おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

認知症

1日のうちで座っている時間が長いほど認知症発症リスクが増加(2023/9/25)

投稿日:2023年9月24日 更新日:

nintisyo

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1日のうちで座っている時間が長いほど認知症発症リスクが増加(2023/9/25)

1日のうちで座っている時間の長さと認知症の発症リスクに関する報告がありました。

眠っている時間を除いて、1日のうちで座っている時間の長さを集計し、その後の認知症発症リスクの関係が調査されました。

被験者:4万9841人、平均年齢67歳

手首に加速度計を測定し1週間の行動データが解析されました。

平均追跡期間は6.72年間で、414人が認知症を発症しました。

1日の座っている時間の中央値は9.27時間であり、1000人あたり認知症の発症頻度は7.49人です。

1日の座っている時間が10時間になると、1000人あたりの認知症発症頻度は8.06人

1日の座っている時間が12時間になると、1000人あたりの認知症発症頻度は12人

1日の座っている時間が15時間になると、1000人あたりの認知症発症頻度は22.74人

上記のデータより、1日のうちで座っている時間が1時間増加すると、認知症症例数が1000人あたり0.19人増加すると計算されます。

1日のうちで座っている時間と認知症発症頻度の関係について

認知症治療の継続率について(2022/11/21)

日本国内における認知症治療の継続率についてのでデータが開示されましたので以下にしるします。

2021年4月~2021年10月までの期間、日本国内で新たにドネペジルが処方された認知症患者さんの保険請求データをもとに、抗認知症治療薬(ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミン・メマンチン)がドネペジル最終処方後60日以内に処方された場合を「継続」と定義し調査が行われています。

認知症治療の継続率について(日本国内保険請求データより)

被験者:認知症治療患者2万474例(平均年齢:82.2歳、女性の割合65.7%)

抗認知症治療薬の継続率

開始後30日間:89.1%

開始後90日間:79.4%

開始後180間:72.6%

開始後360日間:64.5%

開始後540日間:58.3%

ということで、ドネペジル初回処方後、1年間の認知症治継続率は64.5%、1年半後には58%となることが示されました。

また、要介護度別の治療中断率(ハザード比)については、

介助が必要な患者で1.01

長期介護の必要性が低度の患者で1.12

介護の必要性が中程度~高度の患者で1.31

と報告されました。

上記データはハザード比で示されていますので、値が大きいほど治療中断リスクが高いというデータです。

介護度が高いほど、認知症の治療を中断することが多いことが示されました。

糖尿病HbA1cと認知症の関連について

欧州糖尿病学会(2020年9月21~25日)、スウェーデンで継続的に行われている全国規模の糖尿病に関連の報告によると、糖尿病患者におけるHbA1cは認知症リスクと関連があることが報告されました。

2型糖尿病患者37万8299人と非糖尿病188万6022にんを比較したデータ(追跡期間:中央値6.8年)

認知症発症リスク

2型糖尿病患者群:2万1651人(5.72%)

非糖尿病群:9万8723人(5.23%)

さらに、認知症のタイプ別に検討したけっか、血管性認知症との間に最も強い関連が観察され、2型糖尿病患者群におけるリスクが36%高いことが報告されています。(ハザード比:1.36)

 

HbA1c7%未満群とHbA1c10.2%以上群で比較した場合、HbA1c10.2%以上群で以下のリスクが高いことが報告されました。

アルツハイマー病発症リスク:34%UP

血管性認知症発症リスク:93%UP

非血管性認知症発症リスク:67%UP

以上の結果より、2型糖尿病と認知症との関連は、認知症のタイプによって異なり、血糖コントロールが不良な群では血管性、非血管性認知症リスクが高いことが示唆されたとしています。

糖尿病HbA1cと認知症発症リスクについて

 

アルコールによる意識消失と認知症発症リスクについて

アルコール摂取による意識消失(アルコールを飲んで記憶がなくなった)は、認知症発症リスクをおよそ2倍に引き上げる報告がなされました

アルコール摂取による意識消失と認知症発症リスクについて

 

軽度認知障害と睡眠時間の関係について

大分大学の研究グループは、長すぎる睡眠時間は認知障害の危険因子となりうるという研究報告を行っています。

長すぎる睡眠時間は認知症の原因?

 

65歳以上の被験者855例を対象として認知機能について検査した結果、118例が軽度認知障害と診断を受けました。その118例を対象として、睡眠時間・皮質アミロイド負荷試験・脳グルコース代謝試験・歩数・会話時間について調査が行われました。

その結果、睡眠時間が325分(5時間25分)より長い場合、脳におけるブドウ糖の代謝量の低下が確認されたとしています。具体的には睡眠時間が325分を超えた場合、脳におけるブドウ糖の代謝と睡眠時間とは逆相関の関係にあるとしています。

会話時間・歩数・βアミロイドクリアランスとは相関関係は確認されておりません。

 

調剤薬局で65歳以上の患者さまにお薬をお渡ししていると、「本当は7~8時間眠りたいんだけど、5~6時間くらいで目が覚めてしまうので睡眠薬をもらったよ」といったお話を伺うケースが時折あります。

 

今回の大分大学の報告例を踏まえると、年を重ねるにつれて睡眠時間が短くなるということは、脳にとって、認知機能を維持するためには有益な作業なのかもしれないと感じました。

逆に、7~8時間の睡眠を得るために睡眠薬を飲むことが脳にとって良いのかどうかについては、今後の報告を待ちたいところです。

 

軽度認知障害に対するビフィズス菌(B.breveA1)の効果について

 

腸内細菌叢と認知症に関する報告を森永乳業の研究グループが報告していました。

軽度認知障害に対するビフィズス菌の効果について

 

整腸剤を使用すると腸管内の炎症や環境改善と関連しており、軽度認知障害における中枢神経疾患へ寄与できるのでは?ということが示唆されております。

 

森永乳業は以前に、認知症マウスモデルに対してビフィズス菌(B.breveA1)を投与したところ、記憶機能の管理に加えて脳内アミロイドβ蓄積によって誘導される炎症や免疫反応遺伝子の抑制にについて関連性があることを報告しています。また、軽度認知障害に対してビフィズス菌(B.breveA1)を投与したところ即時記憶の有意な改善が観察されており、ビフィズス菌(B.breveA1)には認知機能改善効果があるのでは?という仮説示唆されていました。

 

そこでプラセボ対象試験として軽度認知障害に対するビフィズス菌(B.breveA1)の効果について検証が行われました。

 

被験者:軽度認知障害の疑いがある日本人79人(50~79歳)

 

被験者を、ビフィズス菌(B.breveA1)を100億個含むカプセルを飲む群とビフィズス菌を含まないカプセルを飲む群に分け、1日2錠ずつ16週間継続服用した時点での認知機能を評価しています。

 

結果

アーバンス神経心理テストの結果、ビフィズス菌(B.breveA1)を飲んだ群はプラセボ群と比較して総合的な認知機能のスコアが有意に改善していました。(平均群間差11.3ポイント改善)

 

記憶領域ごとのスコアを見てみるとプラセボ群と比較して即時記憶(9.2ポイント改善)、視覚空間、構築スコア(11.4ポイント改善)、遅延スコア(11ポイント改善)

 

以上の試験結果を踏まえ、筆者らはビフィズス菌(B.breveA1)は軽度認知障害が疑われる被験者の記憶機能を改善するための成分として安全で効果的であることを報告しています。

(安全性評価ではビフィズス菌服用群・プラセボ群ともに血圧や心拍数を含むバイタルサインに変化なし、有害事象は発生していません。)

 

筆者らは考察の中で、内側側頭葉体積の減少と海馬委の縮小が即時記憶・遅延記憶スコアの減少と有意に関連していることを踏まえ、ビフィズス菌(B.breveA1)を摂取することで両方のスコア有意に改善したということは、ビフィズス菌(B.breveA1)が内側側頭葉および海馬に対してよい影響を与えているのでは?と示唆しています。

 

ビフィズス菌は腸管内において短鎖脂肪酸の合成に寄与し、免疫系を調節することが示されています。筆者らは認知症マウスモデルにおいて短鎖脂肪酸が認知機能の低下を部分的に改善することを報告しています。その報告においてビフィズス菌(B.breveA1)の投与が認知症マウスの血漿中の短鎖脂肪酸濃度を上昇したことを伝えています。

 

また脳由来神経栄養因子(BDNF)の変化については、マウス実験においてビフィズス菌などの腸内細菌叢の変化に関係することが報告されており、神経疾患に関する遺伝子や炎症経路に有益な影響があるのでは?と示唆されています。

(健常者と比較して認知症患者では血液中のBDNF濃度が上昇していることが報告されています)

 

筆者らは今後の調査としてビフィズス菌(B.breveA1)の摂取が血液中のBDNF濃度のとの関連性などについて今後の研究課題としています。

 

中国の製薬会社がアルツハイマー病の新薬“Oligomannate”を開発(2019/11/6)

 

2019年11月、中国の製薬会社“上海緑谷製薬”が軽度から中等度のアルツハイマー病治療薬“Oligomannate”を発売することが報道されました。新規作用機序のアルツハイマー病治療薬が発売されるのは17年ぶりです。

 

新薬“Oligomannate”=オリゴマナン酸は腸内環境での代謝異常を改善することで、アルツハイマー病の認知症スコアを改善することができる飲み薬です。腸内環境とアルツハイマー病ということで一見すると関係があるのかな?という疑問がわきましたので、詳しく調べてみました。

 

腸内環境とアルツハイマー病の関係について

 

腸内細菌は食事に含まれるたんぱく質を適切に代謝する働きがあるのですが、この代謝に異常が生じた場合、2種類のアミノ酸(フェニルアラニン・イソロイシン)の代謝がうまくいかず、血液中のフェニルアラニン・イソロイシン濃度が上昇してしまうことがマウスを用いた実験で報告されています。

 

さらに、血中のフェニルアラニン・イソロイシン濃度が高いマウスでは、脳浸潤末梢Th1免疫細胞の増殖・炎症ミクログリアの活性に寄与しており、アルツハイマー病患者(ヒト)における脳内の神経炎症の要因となっていることが報告されています。

 

Oligomannate(オリゴマンナン酸)とは

 

オリゴマンサン酸は腸内環境を改善し、フェニルアラニン・イソロイシンの代謝異常を修復することで血中のフェニルアラニン・イソロイシン濃度を低下させる働きがある治療薬です。マウスでの報告ですが、オリゴマンナン酸を投与されたマウスでは、脳Th1細胞の減少・ミクログリアの活性化を抑制に加えて、βアミロイド沈着・タウタンパクのリン酸化を減少させ、学習能力の低下を改善したことが報告されています。

 

注目すべきは、βアミロイドおよびタウタンパクの減少という部分です。βアミロイド・タウタンパク質はアルツハイマー病の原因ではないか?予想されているタンパク質の凝集です。この2つのタンパク質凝集を減少させることを目的として、各製薬会社が様々な研究を行っています。(モノクロナール抗体の開発など)

monowasure

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今回、中国で発売されるオリゴマンサン酸は直接的ではなく、間接的にβアミロイド・タウタンパク質のリン酸化を減少させている点が非常に興味深い点です。

中国における第三相臨床試験データ

 

被験者:軽度~中等度のアルツハイマー病患者818例

期間:36週間(252日)にわたりオリゴマンナン酸またはプラセボを服用しました。

 

結果:服用から4週間目より認知機能の改善が確認され、9カ月間(270日)の治療終了まで持続しました。

 

上記の試験で用いられた認知症スケールはADAS-Cog12 scoreという評価基準です。

0点~70点までの評価スケールで点数が高いほど認知症がすすんでいることを示しています。

 

オリゴマンナン酸を投与した群では、試験終了の36週時点でー2.7ポイントのADAS-Cog12スコアの減少が確認されました。プラセボ服用群は36週時点で-0.16ポイントの減少が報告されていますので、その差―2.54ポイントがオリゴマンサン酸による認知症改善効果ということになります。

 

ヒトの腸内環境は国や地域によって(食生活によって)様々に異なりますので、オリゴマンサン酸が、全世界のアルツハイマー病患者に同じように作用するかどうは不明ですが、まずは中国で発売された後の治療成績・効果について注目があるまるところです。

オリゴマンサン酸によるアルツハイマー病の治験データ

-認知症
-アルツハイマー病, オリゴマンサン酸, 中国, 治療薬

執筆者:ojiyaku


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