気管支喘息や気管支炎の治療でテオドールやテオロングなどのテオフィリン製剤を使用している患者様には、「カフェイン含有飲料の摂取量を控えるよう伝える」と薬の教科書には書いてあります。しかしこの併用に関して具体的な数値が記されていないので自分なりに指標を作ってみました。
テオフィリンとカフェインの構造を比較してみると、赤四角で囲った部分以外は同じ構造であることがわかります。(下図参照)
また両製剤の消化管からの吸収率はいずれも100%です。
常用量を確認してみると
テオフィリン:1回200mg 1日2回 適宜増減(1日量400mg 適宜増減)
カフェイン:1回100~300mg 1日2~3回 適宜増減 (1日量200~900mg 適宜増減)
だいたい同じくらいであることがわかります。
代謝部位も肝臓のCYP1A2と同じですので、一緒に飲むとお互いの分解が競合するため代謝が遅くなって効果および効果時間が増長します。
さて、肝臓の代謝酵素CYP1A2ですが、一度にどれほどの量のカフェインおよびテオフィリンを代謝することができるかについて調べてみたところ、カフェインの代謝は濃度に依存した指数関数的であり、摂取量が500mg以上になると代謝酵素活性の飽和が起こるという報告を見つけました。
具体的なデータを確認してみると、「2重盲検試験で12人の健常人を対象としてカフェイン250mgまたは500mgを投与すると、250mg群と比較して500mg群でクリアランスが有意に減少し、排泄半減期が延長された。500mg群では不安感、興奮といった不快感が確認された。またタッピング速度試験においてもパフォーマンスの低下が確認された」となっています。
ただし、肝臓におけるCYP1A2の量には個人差(遺伝子多型)があるため一概に言い切ることはできません。
CYP1A2の日本人の発現状況を確認してみると
通常の酵素量(EM(extensive metabolizer))の割合:58.3%
酵素活性が低下している(IM(Intermediated metabolizer))割合:36.6%
酵素活性が低い(PM(Poor Metabolizer))割合:5.1%
というデータとなっていますので、EMであればカフェインおよびテオフィリンの分解速度が速く、PMであれば分解が遅いため効き目および副作用が長引くと考えられます。
CYP1A2の発現量については、実際の医療現場で確認する術は乏しく、また、日本人は比較的EM・IMの割合が高い種族のようなので、そこまで意識しない感じでもいいのかもしれません。
テオフィリン製剤の目標血中濃度は5~15μg/mlであり、20μg/ml以上になると中毒症状を発現しやすいといわれています。
テオフィリン徐放製剤を400mg/dayで服用した場合の血中濃度が8~10μg/mlほどと添付文書に記載されています。
ざっくりですが、カフェインを単回で250mg服用した時の血中濃度は約10μg/mlとなります。
この2剤を同時服用するとCYP1A2の代謝量が飽和するため、分解が遅延し、両剤の効果増強・延長が起こりえる状況となります。
また、カフェインの代謝産物を確認してみるとパラキサンチンが84%、テオブロミンが12%、テオフィリンが4%となっていますので、カフェインを摂取すると、ごく少量のテオフィリンが分解産物として体内でできることになります。
では、これらを踏まえて上で、カフェインとテオフィリンの同時摂取量の基準を自分なりに設けてみます。
コーヒー1杯に含まれるカフェイン量にはバラツキがあるのですが、一般的な量として、ここでは1杯150mgと仮定します。
定期薬でテオフィリン製剤を服用していて、症状が安定している患者様には、いつも通りコーヒーや紅茶などの嗜好品を摂取し、喫煙者にはいつもどおりの喫煙を促します。
テオフィリン製剤200mg 2錠/2×(1日量400mg)で服用を開始する患者様には、動悸・振戦の副作用を回避するために
「念のためですが、コーヒー1日3杯までとして1杯のんだら5~6時間間隔をあけること」
「念のためですが、テオフィリン200mg1錠を飲んだ後にコーヒーを2杯を一気に飲まないほうがいいですよ」
こんな感じで、患者様へ伝えできればCYP1A2の代謝量が飽和量に達して、血中テオフィリン濃度が20μg/mlを超えることは少ないのではないかなぁと考えます。