラミンの有効性・安全性を再検証し、容認性が確認されたため、承認申請を行うとしています。
既存の末梢神経障害に対するメコバラミン注射薬の用量としてはを週3回、1回500μg(適宜増減)を筋肉内または静脈内に注射します。
既存の末梢神経障害に対するメコバラミン錠の用量として、1日3回、1回500μg(1日量として1500μg)(適宜増減)とされています。
今回、エーザイが行っている高用量メコバラミンの治験段階の用量は
「週2回、メコバラミン50mgを16週間にわたり筋肉内注射した」
と記されています。
50mg=50000μgですので、既存の末梢神経障害に対する使用量の100倍量を投与することになります。
被験者130名(平均年齢61歳)を対象としてメコバラミンまたはプラセボを週2回、メコバラミン1回50mgを16週間投与(112日間)した治験成績としては
メコバラミンを投与した群の方が、ALSFRS-R総スコアで1.97ポイント大きな値を示したと記されています。
有害事象に関しては、2群間で同様であったとしています。
筋萎縮性側索硬化症機能評価尺度
改訂(ALSFRS-R)総スコアは、ALS患者の機能活性を測定するスコア(0-48)で、疾患が進行し症状が悪化するにつれ、患者のALSFRS-Rの合計スコアは経時的に低下します。
京都大学iPS細胞研究所の報告によると、用量の異なるボシュリフ錠(慢性骨髄性白血病治療薬)をALS患者12名に12週間(84日間)服用してもらってALSに対する効果を確認したデータ結果が開示されました。
治験データ
ボシュリフ錠服用量
1日量100mg:3名
1日量200mg:3名
1日量300mg:3名
1日量400mg:3名
上記4つのグループに分けて、ボシュリフ錠のALSに対する効果が検討されました。結果として1日100~300mgを服用したALS患者さんは12週間の治験を完了しました。400mgを服用した患者さんは有害事象(副作用)が出たため治験を完了することができませんでした。
12週間ボシュリフ錠を飲み続けた9名中5名に関して、ボシュリフ錠を服用後にALSの進行が停止していることが確認されました。一方残りの4名に関しては、ALSは変わらず進行していました。
ALSの進行が停止していた5名の血液を調べたところ、神経細胞が壊れるときに出るタンパク質(ニューロフィラメントL)の量がボシュリフ錠を服用後に少なくなっていることがわかり、ボシュリフ錠の効果判定の指標になるとしています。