palforzia
近年、日本国内で「ナッツアレルギー」を持つ人が急激に増えていることをご存知でしょうか?
今回ご紹介するのは、日本におけるピーナッツ、カシューナッツ、クルミのアレルギーに関する最新の研究結果です。この研究は、「どれくらいの量を食べると症状が出るのか(閾値)」や、「血液検査の結果との関係」を初めて明らかにした重要な報告です。
私たちの食生活の変化とともに変わりつつあるアレルギーの現状について、ポイントを絞って解説します。
これまでナッツアレルギーといえば「ピーナッツ」が代表的でしたが、状況は大きく変わっています。
患者数が倍増: 2020年のナッツアレルギー患者の割合は、2017年と比較して約2倍に増えています。
クルミがピーナッツを抜いた: 特にクルミ・アレルギーの増加は著しく、2014年から比較すると4倍以上に。現在ではピーナッツよりも多くなっており、木の実類(ナッツ類)は日本で2番目に多い食物アレルギーの原因となっています。
医師たちの肌感覚として、10年前は「クルミをわずか0.1g食べただけで重いアナフィラキシーを起こす」というケースは稀でした。しかし、現在は状況が異なります。
欧米並みの敏感さに: 調査の結果、現在の日本人のアレルギー閾値(症状が出る量)は、欧米諸国と同じくらい低いレベル(敏感)になっていることがわかりました。
わずかな量で発症: ピーナッツなら3.9mg、カシューナッツは1.6mg、クルミは1.2mgといった「ごく微量」で症状が出る人が一定数いることがデータで示されました。
なぜ日本で急にクルミ・アレルギーが増え、重症化しやすくなったのでしょうか?
はっきりとした原因はまだ不明ですが、「食生活の変化」が大きく関係していると考えられています。
健康ブームの影響: クルミはオメガ3脂肪酸などが豊富で健康に良いとされるため、消費量が急増しています。2020年の国内消費量は35年前に比べて8倍、輸入量は10年前の2.3倍に増加しています。
皮膚からの感作: 家庭内でクルミを食べる機会が増えると、その微細な成分が家のホコリ(ハウスダスト)に混じります。それが皮膚や気道に触れることで、食べる前にアレルギー体質になってしまう(感作される)可能性が指摘されています。
※日本では「5歳以下には誤嚥(窒息)防止のためナッツをそのまま食べさせない」ことが推奨されているため、早期摂取による予防が難しく、環境からの感作が影響している可能性があります。
この研究では、血液検査の数値と「食べられる量」の関係も詳しく調べられました。
特定の成分に注目: ナッツに含まれるタンパク質のうち、「2Sアルブミン」という成分に対する抗体(IgE)の数値が高い人ほど、より少ない量で症状が出やすいことがわかりました。
安全な治療へ: これにより、医師は血液検査の結果を見て、「この患者さんは非常に敏感だから、負荷試験(実際に食べてみる検査)はごく微量から慎重に始めよう」といった判断がしやすくなります。
今回の研究は、日本人の食習慣の変化に伴い、アレルギーの「症状が出る量(閾値)」も変化していることを示しました。
微量でも油断禁物: ナッツ類はほんの少しの混入でも症状が出る可能性があるため、食品表示の確認や管理がますます重要になります。
治療への応用: 症状が出る限界の量(閾値)がわかったことで、「安全に食べられる範囲」を知るための検査や、食べて治す治療(経口免疫療法)のスタートラインをより安全に設定できるようになると期待されます。
食生活が欧米化する中で、アレルギーのリスクも変化しています。もしナッツ類を食べて違和感を感じたことがある場合は、自己判断せず、専門医に相談することをお勧めします。
日本で急増する「クルミ・カシューナッツ」アレルギー:最新研究
ピーナッツアレルギーを有する幼児は、ピーナッツが入っていない食品(ピーナッツフリー)をとることが標準的な対応策となります。
米国において、ピーナッツ経口免疫療法に関する報告がありましたので以下に記します。
尚、経口免疫療法において以下の用語が頻回に登場しますので、最初にその意味合いを記します。
脱感作(だつかんさ)
少量のピーナッツタンパク質を摂取し続けることにより、体内でのアレルギー反応の閾値(アレルギーとして認識する最小限の値)を上昇させることで、ピーナッツタンパク質への過敏性を減弱させる方法
寛解(かんかい)
免疫療法を中止後にピーナッツを摂取してもアレルギー症状を起こさないで経過できる状態
尚、以下は専門医の指導の下での比較試験となりますことをご了承ください。
被験者:ピーナッツタンパク質500mg(ピーナッツ 2~3粒)程を摂取したときにアレルギー症状を呈した12歳以下の小児(平均年齢3歳)
被験者146人をピーナッツ経口免疫療法群(96人)とプラセボ(偽薬)群(50人)にランダムに振り分けます。
ピーナッツ経口免疫療法群には1日あたりピーナッツタンパク質として2000mg(ピーナッツ10粒程度)を134週間(約2年半)摂取し続けます。この期間を脱感作期間とし、その後、回避療法期間として26週(約半年)を設けます。回避療法期間が終了した時点(160週目(3年後))にピーナッツタンパク質5000mgを摂取した場合の寛解の程度を調査しています。
試験データ
ピーナッツ経口免疫療法を2年半受けた96人中68人が脱感作を達成し、ピーナッツタンパク質への過敏状態が軽減しました。
プラセボ群では2年半のプラセボ服用後50人中1人が脱感作を達成しました。
134週間の経口免疫療法を終了した時点において、耐容量(アレルギー症状を発症しないで耐えうる摂取量)はの中央値は
ピーナッツ経口免疫療法群:5005mg
プラセボ群:5mg
134週間の経口免疫療法治療後に26週の回避期間を設け、160週目(3年後)において寛解基準(アレルギー症状を発症しない状態)を満たしている割合は
ピーナッツ経口免疫療法群:96人中20人
プラセボ群:50人中1人
160週間後(3年後)において、耐容量(アレルギー症状を発症しないで耐えうる摂取量)はの中央値は
ピーナッツ経口免疫療法群:755mg
プラセボ群:0mg
結果として、134週間(2年半)のピーナッツ経口免疫療法を終えた時点では70%の小児が5000mgのピーナッツタンパク質への耐性(食べても大丈夫)な状態を獲得していたわけですが、160週後(3年後)にその状態を維持でてきていたのでは、そのうちの30%程度だけでした。
また、ピーナッツ経口免疫療法実施群において、アレルギー反応が頻発しており、21名の被験者で中等度の症状を伴う35件のアレルギー症状が発生しておりエピネフリンが投与されています。
注)エピネフリンとはアナフィラキシーショック等の強いアレルギー症状を呈した時に、免疫細胞から放出されるアレルギー因子を抑えて、循環血流を維持させるとともに、気道の収縮を抑えて呼吸を楽にするはたらきがあります。
上記のような強いアレルギー症状を呈する可能性がありますので、アレルギー食品に対する脱感作(アレルギーを克服するために少量ずつ摂取する治療)は専門医のもとで行うべきです。
筆者らは小児におけるピーナッツ経口免疫療法のまとめとして、4歳以前にピーナッツ経口免疫療法を開始すると脱感作および寛解の両方の状態を改善・増加させることが確認された。また寛解の程度、免疫学的なバイオマーカーとも相関していた(血液中のピーナッツに対する過剰免疫が増加していなかった)。この結果から考えると、ピーナッツアレルギーを寛解に導くための手法としては幼少期にチャレンジすることが有益かもしれないとまとめています。
米国FDAはピーナッツアレルギー治療薬Palforziaを承認したことをホームページに掲載しました。
Palforziaはピーナッツアレルギーの診断が確定した4~17歳を対象とした治療薬です。
ピーナッツアレルギーとは体の免疫が、少量のピーナッツでさえも、「有害である」と誤認するために生じる疾患です。ヒトによってはごく微量のピーナッツを摂取しただけでも数秒以内に皮膚反応(蕁麻疹・発疹)や消化器不快感(嘔吐・下痢)、呼吸苦などを生じる可能性があります。
Palforziaはピーナッツ由来の粉末であり、最初は少ない量から摂取して、徐々にその量をふやして体を慣らしていこうということを目的にした製剤です。
Palforziaは初回投与量(一番少ない量)を摂取後、1日ごとに服用量をふやしていき、11段階にわけて薬を徐々に増やしていきます。治療中はアナフィラキシーショックを含む重篤なアレルギー反応を起こす可能性がありますので、治療は専門の医師の管理下のもとで行われます。
ピーナッツアレルギー患者500人を対象とした治験データ(対象:米国・カナダ・ヨーロッパ)によるとPalforzia療法を6か月間おおなった被験者に対して、ピーナッツタンパク質600mg(ピーナッツ2粒程度)を食べたところ、67.2%で忍容性が確認されました。(軽度のアレルギー症状あり)。一方で、Palforzia治療を行わなかったピーナッツアレルギー患者では4%しか忍容性がしめされませんでした。
注:Palforzia療法における維持療法ではピーナッツタンパク質300mgが投与されていました。
palforzia
Palforzia療法における安全性について
腹痛・嘔吐・吐き気・かゆみ(口・耳)
咳・鼻水・喉の刺激
蕁麻疹・喘息・アナフィラキシー
などが報告されています。
また、コントロール不良の喘息患者に対してはPalforziaは投与すべきでないとしています。