おじさん薬剤師の日記

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アレルギーの「行進」を止めよう!症状の仕組みから最新治療薬まで徹底解説

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アレルギーの「行進」を止めよう!症状の仕組みから最新治療薬まで徹底解説



皆さんは「アレルギー」と聞いて、どのような症状を思い浮かべるでしょうか?

花粉症によるくしゃみや鼻水、あるいは特定の食べ物を食べたときのかゆみなど、その症状は人によって様々です。

実は、アレルギー疾患は単独で起きるだけではなく、年齢とともに形を変えて次々と現れることがあるのをご存知でしょうか。また、お薬にもたくさんの種類があり、正しく選ぶことが快適な生活への第一歩です。

今回は、アレルギーが起こる仕組みや、「アレルギーマーチ」と呼ばれる現象、そして病院で処方されるお薬の効き目や副作用について、専門的な話を噛み砕いて詳しく解説していきます。

1. アレルギーマーチ:年齢とともに変わる症状の正体

アレルギーになりやすい体質とは?

アレルギー疾患の多くは、「アレルギー素因(アトピー素因)」と呼ばれる、いわば「アレルギーになりやすい体質」を背景に持っている方が発症します。この体質に、住環境や食生活などの環境要因が複雑に絡み合うことで、実際の症状として現れるのです。

音楽隊のように続く「アレルギーマーチ」

典型的なアレルギー体質の方の場合、症状の現れ方に一つのパターンがあることが分かっています。

多くの場合、赤ちゃんの頃(乳児期)に「アトピー性皮膚炎」を発症することから始まります。その後、成長に伴って次のような順序で異なるアレルギー疾患を発症していく傾向があります。

  1. 乳児期: アトピー性皮膚炎

  2. 幼児期以降: 食物アレルギー

  3. 学童期: 気管支喘息(ぜんそく)

  4. 思春期以降: アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎

このように、年齢によって次々と新しいアレルギー疾患が行進するように発症する様子を、音楽隊の行進になぞらえて**「アレルギーマーチ」**と呼びます。

特に小児期において、最初にアトピー性皮膚炎があり、その後にアレルギー性鼻炎を合併するケースは非常に多く見られます。

2. アレルギー性鼻炎の人が気をつけたい「併存疾患」

アレルギー性鼻炎(花粉症など)を持っている方は、アレルギーマーチの流れの中にいることが多いため、鼻だけの問題で終わらないことがよくあります。

代表的な合併症について見ていきましょう。

① アレルギー性結膜炎(目のかゆみ)

花粉症の方のほとんどが合併していると言われるのが、この結膜炎です。

花粉やハウスダストが目の表面に付着し、炎症を起こします。

  • 主な症状: 目のかゆみ、涙、充血、目やに

  • 注意点: お子さんの場合、かゆくて目を強くこすってしまい、まぶたが腫れたり、目の下に「くま」ができたりすることがあります。

② アトピー性皮膚炎

かゆみを伴う湿疹が、良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す病気です。

皮膚を掻くことでバリア機能が壊れ、皮膚が厚くゴワゴワになったり、かさぶたができたりします。皮膚の状態が悪いと、そこからアレルゲン(アレルギーの原因物質)が侵入しやすくなり、他のアレルギー疾患を引き起こす原因にもなります。

③ 気管支喘息(ぜんそく)

鼻と気管支は「ひとつのつながった空気の通り道(気道)」です。そのため、鼻炎と喘息は非常に密接な関係にあります。

  • 主な症状: 咳、たん、ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音(喘鳴)、呼吸困難

  • 関係性: アレルギー性鼻炎が悪化すると、喘息の発作が起きやすくなったり、症状が重くなったりすることが知られています。逆に言えば、鼻炎をしっかり治療することは、喘息の予防やコントロールにもつながります。

④ 花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)

「花粉症になってから、特定の果物や野菜を食べると口がイガイガするようになった」という経験はありませんか?

これを「花粉-食物アレルギー症候群」と呼びます。また、症状が主に口や喉に出ることから「口腔アレルギー症候群」とも呼ばれます。

なぜ起こるの?

花粉のアレルギー原因物質(タンパク質の形)と、果物や野菜に含まれるタンパク質の形が非常によく似ているため、体が「これも花粉だ!」と勘違いして反応してしまうのです(交差反応といいます)。

主な組み合わせの例:

  • シラカンバ花粉の方: リンゴ、モモなど

  • スギ花粉の方: トマトなど

  • ブタクサ花粉の方: メロン、スイカなど

多くの場合、食べた直後〜数分以内に口の中がかゆくなったり腫れたりしますが、しばらくすると治まります。また、これらの果物や野菜も、加熱調理をすることでタンパク質の形が変わり、食べられるようになることが多いです。ただし、稀に重篤なショック状態(アナフィラキシー)を起こすこともあるため注意が必要です。

⑤ 慢性副鼻腔炎(ちくのう症)

アレルギー性鼻炎が長引くと、鼻の粘膜が腫れ上がり、鼻の奥にある空洞(副鼻腔)の入り口がふさがれてしまいます。すると、そこに細菌が感染し、膿がたまってしまいます。

この状態が12週間(約3ヶ月)以上続くと「慢性副鼻腔炎」と診断されます。

ネバネバした黄色い鼻水、鼻づまり、頭が重い感じ、においが分からないなどの症状がある場合は要注意です。

3. アレルギーの原因を知る「血液検査」

自分が何のアレルギーかを知るために、「血清特異的免疫グロブリンE検査(特異的IgE検査)」という血液検査が行われます。

免疫グロブリンE(IgE)とは?

体に侵入してきた異物(アレルゲン)に対抗するために作られる「抗体」のことです。

例えば、「スギ花粉に対するIgE」の値が高ければ、「スギ花粉に対して体が反応する準備ができている(感作されている)」ということを意味し、スギ花粉症である可能性が高いと判断されます。

検査の特徴:

  • 現在は200種類以上のアレルゲンを調べることができます。

  • 採血だけで済み、薬を飲んでいても検査結果に影響しないため、広く行われています。

  • 一度に複数の項目を調べられるセット検査もあり、原因のスクリーニング(ふるいわけ)に適しています。

注意点:

IgEの値が高いからといって、必ずしも強い症状が出るとは限りません。あくまで「診断の目安」の一つです。

4. 薬物療法の主役たち:お薬の特徴と選び方

アレルギー治療には様々なお薬が使われます。医師は患者さんの症状や生活スタイルに合わせて、最適なお薬を選んでいます。

ここでは主な治療薬の特徴を、専門用語をできるだけわかりやすく変換して解説します。

① ケミカルメディエーター受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬など)

少し難しい名前ですが、これはアレルギー症状を引き起こす「原因物質(ケミカルメディエーター)」が、体のスイッチ(受容体)を押すのをブロックするお薬のことです。

代表格:抗ヒスタミン薬

アレルギー薬の中で最もポピュラーなものです。

体内で放出された「ヒスタミン」という物質が神経を刺激することで起こる、くしゃみや鼻水を抑えます。

抗ヒスタミン薬は、開発された時期によって「第1世代」と「第2世代」に分けられます。

【第1世代】(古いタイプ)

  • 特徴: 速効性があり、くしゃみ・鼻水によく効きます。

  • デメリット: 脳に入り込みやすく、強い眠気が出たり、口が渇いたり、尿が出にくくなったりする副作用が多いのが難点です。

  • 脳への影響: 脳内のヒスタミン受容体を50%以上もブロックしてしまうと言われており、これが強い眠気の原因になります。

【第2世代】(新しいタイプ)

  • 特徴: 効果が出るまで少し時間がかかることもありますが、効果が長く続きます。また、鼻づまりへの効果も改善されています。

  • メリット: 脳に入りにくく改良されており、脳内のヒスタミン受容体をブロックする割合はおおむね30%以下に抑えられています。そのため、眠気や口の渇きなどの副作用が少なくなっています。

  • 現在の主流: 有効性と安全性のバランスが良いため、花粉症治療の国際的な推奨薬となっています。

眠気と「インペアード・パフォーマンス」にご注意

抗ヒスタミン薬の副作用で一番困るのが「眠気」ですが、自覚症状のない「能力低下」も問題です。

これを「インペアード・パフォーマンス(能力障害)」と呼びます。

薬の影響で、自分では眠くないと思っていても、集中力や判断力、作業効率がいつの間にか低下している状態です。これが原因で、運転ミスや事故につながる危険性があります。

仕事で車を運転する方や、危険な機械を操作する方は、必ず医師に相談して、生活スタイルに合ったお薬(眠気の出にくいタイプ)を選んでもらいましょう。

② 抗ロイコトリエン薬(鼻づまりに強い味方)

「ヒスタミン」だけでなく、「ロイコトリエン」という物質もアレルギー反応に関わっています。

ロイコトリエンは、鼻の粘膜の血管を広げて腫れさせ、鼻づまりを引き起こす元凶です。

  • 効果: 鼻の粘膜の腫れを引かせるため、特に「鼻づまり」に対しては、第2世代抗ヒスタミン薬よりも優れた効果を発揮します。

  • 適している人: 鼻づまりがひどくて息苦しい方におすすめです。

③ ケミカルメディエーター遊離抑制薬(予防的なお薬)

アレルギー反応の「震源地」であるマスト細胞から、ヒスタミンなどの原因物質が飛び出す(遊離する)のを防ぐお薬です。

  • 特徴: 作用はマイルドで、十分な効果が出るまでに1〜2週間かかります。

  • 使いどき: 即効性はありませんが、副作用が非常に少ないのが特徴です。そのため、花粉が飛び始める前や飛び始めの時期から使い始める「初期療法」に適しています。また、強い薬から弱い薬へ切り替える際の維持療法としても使われます。

④ 鼻噴霧用ステロイド薬(点鼻薬)

「ステロイド」と聞くと副作用を心配される方もいますが、点鼻薬は非常に安全性が高いお薬です。

  • 効果: 鼻の中に直接噴射するため、強力な抗炎症作用が患部に直接届きます。くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3大症状すべてに高い効果があり、目の症状にも良い影響を与えます。

  • 速効性: 使い始めて約1〜2日で効果が現れ始めます。

  • 安全性: 鼻の粘膜で作用した後、体内に入るとすぐに分解されるため、全身への副作用はほとんどありません。

  • ガイドラインでの評価: 重症の花粉症であっても、飲み薬のステロイドと同等の効果があることが示されており、副作用の少なさから積極的に使用が推奨されています。

⑤ 点鼻用血管収縮薬(使いすぎに注意!)

市販の点鼻薬によく含まれている成分です。

シュッとすると、血管を強制的に縮めることで一瞬で鼻づまりが解消します。しかし、これには大きな落とし穴があります。

  • 注意点: 続けて使いすぎると、体が慣れてしまい、薬が切れたときにリバウンドで余計に鼻粘膜が腫れ上がってしまいます。すると「薬を使う→一瞬治る→もっとひどく詰まる→また薬を使う」という悪循環に陥り、かえって症状が悪化します。

  • 正しい使い方: 鼻づまりが極めて強い時に限り、1日1〜2回、10日間程度までの短期間の使用にとどめることが重要です。

5. 最重症の方への新しい選択肢:抗IgE抗体薬(生物学的製剤)

既存の飲み薬や点鼻薬を使っても症状が治まらない、重症・最重症の花粉症の方のために、注射のお薬があります。

どのようなお薬?

アレルギー反応の根本原因である「IgE(免疫グロブリンE)」そのものを捕まえて無力化してしまうお薬です。

IgEがマスト細胞と結合するのを邪魔することで、ヒスタミンなどの放出自体を止めてしまいます。

使用できる条件:

非常に高価で強力なお薬であるため、誰でも使えるわけではありません。以下の条件などを満たす必要があります。

  • スギ花粉による重いアレルギー性鼻炎であると診断されていること。

  • 既存の治療(抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬など)を1週間以上行っても、症状が十分に治まらないこと。

  • 血液検査でスギ花粉に対するIgE値がクラス3以上の陽性であること。

  • 12歳以上で、体重や血液中の総IgE濃度が基準の範囲内であること。

鼻水

6. 漢方薬という選択肢

西洋医学のお薬だけでなく、漢方薬もアレルギー性鼻炎の治療に使われます。

代表的なものが「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」です。

  • 効果: 体を温め、水の巡りを良くする作用があります。サラサラした鼻水、くしゃみ、鼻づまりに対して効果を発揮します。

  • エビデンス: 通年性アレルギー性鼻炎に対して、偽薬(プラセボ)と比較した試験でもその有用性が証明されています。眠くなる成分が入っていないため、仕事や勉強に集中したい方にも選ばれています。

まとめ

アレルギー疾患は、幼少期からの体質や環境が複雑に関係し、年齢とともに「アレルギーマーチ」として様々な症状を引き起こすことがあります。

しかし、現在は医学の進歩により、眠くなりにくい飲み薬、副作用の少ない点鼻薬、そして重症例に対する注射薬など、治療の選択肢が大幅に増えています。

「たかが鼻炎」と放置すると、副鼻腔炎や喘息の悪化につながることもあります。また、薬の選び方一つで、日中のパフォーマンスや生活の質は大きく変わります。

ご自身の症状やライフスタイルに合った最適な治療法を見つけるために、ぜひ一度、医師や薬剤師に相談してみてください。

 

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執筆者:ojiyaku

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