慶応義塾大学の研究チームが、がん細胞への治療に11種類の腸内細菌の有用性を見出したことを英科学雑誌natureに報告しました(2019年1月23日)
キラーT細胞は、ヒトにとって有害なウイルスやがん細胞などを認識して破壊する働きがあります。未分化のT細胞(未成熟なT細胞)は、ヘルパーT細胞にもキラーT細胞にもなることができるのですが、何らかのきっかけにより、どちらかへ成熟していきます。
例えば、がん細胞の周囲にある未分化のT細胞を、人工的に誘導してキラーT細胞へ成熟させることができればがん細胞をやっつける能力が格段に大きくなるわけです。
今回の報告では、ヒトの糞便中から採取した11種類の腸内細菌がインターフェロンγ産生CD8T細胞(キラーT細胞)を強力に誘導することが確認されたという報告です。(MHCクラス1aに依存性の炎症を引き起こすことなく誘導する)。
健常者から単利した腸内細菌株のがん治療について(慶応義塾大学)
動物実験のデータでは、皮下にがん細胞を植え付けたマウスに対して、「免疫チェックポイント阻害剤単独群」または「免疫チェックポイント阻害剤(注射) + 腸内細菌(経口投与)」を投与した結果、単独群と比較して、腸内細菌を加えた群では腫瘍のサイズが著しく抑制されたと報告しています。ヒトにおいても11菌株の経口投与が免疫チェックポイント阻害剤の効果を高めるのではと示唆されます。(マウスの腫瘍細胞にはたくさんのIFNγ産生のCD8T細胞が集積していたことが確認されました)
興味深い点として、腸管のIFNγ産生CD8T細胞は11腸内細菌由来の抗原を認識するのに対して、皮膚腫瘍部においては、11腸内細菌由来の抗原を認識するのではなく、がん抗原を認識するということです。このことから、腸管で誘導されたCD8T細胞が直接腫瘍部へ移行するのではなく、別のメカニズムが起因となっている可能性が考えられています。(例えば、11腸内細菌由来の代謝産物が腸管で吸収→血流を流れて腫瘍部へ到達→CD8T細胞を活性化)
既存の治療に加えて、口から腸内細菌を飲むだけで、がん治療の効果が高まるというマウスでの実験データですが、今後、米国におけるがん治療の臨床試験も計画されているということなので期待が高まります。