患者様のお薬手帳を確認すると、整形外科や透析内科からシメチジンやファモチジンなどのH2ブロッカーが処方されることがあります。
整形外科では「肩石灰沈着性腱鞘炎」、透析内科では「異所性石灰化」に対して石灰化を抑制するために処方されていることがうかがえます。
この場合、内科や消化器内科からPPI・PCABが処方された場合は治療目的が異なりますので併用OKと考えます。
今回は、石灰化に対する「シメチジン・ファモチジン」の薬理作用について調べてました。
以下は実験細胞レベルのデータとなります。(in vivoではありません)
腱細胞を培養し、骨芽細胞(骨形成を促す細胞)への分化に対して、ファモチジン又はヒスタミンがどのように作用するかを調べたデータを確認しました。
骨芽細胞への分化に関しては、オステオカルシンという骨芽細胞マーカーで確認しています。
(オステオカルシン濃度がUPすると、骨芽細胞への分化が亢進(UPする)ことが既に知られています。)
腱細胞を培養し、ヒスタミン処理を行うと、オステオカルシンの発現が促され、骨芽細胞への分化が進むのに対して、抗ヒスタミン剤であるファモチジンで腱細胞を処理すると、骨芽細胞への分化が阻害されることが示されました。
筆者らは、ファモチジンで処理することでヒスタミン受容体の下流で行われるシグナル伝達を阻害し、骨芽細胞への分化を抑制した可能性を示唆しています。
腱細胞において、骨芽細胞への分化は軟骨形成とそれに続く軟骨細胞の肥大化につながり、石灰沈着性腱鞘炎へつながるメカニズムと考えられておりますので、ファモチジンを投与することが内因性のヒスタミンに拮抗して、オステオカルシンの発現低下作用を示し、骨芽細胞への分化を抑制したことが示唆されます。(H2ブロッカーによる抗石灰化作用)
また、in vivoのデータとしては、異所性骨化モデルマウスに対して、17週間の間0.677μg/g/日の量でファモチジンを与えた群と、与えなかった群で比較した―データによると、高齢の異所性石灰化マウスにおいてアキレス腱における石灰化領域が、ファモチジン投与群において減少することが示されています。
異所性石灰化・肩石灰沈着性腱鞘炎に対するファモチジンの効果・薬理作用について
ヒトに対する投与データとしては、肩石灰沈着性腱鞘炎の治療としてシメチジンまたはファモチジンを投与した群と投与しなかった群において、鎮痛作用・石灰縮小率を比較したデータを確認してみました。
シメチジン:1日400mg投与群(41例)
疼痛改善率:77.8%、石灰縮小率:64.4%
ファモチジン:1日20mg投与群(17例)
疼痛改善率:73.1%、石灰縮小率:70.3%
ロキソプロフェンNaのみ投与群(14例)
疼痛改善率:44.1%、石灰縮小率:35.4%
上記のデータより、肩石灰沈着性腱鞘炎に対して、ロキソニン錠を単独投与するよりも、H2ブロッカーを投与した方が痛みを緩和し、原因となる石灰化も抑制できることが示されています。