おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

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血圧が上げるのは体内の塩を抜くため(Guyton説)

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血圧が上げるのは体内の塩を抜くため(Guyton説)

先日参加した勉強会で「ヒトが血圧を上げる体内の塩を抜くためです(Guyton説)」というお話しを聞くことが出来ました。

私は普段、調剤薬局で勤務をしていて降圧剤を患者様へお渡しするケースが多いのですが「塩を抜くために血圧って上がるんですよ」と患者様へお伝えしたことが一度もありませんでした。

Guyton説はあくまで、血圧が上がる(あげる)理由の一説であり、賛否両論があるかとは思うのですが、患者様の耳にお届けする言葉としては「耳なじみがよい」気がしたので、少し調べてみました。

Guyton説

腎臓は塩を体外へ排泄するための役割を担っています。しょっぱいものを食べて血液中の塩分量が増えた時、私たちの身体は血圧を上げることで、腎臓に流れ込む血液の量を増やして、体外へ排泄させる塩の量を増やします。血圧を上げる目的は「塩抜き」です。

 

患者様へ「血圧が上がる=塩抜き」についてお伝えするのは上記のような感じでしょうか。

ラーメンを食べた翌日に身体がむくむ、喉が渇く、尿量が多い。このあたりの実体験を交えながら、Guyton説を思い返してみると、思いのほか「耳なじみが良い」と私は感じます。

もちろん、Guyton説は血圧が上がる一つの要因だけを説明しているだけであり、末梢血管の柔軟性が低下していたり、血管内腔が細くなっていたり、心拍出量が増えていたりと、それ以外の要因が血圧上昇の要因となることは多々あります。

あくまで血圧上昇の一例ではありますが、「お薬をお渡しする際の薬剤師の”武器の一つ”」として頭の引き出しにしまっておこうと思います。

 

平均年齢50歳の健康成人を対象としたナトリウムまたはカリウムの摂取と心血管イベントリスクについて

健康管理における食事療法の基本中の基本についてなのですが、健常人を対象として食塩とカリウムに関する非常にわかりやすいデータが公開されていましたので、以下に記載します。

平均年齢50歳の健康成人を対象としたNaとKの摂取と心血管イベント

「食事の塩分を控えましょう。(減塩)」

「野菜・果物を食べましょう(カリウム摂取)」

についての具体的な臨床データとなります。

 

健康な成人1万709人(平均年齢51.5歳)を対象として、尿中に含まれるナトリウム(Na)とカリウム(K)の排泄量を調査したデータです。

尿サンプルについては、24時間のうちで少なくとも2回の採尿を複数日にわたって行うことで、データの正確性を高めています。

採尿を行った1万709人について、中央値8.8年間の追跡調査を行った結果、571人について心血管イベントが確認されました。

注意)心血管イベントとは冠動脈疾患で手術を行った、致死的または非致死的心筋梗塞、脳卒中を発症、心血管系が原因による死亡と定義します。

カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)とカルシウム摂取について患者様へお伝えする

結果

被験者の尿中に含まれるナトリウムの排泄量の中央値は3516mg(2257~5268mg)

被験者の尿中に含まれるカリウムの排泄量の中央値は3292mg(2162~4700mg)

でした。

ここで、尿中に含まれるナトリウムの量に応じて、1万709人を4群にわけて、心血管イベントの発生率を比較したところ、ナトリウム排泄量の少ない群と比較して多い群では心血管イベントの発生率が1.6倍高いという結果となりました。

また、1日のナトリウム排泄量が1000mg(1g)増えるごとに、心血管リスクが18%増加することも示されました。

 

一方で、尿中に含まれるカリウムの量に応じて1万709人を4群にわけて、心血管イベントの発生率を比較したところ、カリウムの排泄量の多い群は少ない群と比較して、心血管リスクが31%低下することが示されました。さらに、1日のカリウム排泄量が1000mg(1g)増えるごとに心血管リスクが18%低下することも示されました。

 

以上のデータを実生活にあてはめて私なりに解釈してみます。

まずは上記のデータにおける尿中ナトリウム排泄量と私たちの食事で摂取する食塩の量について概算してみます。

Na-K

Na-K

食塩1g(化学式:NaCL)中に含まれるナトリウム(Na)の量は約0.38gです。

日本人の1日平均塩分摂取量は10gといわれていますので、ナトリウム(Na)量に換算すると3.8gと計算できます。

日本人の食塩摂取と尿中排泄量の関係

続きまして、食事で摂取したナトリウムの尿中排泄量は70~80%と報告されていますので、

 

ナトリウムの尿中排泄量は3.8×0.7~0.8=2.66~3.04g

2.66~3.04g=2660mg~3040mgということになりました。

 

上記で記しました米国人を対象とした尿中ナトリウム排泄量の中央値は3516mgでしたので、多少の地域差はあるものの、概算としては同程度と考えます。

1日の食塩摂取量が多い人(味の濃い人)ほど、尿中に排泄されるナトリウムの量が多くなることを踏まえます。

尿中のナトリウム排泄量が1000mg増えるごとに、心血管リスクが18%ふえると報告されていましたが、尿中ナトリウム排泄量が1000mg増えるとは1日の食塩摂取量で言うと3.5g程度増えるということを意味します。

塩分量について具体的な食べ物を例にしますと

味噌汁:1~1.5g

おにぎり1個:1~1.5g

ハンバーガー:2g

カレーライス:3g

ざるそば:3g

カップラーメン:5g

しょうゆラーメン:6g

これらの食品をの塩分量を踏まえた上で、これまでのデータを私なりに考察しますと

「ラーメンのスープを飲みほした」

「お腹がすいていて、いつもおより食べすぎちゃった」

「お正月だからたくさん食べよう」

「今日は外食だからお腹いっぱい食べた」

こんな感じで、いつもよりも3g多めに塩分を摂取することって、日常生活では大いにありえるなぁと実感しました。

このような食生活が続いていくと心血管リスクが18%増えることにつながるんだと思います。

「味付けが濃い」「最近体重が増える」「煙草をやめたから食欲がふえた」

こんな感じが蔓延化すると「危険信号」と思っていいと思います。

 

では、今度はカリウム摂取についても考察してみます。

尿中のカリウム排泄量が1000mg増加するごとに心血管リスクが18%減少するということですので、カリウムをもりもり食べるとリスクが減らせるようです。

 

食事で摂取したカリウムの90%は尿から排泄され、残り10%が便中に排泄されることが報告されていますので、尿中カリウム排泄量から、食事で摂取すべきカリウム量を計算すると

1000mg×1.1=1100mg

ということで食事で摂取するカリウム量を1100mg増やすことができれば心血管リスクを18%減らすことができるようです。

カリウムを含む食品

バナナ1本:360mg

じゃがいも半分:300mg

りんご1個:220mg

キウイフルーツ1個:300mg

納豆1パック:250mg 

玉ねぎ半分:150mg

ほうれん草0.5束:500mg

枝豆20ふさ:250mg

ヨーグルト1個:100mg

豚肉薄切り2枚:150mg

という感じです。

青菜の野菜やイモ類、乳製品や果物をもりもり食べるとカリウムの摂取量が増えることがわかります。

 

まとめ

健康を維持するためには「減塩を心がけ野菜・果物を食べる」といった内容ですので、これまでの食事療法で言われていたことと同じです。

あとはとにかく具体的な食品をイメージして、食生活を改善し続けることができるかどうかがポイントとなります。

 

とにかく具体的にイメージできるかどうかです。

 

カップラーメンのスープを毎日飲む→1日5~6gの塩分摂取が増える→心血管リスクが18×2=36%ほど上がる

 

野菜・果物・根菜類をもりもり食べる→カリウム摂取量が増える→心血管リスクが低下する。

 

これらを知っているかどうかが、実践できるかどうか、意識できるかどうかが中央値8.8年後の心血管リスクを低減できるかにつながると思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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-Guyton説, カリウム, ナトリウム, , 心筋梗塞, 果物, 脳梗塞, 腎臓, 野菜

執筆者:ojiyaku


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