ピーナッツアレルギーの小児によるフードチャレンジ報告(2022/1/30)
ピーナッツアレルギーを有する幼児は、ピーナッツが入っていない食品(ピーナッツフリー)をとることが標準的な対応策となります。
米国において、ピーナッツ経口免疫療法に関する報告がありましたので以下に記します。
尚、経口免疫療法において以下の用語が頻回に登場しますので、最初にその意味合いを記します。
脱感作(だつかんさ)
少量のピーナッツタンパク質を摂取し続けることにより、体内でのアレルギー反応の閾値(アレルギーとして認識する最小限の値)を上昇させることで、ピーナッツタンパク質への過敏性を減弱させる方法
寛解(かんかい)
免疫療法を中止後にピーナッツを摂取してもアレルギー症状を起こさないで経過できる状態
尚、以下は専門医の指導の下での比較試験となりますことをご了承ください。
被験者:ピーナッツタンパク質500mg(ピーナッツ 2~3粒)程を摂取したときにアレルギー症状を呈した12歳以下の小児(平均年齢3歳)
被験者146人をピーナッツ経口免疫療法群(96人)とプラセボ(偽薬)群(50人)にランダムに振り分けます。
ピーナッツ経口免疫療法群には1日あたりピーナッツタンパク質として2000mg(ピーナッツ10粒程度)を134週間(約2年半)摂取し続けます。この期間を脱感作期間とし、その後、回避療法期間として26週(約半年)を設けます。回避療法期間が終了した時点(160週目(3年後))にピーナッツタンパク質5000mgを摂取した場合の寛解の程度を調査しています。
試験データ
ピーナッツ経口免疫療法を2年半受けた96人中68人が脱感作を達成し、ピーナッツタンパク質への過敏状態が軽減しました。
プラセボ群では2年半のプラセボ服用後50人中1人が脱感作を達成しました。
134週間の経口免疫療法を終了した時点において、耐容量(アレルギー症状を発症しないで耐えうる摂取量)はの中央値は
ピーナッツ経口免疫療法群:5005mg
プラセボ群:5mg
134週間の経口免疫療法治療後に26週の回避期間を設け、160週目(3年後)において寛解基準(アレルギー症状を発症しない状態)を満たしている割合は
ピーナッツ経口免疫療法群:96人中20人
プラセボ群:50人中1人
160週間後(3年後)において、耐容量(アレルギー症状を発症しないで耐えうる摂取量)はの中央値は
ピーナッツ経口免疫療法群:755mg
プラセボ群:0mg
結果として、134週間(2年半)のピーナッツ経口免疫療法を終えた時点では70%の小児が5000mgのピーナッツタンパク質への耐性(食べても大丈夫)な状態を獲得していたわけですが、160週後(3年後)にその状態を維持でてきていたのでは、そのうちの30%程度だけでした。
また、ピーナッツ経口免疫療法実施群において、アレルギー反応が頻発しており、21名の被験者で中等度の症状を伴う35件のアレルギー症状が発生しておりエピネフリンが投与されています。
注)エピネフリンとはアナフィラキシーショック等の強いアレルギー症状を呈した時に、免疫細胞から放出されるアレルギー因子を抑えて、循環血流を維持させるとともに、気道の収縮を抑えて呼吸を楽にするはたらきがあります。
上記のような強いアレルギー症状を呈する可能性がありますので、アレルギー食品に対する脱感作(アレルギーを克服するために少量ずつ摂取する治療)は専門医のもとで行うべきです。
筆者らは小児におけるピーナッツ経口免疫療法のまとめとして、4歳以前にピーナッツ経口免疫療法を開始すると脱感作および寛解の両方の状態を改善・増加させることが確認された。また寛解の程度、免疫学的なバイオマーカーとも相関していた(血液中のピーナッツに対する過剰免疫が増加していなかった)。この結果から考えると、ピーナッツアレルギーを寛解に導くための手法としては幼少期にチャレンジすることが有益かもしれないとまとめています。
ピーナッツアレルギー治療薬が米国(FDA)で承認(対象:4~17歳)
米国FDAはピーナッツアレルギー治療薬Palforziaを承認したことをホームページに掲載しました。
Palforziaはピーナッツアレルギーの診断が確定した4~17歳を対象とした治療薬です。
ピーナッツアレルギーとは体の免疫が、少量のピーナッツでさえも、「有害である」と誤認するために生じる疾患です。ヒトによってはごく微量のピーナッツを摂取しただけでも数秒以内に皮膚反応(蕁麻疹・発疹)や消化器不快感(嘔吐・下痢)、呼吸苦などを生じる可能性があります。
Palforziaはピーナッツ由来の粉末であり、最初は少ない量から摂取して、徐々にその量をふやして体を慣らしていこうということを目的にした製剤です。
Palforziaは初回投与量(一番少ない量)を摂取後、1日ごとに服用量をふやしていき、11段階にわけて薬を徐々に増やしていきます。治療中はアナフィラキシーショックを含む重篤なアレルギー反応を起こす可能性がありますので、治療は専門の医師の管理下のもとで行われます。
ピーナッツアレルギー患者500人を対象とした治験データ(対象:米国・カナダ・ヨーロッパ)によるとPalforzia療法を6か月間おおなった被験者に対して、ピーナッツタンパク質600mg(ピーナッツ2粒程度)を食べたところ、67.2%で忍容性が確認されました。(軽度のアレルギー症状あり)。一方で、Palforzia治療を行わなかったピーナッツアレルギー患者では4%しか忍容性がしめされませんでした。
注:Palforzia療法における維持療法ではピーナッツタンパク質300mgが投与されていました。
副作用
Palforzia療法における安全性について
腹痛・嘔吐・吐き気・かゆみ(口・耳)
咳・鼻水・喉の刺激
蕁麻疹・喘息・アナフィラキシー
などが報告されています。
また、コントロール不良の喘息患者に対してはPalforziaは投与すべきでないとしています。