辛いしもやけの正体と対策:ユベラ軟膏と市販薬の成分を徹底解説
本格的な冬の到来や、季節の変わり目になると、手足の指先や耳がジンジンとかゆくなったり、痛くなったりすることはありませんか?
「たかがしもやけ」と軽く考えてしまいがちですが、あの耐え難いかゆみや痛みは、日常生活の質を大きく下げる悩ましい問題です。
今回は、しもやけ(凍瘡)がなぜ起こるのかという根本的な原因から、ご家庭でできる予防法、そして病院で処方される「ユベラ軟膏」とドラッグストアで購入できる市販薬の違いについて、具体的な数値を交えながら詳しく解説していきます。
1. しもやけ(凍瘡)とは?そのメカニズムを知ろう
しもやけは、医学用語で「凍瘡(とうそう)」と呼ばれます。主に冬の寒さによって、手や足の指、耳、頬、鼻先といった体の「末梢(まっしょう)」部分、つまり中心から遠い先端部分の血流が悪くなることで生じる炎症です。
なぜ赤く腫れるのか?
私たちの体は、体温を調節するために血管を収縮させたり拡張させたりしています。寒い場所にいると、体温を逃がさないように血管はギュッと縮まります(収縮)。逆に温まると、血管は広がります(拡張)。
しもやけは、この血管の調整機能がうまく働かなくなることで起こります。寒さで動脈が縮んだあと、温まって動脈が元の太さに戻ろうとしても、血液を心臓に戻す静脈の回復が追いつかないことがあります。すると、行き場を失った血液が末梢の血管に溜まってしまいます。これを「うっ血」といいます。
このうっ血により、血液中の水分が血管の外にしみ出し、周囲の組織がむくんで赤紫色に腫れ上がり、神経を刺激してかゆみや痛みを引き起こすのです。
発症しやすい気温の条件
しもやけは、真冬の氷点下の日にだけ起こるわけではありません。実は、以下の具体的な気象条件で発症しやすくなります。
-
気温: 平均気温が4℃から5℃の日
-
寒暖差: 1日の気温差が10℃前後ある場合
このため、真冬はもちろんですが、寒暖差が激しい「初冬(11月下旬〜12月)」や「初春(2月〜3月)」に多く見られるのが大きな特徴です。

2. あなたはどっち?しもやけの2つのタイプと症状
しもやけには、大きく分けて2つのタイプがあることをご存じでしょうか。ご自身の症状がどちらに当てはまるか確認してみましょう。
① 樽柿(たるがき)型
-
特徴: 手足の指全体や、耳たぶ全体が熟した柿のように赤紫色に腫れ上がります。
-
発症しやすい人: 子どもに多く見られるタイプですが、大人でも発症します。パンパンに腫れるため、靴が履きにくくなることもあります。
② 多形紅斑(たけいこうはん)型
-
特徴: 指や耳などに、小指の頭くらいの大きさの赤い発疹や盛り上がり(丘疹)がポツポツとできます。
-
発症しやすい人: 大人によく見られるタイプです。一見すると虫刺されのようにも見えますが、寒さが原因で起こります。
共通する辛い症状
どちらのタイプも、「温まるとかゆくなる」のが最大の特徴です。お風呂に入ったり、夜布団に入って体がポカポカしてくると、猛烈なかゆみや、ジンジンするような痛がゆさに襲われます。
症状が悪化すると、患部に水ぶくれ(水疱)ができたり、それが破れてジュクジュクした傷(潰瘍)になったりすることもあります。こうなると細菌感染のリスクも出てくるため、早めのケアが必要です。
3. しもやけになりやすい原因とリスク
「同じように寒い場所にいたのに、私だけしもやけになった」という経験はありませんか? しもやけには、環境だけでなく体質や生活習慣も大きく関係しています。
遺伝的要素と体質
末梢の血管調節機能には個人差があります。遺伝的に手足の血管が細かったり、自律神経の働きによって血管の収縮・拡張の切り替えが苦手な体質の方は、しもやけになりやすいと考えられています。
ご両親や兄弟がしもやけになりやすい場合、ご自身もなりやすい傾向があるかもしれません。
濡れた状態は最大の敵
手袋や靴下を着用していても、注意が必要です。
-
汗による蒸れ: 厚手の靴下や手袋の中で汗をかき、その水分が蒸発する際に皮膚の熱を奪います(気化熱)。
-
濡れたままの放置: 雪遊びをした後の手袋や、雨で濡れた靴下をそのままにしていると、皮膚表面の温度が急激に下がります。
濡れた状態は、乾燥した状態よりもはるかに早く体温を奪うため、しもやけの強力な誘因となります。
4. 日常生活でできる予防と対策
薬を使う前に、まずは日常生活でのケアが基本となります。以下のポイントを意識しましょう。
① 徹底的な「保温」
外出時は、マフラー、手袋、厚手の靴下、耳あてなどを活用し、冷たい外気に直接触れないようにします。
特に便利なのが「小型の使い捨てカイロ」です。ただし、低温やけどには十分注意し、皮膚に直接貼らないようにしましょう。
② 「防湿」と「乾燥」
汗をかいたり、雨雪で濡れたりした靴下や手袋は、すぐに取り替えましょう。
特に子どもは遊びに夢中になって濡れたまま過ごしがちです。大人がこまめにチェックしてあげてください。また、靴の中敷き(インソール)も湿気を含みやすいため、帰宅後は靴をしっかり乾燥させることが重要です。
③ 血行促進マッサージ
お風呂上がりなど、皮膚が清潔で温まっている時に、指先や耳などを優しくもみほぐすマッサージを行うと効果的です。血流を促すことで、うっ血を解消します。
※ただし、すでに腫れがひどい場合や、水ぶくれができている場合は、マッサージをすると皮膚を傷つける恐れがあるため控えてください。
5. 病院での治療薬:ユベラ軟膏のすごい効果
症状が改善しない場合、皮膚科を受診するとよく処方されるのが「ユベラ軟膏」です。
この薬は、単なる保湿クリームではありません。しもやけに対する適応がある医薬品です。ここでは、その成分と作用機序(効く仕組み)を詳しく解説します。
ユベラ軟膏の成分構成
ユベラ軟膏1g中には、以下の有効成分が含まれています。
-
トコフェロール(ビタミンE):20mg(濃度2%)
-
ビタミンA油:5000ビタミンA単位
各成分がどのように皮膚に働きかけるのかを見ていきましょう。
薬理作用①:ビタミンEによる「血流の改善」
ビタミンEは脂溶性(油に溶ける性質)のビタミンです。ユベラ軟膏は、脂質の密度が高い皮膚組織によく浸透するように設計されており、塗ることで皮膚から吸収(経皮吸収)されます。
-
血管平滑筋への直接作用:
皮膚の血管の壁には「平滑筋」という筋肉があります。ビタミンEはこの筋肉に直接働きかけ、緊張をほぐして血管を広げます。これにより、滞っていた血液の流れがスムーズになり、皮膚の温度(皮膚温)を上昇させます。 -
血管透過性の抑制(むくみ防止):
しもやけの腫れの原因となる「血管からの水分の漏れ出し(血管透過性の亢進)」を抑える働きがあります。これにより、パンパンに腫れるのを防ぎます。
薬理作用②:ビタミンAによる「皮膚の修復と保護」
ビタミンAも脂溶性ビタミンであり、皮膚の代謝に深く関わっています。
-
新陳代謝の促進:
ビタミンAは、表皮の細胞における「ムコ多糖類」という保水成分の代謝を高めます。簡単に言うと、皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)を活発にします。 -
異常角化の抑制:
寒さや乾燥でダメージを受けると、皮膚の表面(角質層)が硬く厚くなる「角化」や、ガサガサになる「異常角化」が進みます。ビタミンAはこれを防ぎ、皮膚を正常でなめらかな状態に保ちます。
2つのビタミンの相乗効果
ビタミンEには「ビタミンAの体内での利用効率を高める」という働きがあることが報告されています。
つまり、ユベラ軟膏は、ビタミンEが血行を良くして温め、ビタミンAが荒れた皮膚を修復するという、しもやけ治療にとって理想的なコンビネーションを実現している薬剤なのです。
注意)ユベラ軟膏は15度以下で保管をお願いします。
6. ドラッグストアで買える薬との違い
「病院に行く時間がないから、市販薬で治したい」という方も多いでしょう。
残念ながら、処方薬である「ユベラ軟膏」そのものはドラッグストアでは販売されていません。では、似たような薬はあるのでしょうか?
市販薬の代表例「トフメルソフト」との比較
ユベラ軟膏に近い成分を含む市販薬として、「トフメルソフト」という軟膏があります。両者を比較してみましょう。
-
ユベラ軟膏(処方薬):
-
ビタミンE濃度:2%
-
主目的:血行促進と皮膚修復
-
-
トフメルソフト(市販薬):
-
ビタミンE濃度:1%
-
主成分:ジフェンヒドラミン2%(かゆみ止め成分)
-
その他の成分:グリチルレチン酸(抗炎症)、ビタミンA、など計6種類
-
効能効果:かゆみ、しっしん、皮ふ炎、かぶれ、しもやけ
成分から見る使い分けのポイント
ここでの大きな違いは、ビタミンEの濃度です。
ユベラ軟膏には2%含まれていますが、トフメルソフトは1%です。つまり、血行を改善して根本から治す力は、やはり処方薬であるユベラ軟膏の方が高いと言えます。
しかし、市販薬のトフメルソフトには、ユベラ軟膏には入っていない「ジフェンヒドラミン」という成分が配合されています。これは、アレルギー症状やかゆみを引き起こす「ヒスタミン」という物質の働きをブロックする成分です。
そのため、「しもやけの腫れよりも、とにかく今ある『かゆみ』をなんとかしたい」という場合には、市販のトフメルソフトを試してみる価値は十分にあります。
【第3類医薬品】トフメルソフト チューブタイプ 60g 【三宝製薬】【ゆうパケットパフ対応】
7. 治らない時は要注意!背後に潜む病気
通常、しもやけは春になり気温が暖かくなれば自然に治っていきます。
しかし、以下のような場合は、単なるしもやけではない可能性があります。
-
春を過ぎて暖かくなっても治らない
-
冬ではないのに、しもやけのような症状が出た
-
手指が真っ白になり、その後紫色、赤色と色が変化する(レイノー現象)
このような場合、「たかがしもやけ」と放置せず、季節外れの症状や、なかなか治らない重い症状がある場合は、必ず皮膚科専門医を受診して詳しい検査を受けてください。

8. まとめ
しもやけは、寒さによる血管調節の不具合によって起こる、辛い皮膚トラブルです。
予防には、気温4〜5℃、寒暖差10℃前後の日を特に警戒し、手袋や靴下の「保温」と、汗や水分を残さない「防湿」が重要です。
治療においては、以下のポイントを押さえておきましょう。
-
処方薬(ユベラ軟膏): 2%という高濃度のビタミンEが血流を改善し、ビタミンAが皮膚を修復します。根本的な治療に非常に有効です。
-
市販薬(トフメルソフト等): ビタミンEが1%含有されており、かゆみ止め成分が含まれているため、かゆみが強い場合の応急処置として役立ちます。
血行を改善するためには、薬の使用だけでなく、ビタミンEを多く含む食品(アーモンド、うなぎ、かぼちゃなど)を積極的に摂取したり、入浴で全身を温めたりすることも大切です。
「指先がちょっと赤いだけ」と我慢せず、適切なケアと治療を行い、快適な冬を過ごしましょう。症状が長引く場合は、迷わず医療機関を受診してください。
