高血圧を理解する:仕組みから治療、日々の対策まで徹底解説!
高血圧は、日本人の約4,300万人以上が抱えているといわれる身近な病気ですが、その仕組みや治療法、そして日常生活での対策について、詳しく知る機会は少ないかもしれません。
この記事では、血圧がどのようにして発生し、なぜ高くなるのか、そして高血圧をどのように管理していくのかをお伝えいたします。
血圧の基本:心臓と血管の連携プレイ
血圧の仕組み
血圧とは、血管の中を流れる血液が、その血管の壁を押し広げる圧力のことです。一般的に「血圧」というとき、私たちは動脈の圧力(動脈圧)を指しています。
心臓は、全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしており、収縮と拡張を繰り返すことで血管に圧力をかけ、全身の組織に血液を届けています。
血液の循環経路
心臓には4つの部屋があります。
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右心房と右心室
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左心房と左心室
全身を巡って二酸化炭素を多く含んだ静脈血は、大静脈を通って右心房に戻ります。その後、右心室から肺動脈を通って肺へ送られ、ここで二酸化炭素と酸素の交換(ガス交換)が行われます。
酸素をたっぷり含んだ動脈血は、肺静脈を通って左心房へ戻り、左心室から大動脈を経由して再び全身へと送り出されます。
収縮期血圧と拡張期血圧
血圧には2つの数値があります。
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収縮期血圧(上の血圧): 心臓が収縮して血液を勢いよく送り出した瞬間、血管にかかる最も高い圧力です。血管には弾力があるため、この急激な圧力上昇を一時的に血管が膨らむことで和らげ、末梢(体の隅々)に負担がかからないようにしています。
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拡張期血圧(下の血圧): 心臓が拡張して次の血液を受け入れている間の、最も低い圧力です。このとき、膨らんでいた血管が元に戻ろうとする力(弾力)によって、一定の低い圧力を保っています。
この収縮期血圧と拡張期血圧の差を脈圧といい、血管の硬さ、つまり動脈硬化の進行度を示す指標の一つとされています。脈圧が大きいほど、動脈硬化が進んでいる可能性が高く、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
血圧を決める重要な要素
1. 心拍出量(心臓から送り出される血液の量)
心拍出量は、心拍数(1分間の心臓の拍動回数)と1回拍出量(1回の拍動で送り出される血液の量)の掛け算で決まります。心臓の収縮力や、全身を循環している血液の量(循環血液量)などが影響します。
2. 末梢血管抵抗(血液の流れにくさ)
血液が全身の細い血管(末梢血管)を流れる際の抵抗のことです。抵抗が高いと血液は流れにくくなり、血圧は上がります。血管の面積、血管壁の弾力性、そして血液の粘度(ドロドロ度)などが影響します。
血圧をコントロールする調節システム
私たちの体には、血圧を一定に保つための精密なシステムが備わっています。これらが連携して働き、血圧が上がりすぎたり下がりすぎたりしないように調節しています。
1. 自律神経系
アクセル役の交感神経と、ブレーキ役の副交感神経のバランスで働いています。
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交感神経: 興奮したりストレスを感じたりすると働き、心臓の活動を高めたり、血管を収縮させたりして血圧を上げます。また、腎臓に働きかけて血圧を上げるホルモン(レニン)の分泌も促します。
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副交感神経: リラックスしているときに働き、心臓の活動を抑えたり、血管を拡張させたりして血圧を下げます。
交感神経が血管にある特定の受容体(アルファ1受容体、ベータ1受容体など)を刺激すると、血管が収縮したり、心拍数や心臓の収縮力が増したりして、血圧が上昇します。
2. ホルモンによる調節(内分泌系)
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レニン・アンジオテンシン系 (RA系): 強力に血圧を上げるシステムです。腎臓から分泌されるレニンの働きで最終的にアンジオテンシンIIという物質が作られます。アンジオテンシンIIは非常に強い血管収縮作用を持ち、さらにアルドステロンというホルモンの分泌を促して循環血液量を増やすことで、血圧を上昇させます。
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カリクレイン・キニン系: RA系とは反対に、血圧を下げるシステムです。ブラジキニンという物質が作られ、血管を拡張させたり、体内のナトリウムや水分の排泄を促したりして、血圧を下げます。
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3. 腎臓による循環血液量の調節
腎臓は、血液をろ過して尿を作る際に、体に必要な水分やナトリウム(Na)を再吸収し、循環血液量を調節しています。何らかの原因で腎臓の機能が低下したり、ナトリウムや水分の再吸収が過剰になったりすると、尿量が減って循環血液量が増加し、血圧が上昇します。
これらの調節システムが破綻したり、動脈硬化などで血管が硬くなったりすると、高血圧を引き起こします。
高血圧の種類と治療の基本
高血圧は大きく2種類に分けられます。
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本態性高血圧: 高血圧の原因となる特定の病気が見当たらないものです。高血圧患者さんの約90%を占めるといわれています。遺伝的な体質や加齢に加え、塩分の過剰摂取、ストレス、肥満、運動不足、過剰な飲酒、喫煙などの生活習慣が深く関わっています。
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二次性高血圧: 腎臓の病気やホルモンの病気など、特定の基礎疾患が原因となって起こるものです。全高血圧患者さんの少なくとも10%以上に見られます。
降圧目標値について
治療では、合併症の有無や年齢によって血圧の目標値が設定されています。例えば、75歳未満の成人や糖尿病、慢性腎臓病(CKD)などの合併症がある方は、診察室血圧で130/80mmHg未満を目標とすることが推奨されています。
家庭で測る血圧は、診察室血圧の目標値より5mmHg低い値が目標とされています。
治療の二本柱
高血圧の治療は、非薬物療法(生活習慣の改善)と薬物療法の2つが基本です。
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非薬物療法:
高血圧の原因となる生活習慣の乱れがあれば、まずこれを修正することが基本です。具体的には、減塩を中心とした食事療法、運動、節酒、禁煙などです。これらは降圧効果が期待できるだけでなく、降圧薬の効果を高めたり、高血圧の発症や進行を予防したりする効果もあります。
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薬物療法:
生活習慣の改善だけでは降圧目標を達成できない場合や、血圧が非常に高い場合に開始されます。現在、主要な降圧薬として以下の5種類が推奨されています。
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カルシウム(Ca)拮抗薬
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アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
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アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
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利尿薬
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ベータ(β)遮断薬
これらの薬はそれぞれ異なる作用で血圧を下げ、脳や心臓の血管の病気を抑える効果が証明されています。

主要な降圧薬の働き(薬理作用)
それぞれの薬がどのように血圧を下げるのかを見ていきましょう。
1. カルシウム(Ca)拮抗薬
この薬は、血管や心臓の細胞にあるカルシウム(Ca)チャネルという通り道をブロックします。通常、このチャネルからCa2+が細胞内に入ると、血管が収縮したり心臓が強く拍動したりして血圧が上がります。Ca拮抗薬はこれを阻害することで、血管を広げて(血管拡張作用)血圧を下げます。
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積極的な適応(特に効果が高い病態): 左心室肥大、狭心症など。
2. アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
これらの薬は、強力な昇圧作用を持つレニン・アンジオテンシン系(RA系)を抑制します。
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ACE阻害薬: アンジオテンシンIIを作る酵素(ACE)の働きを阻害することで、アンジオテンシンIIの産生を抑え、血管収縮を抑制して血圧を下げます。また、腎臓を保護する作用もあります。空咳(からぜき)が副作用として出やすいことがあります。
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ARB: アンジオテンシンIIが血管や臓器にある特定の受容体(AT1受容体)に結合するのをブロックし、血管収縮や心臓・腎臓の障害を防ぎます。
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積極的な適応(特に効果が高い病態): 左心室肥大、心不全、心筋梗塞後、慢性腎臓病(CKD)の合併例など。腎臓の細い血管を広げ、腎臓への負担(糸球体内圧)を下げる作用があるため、腎臓の保護に優れています。
3. 利尿薬
腎臓の尿細管という場所で、ナトリウム(Na+)の再吸収を抑え、尿と一緒にNa+と水分を体外へ排泄させることで、循環血液量を減らし、血圧を下げます。長期的には血管抵抗を下げる作用も期待できます。
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積極的な適応(特に効果が高い病態): 高齢者、慢性腎臓病(CKD)合併高血圧、心不全など。
4. ベータ(β)遮断薬
心臓にあるベータ1(β1)受容体をブロックすることで、心臓のポンプ機能を抑え、心拍数減少と心収縮力抑制により心拍出量を減らして血圧を下げます。また、腎臓からのレニン分泌も抑えます。
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積極的な適応(特に効果が高い病態): 頻脈、労作性狭心症、慢性心不全、心筋梗塞後、甲状腺機能亢進症など、心臓の疾患や活動の亢進が目立つ場合。
5. ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬の働き
MR拮抗薬は、体内で血圧を上げるホルモンであるアルドステロンの作用をブロックすることで血圧を下げます。MR拮抗薬が受容体をブロックすると、アルドステロンの作用が打ち消され、結果として次の作用が得られます。
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ナトリウム(Na+)と水分の排泄を促す(利尿効果)
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カリウム(K+)の排泄を抑える(カリウム保持性)
これにより、循環血液量が減少し、血圧が下がります。
アルドステロンは心臓・血管にも影響
アルドステロンの受容体(MR)は腎臓だけでなく、心臓や血管壁、脳など全身に存在しています。アルドステロンが過剰になると、血管収縮による血圧上昇だけでなく、心筋肥大や心筋線維化といった心臓や血管の障害を促進すると考えられています。MR拮抗薬はこれらの障害を抑える作用も期待されています。
6. アルファ(α)遮断薬の働き
α遮断薬は、交感神経の働きを抑えることで血圧を下げます。
α遮断薬は、このα1受容体をピンポイントで選択的にブロックします。
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α1受容体がブロックされる と交感神経の刺激が血管に伝わらりにくくなり末梢血管が拡張します。
血管が拡張することで血液の流れがスムーズになり、末梢血管抵抗が下がるため、血圧が下がります。
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早朝高血圧: 早朝の時間帯に特に血圧が高くなる現象に対し、就寝前に服用することで効果的に血圧をコントロールする目的で使用されることもあります。
複数の薬の組み合わせ(併用療法)
一般に、一つの薬の量を増やすよりも、作用の仕組みが異なる薬を少量ずつ組み合わせて使う方が、降圧効果が大きく、副作用も抑えやすいことがわかっています。
日常生活でできる高血圧対策
高血圧の予防と治療において、日々の生活習慣の改善は欠かせません。
1. 減塩(食塩の摂取量を減らす)
日本人は特に食塩摂取量が多い傾向にあります。2019年の調査では、国民一人あたりの1日の食塩摂取量は10.1gと報告されており、これは高血圧患者さんの目標である6g未満を大きく超えています。
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減塩のコツ: 新鮮な食材の味を活かす、香辛料や香味野菜(しょうが、大葉など)、果物の酸味を利用する、汁物を具沢山にして汁を減らす、外食や加工食品、漬物を控えるなど。
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カリウム(K)の積極的な摂取: 野菜や果物に多く含まれるカリウムは、体内のナトリウム(塩分)の排泄を促し、降圧効果が期待できます。ただし、腎臓に病気がある方は、カリウムが増えすぎると危険なため、摂取量を制限する必要があります。
2. 節酒・禁煙
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節酒: 長期的な飲酒習慣は血圧を上げる原因となります。適切なアルコール摂取量は、エタノールとして男性で1日20~30mL以下、女性で10~20mL以下です(ビールなら中瓶1~1.5本程度、日本酒なら1~2合程度)。節酒を継続することで、血圧が下がる効果がメタ解析により確認されています。
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禁煙: たばこ1本を吸うだけでも、血圧は15分以上持続的に上昇することが報告されています。喫煙は循環器疾患の重大な危険因子であり、禁煙は必須です。
3. 運動
有酸素運動が推奨されます。転倒リスクなどを考慮し、急ぐのではなく通常の速さで歩く「ウォーキング」などが良いでしょう。レジスタンス運動(筋力トレーニング)も筋肉減少対策として推奨されています。
4. 家庭血圧の測定
毎日、決まった条件(静かな環境で座って、カフを心臓の高さに保つなど)で血圧を測定し、記録することが非常に重要です。
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測定のタイミング: 朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前・朝食前)と晩(就寝前)の2回を記録します。
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家庭血圧の記録は、患者さん自身の健康管理の目安になるだけでなく、お薬の効果が持続しているかなどを評価する貴重な情報となります。
5. 温度変化への注意
寒さは血管を収縮させて血圧を上昇させます。冬季の外出時には防寒着を着用し、自宅内でも浴室や脱衣所、トイレなどをあらかじめ暖めて、部屋ごとの温度差を少なくするようにしましょう。
6. ストレス管理
心理的・社会的ストレスによって、高血圧の発症リスクが2倍以上高まることが報告されています。自分に合った息抜きや気分転換を見つけ、ストレスを溜めない生活を心がけましょう。
まとめ
高血圧は、心臓病や脳卒中などの重篤な病気を引き起こすリスクを大幅に高める「サイレントキラー」とも呼ばれます。
血圧の仕組みを理解し、生活習慣を改善することで、高血圧を予防・改善することが可能です。特に減塩、節酒、禁煙、そして家庭での血圧測定は、高血圧管理の基本中の基本です。
治療が必要な場合は、医師と相談しながらご自身の病態に最も適した降圧薬を選び、服薬を続ける(アドヒアランスを良好に保つ)ことが大切です。高血圧を適切に管理し、健康で質の高い生活を送りましょう。
