尿酸再吸収阻害薬「ユリス錠」について
追記:2020年11月15日
ユリス錠は尿酸排泄・再吸収に関わるトランスポーターに作用することで、体内の尿酸値を下げる効果がある薬剤です。
私たちの体に備わっている尿酸排泄・再吸収に関するトランスポーターには
URAT1:近位尿細管に発現しており、尿細管を流れている”尿酸”を体内に再吸収(尿として出ていこうとする尿酸を体内に取り込む)する作用があります
ABCG2:腎臓や腸管に発現しており、体内の”尿酸”を尿や便として体外へ吐き出す作用があります
OAT1、OAT3:腎臓に発現しており、体内の”尿酸”を尿中に吐き出す作用があります。
上記は尿酸に関連するトランスポーターなのですが、URAT1(尿酸の取り込みを阻害する蛋白質)だけを選択的に阻害することが、抗尿酸薬としては理想です。URTA1を阻害しつつABCG2やOAT1、OAT3も同時に阻害してしまうと、再吸収を阻害しつつ体外への排泄も阻害してしまっては意味がありません。
ユリス錠とユリノーム錠に関して、上記トランスポーターに対する作用の違いを調べてみました。
URAT1に対する阻害作用(IC50値)
URAT1の働きを50%程度抑える(阻害する)のに必要な薬物量を比較してみます(少なければ少ないほど効き目が強いこと意味します)
ユリス錠:0.0372μmol/L
ユリノーム錠(ベンズブロマロン):0.19μmol/L(ユリス錠の5倍)
上記の数値を見ると、ユリス錠が非常に少量でURAT1の働きを阻害(抑える)することができることがわかります。
少ない量で効果が高いということは、実際に飲む薬の量を減らすことができるため副作用の発現量を減らすことにも寄与します。
一方で体内にある尿酸を体外へ排泄させるトランスポーターに対する作用も比較してみると
ABCG2に対する阻害作用(IC50)(尿や便として尿酸を排泄する蛋白質)
ABCG2の働きを50%低下させるのに必要や薬物量を比較します(少ないほど、尿酸が排泄できない=よくない)
ユリス錠:4.16μmol/L
ユリノーム錠(ベンズブロマロン):0.289μmol/L(ユリス錠の14倍)
ユリス錠と比較して、ユリノーム錠が少量でABCG2の働きを阻害(抑える)することがわかります。
ABCG2は体外へ尿酸を排泄させる働きがあるトランスポーターですので
ABCG2に対する作用が強い=尿酸排泄できないことを意味します。
ユリノーム錠(ベンズブロマロン)は尿酸を尿や便として排泄する作用を14倍妨げていることがわかります。
OAT1に対する阻害作用(IC50)(尿として尿酸を排泄する蛋白質)
OAT1の働きを50%低下させるのに必要や薬物量を比較します(少ないほど、尿酸が排泄できない=よくない)
ユリス錠:4.08μmol/L
ユリノーム錠(ベンズブロマロン):3.14μmol/L(ユリス錠の1.5倍)
OAT1に対する作用が強い=尿酸排泄できないことを意味します。
ユリノーム錠(ベンズブロマロン)は尿酸を尿や便として排泄する作用を1.5倍妨げていることがわかります。
OAT2に対する阻害作用(IC50)(尿として尿酸を排泄する蛋白質)
OAT2の働きを50%低下させるのに必要や薬物量を比較します(少ないほど、尿酸が排泄できない=よくない)
ユリス錠:1.32μmol/L
ユリノーム錠(ベンズブロマロン):0.967μmol/L(ユリス錠の1.36倍)
OAT2に対する作用が強い=尿酸排泄できないことを意味します。
ユリノーム錠(ベンズブロマロン)は尿酸を尿や便として排泄する作用を1.5倍妨げていることがわかります。
以上のことから、ユリス錠は尿酸を再吸収を促すトランスポーターに作用して、再吸収(尿酸を体内に取り入れる作用)を妨げると同時に、尿酸を排泄させる蛋白質への作用は低い(尿酸を排泄させるタンパク質は妨げない)ことがわかります。
更に、既存の治療薬(ユリノーム錠)より服用量が1/10程度でよいため肝機能関連の副作用頻度も低いという利点もあり有益な薬剤であることがわかりました。
2020年1月23日、尿酸再吸収阻害薬「ユリス錠」が新医薬品として承認されました。そこで今回は現在販売されている高尿酸血症治療薬と「ユリス錠」との違いについてまとめてみました。
ユリス錠とは
腎臓において尿酸を再吸収するトランスポーター(URAT1)を選択的に阻害することで、尿酸の再吸収を抑制し、尿酸排泄を促すことで血液中の尿酸値を低下させる作用があります。
注意)重度の腎障害患者さん(特に乏尿・無尿の方)に関しては、有効性が期待できません。
同様の薬理作用の薬に「ユリノーム錠(ベンズブロマロン錠)」があるのですが、ユリノーム錠は「劇症肝炎等の重篤な肝障害による死亡例が報告されていることから、投与開始後少なくとも6か月間ははならず、定期的に肝機能検査をすること」が使用上の警告として記されています。
一方、2020年時点における「ユリス錠」の添付文書には肝障害に関する警告はありません。私の印象ですが、ユリノーム錠と比較した場合のユリス錠の一番のポイントは「肝機能関連の副作用が少ない事」のように感じます。
「肝機能障害患者に対しては、慎重な経過観察を行うこと。他の尿酸排泄促進薬では重篤な肝障害が認められている。」と記す程度にとどまっています。
ただし、ユリス錠の臨床試験段階において、重篤な肝疾患を有する患者および肝機能が100U/Lを超える患者は除外されているため、現状では何ともいいがたいかもしれません。
ユリス錠の効果
1日1回0.5mgから服用を開始して、2週間以降に1日1回1mgへ増量し、投与開始から6週間以降に1日1回2mgへ増量する(維持量は通常2mg(適宜増減))。
ユリス錠2mgとユリノーム錠50mgを服用した比較データ
被験者
ユリス錠服用群102人(服用前血清尿酸値8.9mg/dl)
ユリノーム服用群98人(服用前血清尿酸値8.92mg/dl)
14週間上記薬剤を服用した後の血清尿酸値6.0mg/dl達成率は
ユリス錠2mg服用群:86.27%
ユリノーム錠50mg服用群:83.67%
ユリス錠2mgとフェブリク錠40mgを服用した比較データ
被験者
ユリス錠服用群99人(服用前血清尿酸値8.61mg/dl)
フェブリク錠服用群100人(服用前血清尿酸値8.67mg/dl)
14週間上記薬剤を服用した後の血清尿酸値6.0mg/dl達成率は
ユリス錠2mg服用群:84.8%
ユリノーム錠50mg服用群:88.0%
国内におけるフェブリク錠の使用量に関しては、フェブリク10mg、20mgの使用量が圧倒的に多く、40mgを使用している患者さんは10mg・20mgの使用人数と比較すると1/10程度です(厚生労働省のNDBオープンデータより)。ユリス錠2mgがフェブリク錠40mgに対して非劣勢が示されたことは、ユリス錠が高尿酸血症治療薬として非常に有益な薬であるなぁと個人的には感じます。
ユリス錠を使用する際の注意点
尿酸を尿として排泄させる薬剤ですので、尿中の尿酸濃度が増加します。そのため尿が酸性に偏っている方の場合、尿路結石・血尿などの症状を引き起こす可能性があります。そのため、防止策として水分を十分に摂取して尿量を増加させること、尿をアルカリ性に保つこと(野菜や海藻類を食べる)などが対策例としてあげられます。
(尿をアルカリ性に保つ薬剤にはウラリット配合錠などがあります)
ユリス錠の剤形特性/薬物動態
・ユリス錠1mg、2mgには割線が入っています。(0.5mgには割線はありません)
・0.5mg、1mg、2mgすべての規格がPTP100錠包装のみの販売となります(2020年発売時点)
・ユリス錠の半減期が9.5時間ですので定常状態(薬安定して効き始める)に達するまでに2日程度かかります
・承認された最大投与量は1日1回4mgまで