インフルエンザ脳症の仕組みと、一部の「解熱剤(NSAIDs)」を使用するリスクについて
はじめに
インフルエンザが流行する季節、高熱にうなされる家族を見るのは辛いものです。「とにかく熱を下げて楽にしてあげたい」と思うあまり、手元にある解熱剤を使おうとしていませんか?
実は、インフルエンザの時に「使ってはいけない解熱剤」があることをご存じでしょうか。
今回は、インフルエンザの最も恐ろしい合併症の一つである「インフルエンザ脳症」が起こる仕組みと、特定の解熱剤(NSAIDs)がなぜそのリスクを高めてしまうのかについて、分かりやすく解説します。
1. インフルエンザ脳症(急性脳炎)とは?
インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスに感染した後、急速に意識障害やけいれんなどが起こる重篤な合併症です。主に5歳以下の乳幼児に多いですが、大人でも発症する可能性があります。
「熱が高いから脳がやられる」と思われがちですが、単純に熱のせいで脳細胞が壊れるわけではありません。そこには、私たちの体の「免疫」の暴走が深く関わっています。
2. 発症メカニズム:なぜ脳症になるのか?
現在の医学では、インフルエンザ脳症の主な原因は「サイトカインストーム(免疫の暴走)」と「血管内皮細胞の障害」であると考えられています。
① サイトカインストーム(免疫の暴走)
ウイルスが体に入ると、体は防御反応として「サイトカイン」というタンパク質を出してウイルスと戦います。しかし、何らかの原因でこのサイトカインが過剰に作られすぎると、ウイルスだけでなく、自分自身の正常な細胞まで攻撃し始めてしまいます。これが「サイトカインストーム(嵐)」です。
② 血液脳関門の突破
通常、脳には「血液脳関門(BBB)」というバリアがあり、ウイルスや有害物質が脳に入らないよう守っています。しかし、サイトカインストームによって全身の血管が傷つくと、このバリア機能が壊れてしまいます。その結果、有害な物質が脳へとなだれ込み、脳が激しくむくむ(脳浮腫)ことで、脳症が引き起こされます。また、エネルギー代謝障害(脂肪酸代謝酵素CPT-IIの失活)も関与し、脳血管内皮細胞がエネルギー不足に陥ると考えられています。
3. なぜNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が危険なのか?
ここで重要なのが、解熱鎮痛剤の種類です。
NSAIDsは炎症性サイトカインを増加させる可能性が動物実験で報告されています。
• 一部のNSAIDs(ジクロフェナク、サリチル酸系)は 血管内皮修復に関与する酵素を強く抑制し、脳血管障害の回復を遅らせる恐れがあります。
• 厚生労働省・PMDAは、インフルエンザ脳炎・脳症患者にジクロフェナクを投与すると予後が悪化すると注意喚起しています。
• 小児(特に15歳未満)ではNSAIDs使用が脳症リスクを著しく高めるため、原則禁忌とされています。
• 成人では脳症発症率が低いため、医師の判断で慎重に使用される場合があります。
代表的なNSAIDs(避けるべき薬)
-
アスピリン(バファリンAなどの市販薬に含まれることがある)
-
ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)
危険な理由:ミトコンドリアへの悪影響
NSAIDsが脳症を助長する理由は、細胞の中にあるエネルギー工場「ミトコンドリア」の働きを邪魔してしまうからだと言われています。
-
インフルエンザウイルス感染により、体はすでにエネルギー不足(代謝異常)の状態にあります。
-
そこにNSAIDsが入ってくると、脳の血管の細胞にあるミトコンドリアの機能がさらに低下します。
-
エネルギーを作れなくなった細胞は死滅したり、機能不全に陥ります。
-
結果として、前述した「血液脳関門」が崩壊しやすくなり、脳のむくみ(脳浮腫)が急速に悪化してしまいます。
かつて、アスピリンを服用した子供に「ライ症候群」という重篤な脳症が多く発生した歴史もあり、インフルエンザとNSAIDsの組み合わせは非常に相性が悪いのです。
4. インフルエンザの時に使える安全な解熱剤は?
では、熱が高くて辛い時はどうすればよいのでしょうか?
インフルエンザの時、小児から大人まで最も安全に使用できるとされているのが、「アセトアミノフェン」 という成分の解熱剤です。
-
病院で処方される薬: カロナール、アンヒバ(座薬)、アルピニー(座薬)など
-
市販薬: タイレノールA、小児用バファリン(※製品名によりますが、アセトアミノフェン単一成分のもの)
アセトアミノフェンは、NSAIDsとは異なり、脳の体温調節中枢に穏やかに作用するため、ミトコンドリアへの悪影響や脳症を誘発するリスクが低いとされています。
まとめ
-
インフルエンザ脳症は、免疫の暴走(サイトカインストーム)によって脳のバリアが壊れることで起こる。
-
NSAIDs(ボルタレン、アスピリン) は、細胞のエネルギー代謝を阻害し、脳症を悪化させるリスクがあるため、インフルエンザ時は使用を避ける。
-
熱を下げるなら、アセトアミノフェンを選ぶ。
「家にある大人用の痛み止めを半分にして子供に飲ませる」といった行為は、その薬がNSAIDsであった場合、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。
インフルエンザが疑われる場合は、自己判断で薬を飲まず、必ず医師の診察を受け、適切な処方薬を使用するようにしましょう。
2024-2025シーズンは鼻腔噴霧用のインフルエンザワクチンを130万本供給(2024/9/4)
2024年-2025年のインフルエンザシーズンを前に、厚生労働省はワクチンの供給量が
2734万本となる見通しをホームページに公開しました。
その割合として、通常のインフルエンザ予防接種の皮下注製剤が2604万本、鼻腔噴霧タイプが130万本供給するとしています。
鼻腔噴霧タイプは、聞きなじみにが無い薬かと思いますので、ご紹介しますと、2023年に2歳以上、19歳未満の方を対象として、鼻腔内に噴霧するタイプのインフルエンザワクチンが開発され、医薬品として商品されています。
薬品名は「フルミスト点鼻液」です。従来に皮下注製剤ですと間隔をあけて2回接種しなければなりませんでしたが、フルミスト点鼻液は各鼻腔に0.1mlを1噴霧ずつ使用すれば、ワクチン接種は完了となります。
皮下注摂取のような穿刺による刺激がないことに加えて、子供は間隔をあけて2回目の接種に行かなければならないという煩わしも減りますので、利便性の高い製品と考えられます。
フルミスト点鼻液には4種類(A型2株、B型2株)の弱毒性インフルエンザワクチンが含有されており、
・低温で効率よく増殖する
・A型株は39℃で増殖しにくくなり、B型株は37℃で増殖しにくくなる
・弱毒化してあり、インフルエンザ様症状を引き起こさない
という3つの特徴を有しています。
これらの特徴を有する医薬品を鼻に噴霧すると、弱毒化されたインフルエンザが鼻の中で増殖して、自然感染に近い状態となり、全身における液性免疫、細胞性免疫の誘導が行われて、体内に抗体がつくられるという作用が期待されます。
体内に抗体ができれば、自然界に存在するインフルエンザワクチンに感染するリスクがぐぐっとへりますよね。

チン「フルミスト点鼻液」が開発から7年を経て承認された理由
第一三共が英国アストラゼネカの子会社「メディミューン」から、日本国内での開発・販売権を取得して2016年6月に申請を行っていた”鼻腔噴霧インフルエンザ弱毒性ワクチン「フルミスト点鼻液」が医薬品として承認されました。
2016年6月に申請を行ってから6年半の時を経て承認されたことになります。
今回は「フルミスト点鼻液」が承認されるまで時間がかかった理由と、フルミスト点鼻液の使用方法・効果について以下に記します。
フルミスト点鼻液が承認されるまでに時間を要した理由
海外では2007~2008年のインフルエンザシーズンに冷凍製剤から液剤に変更された医薬品です。米国では2011年にFDAによって承認されていました。(弱毒化インフルエンザ生ワクチンとしては唯一の製剤でした)。欧州では2013年に承認されていました。
2013~2014年のシーズンにおけるインフルエンザワクチンの有効性結果が発表され、そのシーズンに優勢だったN1N1株に対して、フルミスト点鼻液は実証的な予防効果がないことが報告されまいた。(従来のインフルエンザワクチン(皮下注射)の有効性は従来通りでした)
2015~2016年に流行した優勢株は2009H1N1株であり、シーズン終了時のワクチン効果の中間推定では、皮下注インフルエンザワクチンと比較して、フルミスト点鼻液の効果は低下していたことが報告されました。
米国の予防接種実施顧問委員会は2016年6月の会議にて上記の結果を議論し、皮下注インフルエンザワクチンの発病阻止効果を60%と評価したのに対して、フルミスト点鼻液の有効性は、ほぼ0%と開示しました。H1N1株に対してフルミスト点鼻液の有効性が低下した数年間に、製造元であるメディミューンは製造株数を3価から4価に変更していました。H3N2株やB型株に対するフルミスト点鼻液の有効性については特に懸念はなく、H1N1株に対する4価フルミスト点鼻液の有効性だけがないという状況でした。
フルミスト点鼻液のH1N1株に対する有効性が低下した理由として、ワクチン中にH1N1株の量が全体的に少なかったため、ワクチン接種者の鼻腔上皮におけるウイルス複製が低下し、有効性が低下したと考えられています。
上記を理由として、米国では2016~2017、2017~2018の2シーズンにわたって、フルミスト点鼻液の使用が推奨されませんでした。
フルミスト点鼻液が2シーズンの間、使用が推奨されなかった経緯
カナダでは、フルミスト点鼻液の使用は推奨されていましたが、小児への優先的な使用推奨は削除されていました。
その後、製造元であるメディミューン/アストラゼネカはフルミスト点鼻液の新しいH1N1株を使用して有効性を検証し、鼻腔におけるH1N1株の複製が正しく行われ、血清抗体値が高くなる製剤であることを示しました。
米国予防接種実施顧問委員会(ACIP)は新たなフルミスト点鼻液の有効性を確認し、2018~2019年のインフルエンザシーズンから推奨事項を復活することを決定しました。
という海外での経緯があったわけです。

flumist
第一三共は2016年にフルミスト点鼻液を日本国内で承認申請しました。いわゆるH1N1株に効果がないタイプですね。厚生労働省は海外での事例をうけて、その時点での承認を見送りました。
承認されるまでに6年以上を要した理由について厚労省は記者会見にて、承認申請後に追加データが必要となり、企業が国内試験を追加で行ったとした上で、「その臨床試験の成績においても、いろいろとプロトコルからの逸脱等の話があり、それに対する企業の対応、それからPMDAの審査、トータルでいろいろ時間を要したということに尽きる」と述べています。
フルミスト点鼻液の使用方法
用法・用量
2歳以上19歳未満の者に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLずつ)を鼻腔内に噴霧する
インフルエンザワクチン(皮下注)を1回でも受けたことがある人は、フルミスト点鼻液は1シーズン1回接種でOK。2~8歳で、インフルエンザワクチンを受けたことが無い人は免疫を確実にするために、1カ月間隔でフルミスト点鼻液を合計2回接種します。
2歳未満の小児では呼吸困難のリスクが高くなるため使用できません。
フルミスト点鼻液使用後の、インフルエン発症予防効果が28%とされています。
従来のインフルエンザワクチン(皮下注)の発病阻止効果は34~55%とされています(1998~1999年の有効性解析結果より)
3年ぶりにインフルエンザの流行シーズン入り(2022/12/29)
厚生労働省はプレスリリースで「インフルエンザの流行シーズン入りについて」の速報を公開しました。
令和4年第51週(令和4年12月19日~令和4年12月25日)におけるインフルエンザの定点当たりの報告数が1.24となり、流行開始の目安といしている1.00を上回りました。
(定点数:全国5000か所、報告数6103)

20221228influ
尚、国立感染症研究所は、保健所ごとに定点当たり報告数が10を上回った場合を「流行発生注意報」、30を上回った場合を「流行発生警報」として発表しています。
私の現場の肌感を申しますと、去年や一昨年は冬の時期にタミフルやリレンザなどを手に取った回数はシーズンを通して1桁だったのに対して、
今年(2022年)は12月末時点で既に同程度のタミフルを調剤しています。
イメージですが
「熱があるから発熱外来を受診してみよう」→「去年や一昨年であればコロナ感染一択だったわけですが、2022~2023年シーズンは「コロナ」or「インフルエンザ」という感じで、インフルエンザ勢力が拡大した感じでしょうか。
いずれにしても、感染拡大を防ぐために各種対策(手洗いうがい・マスク・消毒・黙・距離感)を心がけたいと思います。
インフルエンザワクチンの流通状況(2021~2022年シーズン)
「今年はインフルエンザワクチンがなかなか手に入らない」という声は毎年のように耳にするので、「どうせいつも通り、なんだかんだで打ちたい人は打てるのでしょ?」と感じていたのですが、10月末時点においては、そうではない感じなのでインフルエンザワクチンの流通状況について調べてみました。
今年度(2021~2022シーズン)のインフルエンザワクチンの流通状況状況
昨年(2020~2021シーズン)と今年(2021~2022)の供給状況を比較しながらデータを見てみます。

influenza-2021
昨年(2020~2021シーズン)は3342万本(1本で大人2人分)のインフルエンザワクチンが供給され、3274万本が使用されました。
一方で、今年(2021~2022シーズン)では2021年10月22日時点で2818 万 本が供給見込みとされています。
(見込みであり、10月末時点における医療現場への供給量は全量の65%(1800万本)程度にとどまっています)
インフルエンザワクチンの2021-2022シーズン供給量について
昨年(2020~2021シーズン)はコロナウイルスとインフルエンザウイルスの両方が流行る可能性も示唆されており、インフルエンザワクチンの供給量及び使用量がいずれも過去最高の量となっていましたが、結果的には2020~2021シーズンのインフルエンザ感染者数は過去平均と比較して1/1000未満と記録的な低さとなりました。
2020~2021シーズンにおける1医療機関当たりのインフルエンザ感染者数は最も多い時でも0.02人となっておりました。
(注)インフルエンザ流行の目安は1医療機関あたり1人以上)
コロナウイルスもインフルエンザウイルスも鼻や喉から感染するタイプのウイルスですので、ウイルス同士が競合した結果「コロナウイルス」に軍配があがった年だったのかもしれません。
さて、2021~2022年のインフルエンザワクチンの供給状況を確認してみると、2818万本となっており、前年度にインフルエンザワクチンを使用した3274万本と比較して14%低下しています。それに加えて、去年(2020~2021シーズン)は10月下旬の段階で90%が出荷されていたのに対して、今年(2021~2022シーズン)は10月下旬の段階で65%しか出荷されておりません。
このことから「10月下旬になってもインフルエンザワクチンの予約ができない!」
という状況となっているようです。
去年(2020~2021シーズン)ワクチン接種した人達が「コロナもインフルエンザも怖いので、去年もインフルエンザワクチンを接種したから、今年も接種しよう」と全員が感じた場合、足りなくなりますね。一方で去年(2020~2021シーズン)を”異例の年”と考えて除外すると、それ以前のインフルエンザワクチン使用量の最大は2825万本となっており、今年度(2021~2022シーズン)の供給量でおおむねまかなえる本数となっています。

厚生労働省の見解としては
・供給ペースは遅れているものの、2021年11月~12月中旬ころまで継続体にワクチンが供給される見込み
・医薬品卸が医療機関へワクチンを納入する場合は昨年度の納入実績および返品実績を確認し、ワクチンの偏在が起こらないよう必要量を供給すること
とされていいます。
ここまで、2021~2022シーズンにおけるインフルエンザワクチンの供給状況を確認しました。
インフルエンザワクチンを打ちたいけど予約すらできない人は
「根気強く医療機関に電話をしてワクチンの入荷状況を確認すること」です。
供給が遅れているだけで、結果的には1医療機関あたりトータルでは従来通りの本数が入荷されることが想定されますので11月~12月中旬までは「時間をみつけて医療機関のホームページを確認・医療機関へ確認」が求められるかと思います。


コメント