乾燥肌(ドライスキン)に対して抗ヒスタミン剤が処方されない理由について
乾燥肌(ドライスキン)とは皮膚の水分・皮脂成分が不足して、潤いが低下している状態をいいます。乾燥肌になると肌はカサカサになり、かゆみを伴うこともあります。もともと皮脂が少ない脛やひじ、顔などが乾燥しやすい部位です。気温の低下により湿度が下がることが乾燥肌の要因なのですが、それ以外にもエアコンが効いた室内では湿度が低下しますので乾燥肌を引き起こすことがあります。意味、今の時代は夏も冬も乾燥肌に悩まされるのかもしれません。
蕁麻疹やアレルギーなどの“かゆみ”に対しては抗ヒスタミン剤の飲み薬が処方されることがありますが、乾燥肌に対して抗ヒスタミン剤が処方されるケースはあまり目にすることはありません。今回はその理由を調べてみました。
1:乾燥肌(ドライスキン)症状の詳細について
皮膚表面からの刺激を脳に伝える“神経線維”は皮膚の内部から皮膚表面に向けて伸びているのですが、通常であれば角質層よりもずっと下のあたり(角質層と真皮の間あたり)で止まっています。しかし、乾燥肌の方の神経繊維は、角質層のすぐ下部分まで神経線維が入り込んでいるため、皮膚表面が小さな刺激を受けただけで、その刺激が脳に伝わり、かゆみを感じることになります。
蕁麻疹やアレルギーなどのかゆみの場合は“ヒスタミン”という物質が患部に広がってかゆみを引き起こすのですが、乾燥肌のかゆみに関してはヒスタミンの関与が少なく、神経線維が角質層のすぐ近くまで伸びていることが最大の原因となります。このため乾燥肌対策としては神経線維を伸ばさないための対策が求められます。
2:神経線維の伸び縮に影響を及ぼす神経成長因子NGFとセマフォリン3Aについて
皮膚の刺激を伝える神経線維が角質層のすぐ近くまで伸びてくると乾燥肌をもたらすわけですから、症状を軽減するためには神経線維が伸びないようにすることがポイントとなります。神経線維を伸ばす物質は神経成長因子NGFと呼ばれており、逆に神経線維の成長を反発する因子は“セマフォリン3A”と呼ばれています。
ヒルドイドソフト軟膏などの保湿剤は角質層から真皮までの間に広がる表皮層において神経成長因子NGFの数を減らすことが報告されておりますの。具体的は報告としてはマウスの皮膚を乾燥肌状態にしたあとにヒルドイドソフト軟膏を塗布した群と塗布していない群を比較したところ、単位面積あたりの神経線維の数がヒルドイドソフト軟膏を塗布した群では12〜13本であったのに対して、塗布していない群では20本の神経線維が表皮付近まで伸長していることが確認されています。このデータよりヒルドイドソフト軟膏などの保湿剤はNGFによって誘導される神経線維の成長を抑えることが可能と考えられています。
3:セマフォリン3Aを増やすという考え方
ヒルドイドソフト軟膏は神経成長因子NGFの数を減らすことで神経線維の成長を妨げる効果が示されましたが、神経線維の数を減らすセマフォリン3Aという因子を増やすという作用はありません。セマフォリン3Aを増やすことで神経線維の伸長を抑えて乾燥肌を改善するという報告を探したところ
- セマフォリン3A軟膏を乾燥肌マウスに使用することでひっかき回数が減少した
- 抗ヒスタミン剤「アレロック(オロパタジン)」によりセマフォリン3Aが増加した
上記の2つの報告を確認しました。
非常に残念なことに、セマフォリン3A軟膏は生産コストがかかり、製品としての安定性も低いため実用化は非常に難しい製品であることがわかりました。(実験としてマウスに塗布する利用目的で製作したチームはあるものの、市場規模での製品化は困難)。そのため、現在はヒトの皮膚内にあるセマフォリン3Aの量を増やすことができる製品について開発が行われています。
アレロック(オロパタジン)の効果についてもマウスに投与したデータなのですが、乾燥肌マウスに対してアレロック(オロパタジン)を与えたところひっかき回数が減ったと同時に神経線維の伸長が抑えられていることが確認されました。病変部の皮膚を調べたところアレロック(オロパタジン)を服用した群で表皮内のセマフォリン3A量が増えていることが確認されました。そのため抗ヒスタミン剤の中で、アレロック(オロパタジン)だけは乾燥肌に対して効果的かもしれないデータが確認されました。
まとめ
・乾燥肌は神経線維の伸びをどのように抑えるかがポイント
・アレルギーや蕁麻疹のかゆみ原因である“ヒスタミン”の関与はひくい
・ヒルドイドソフト軟膏などの保湿剤を塗ると神経繊維を伸ばすNGFの量が減ることで神経線維の伸びを抑えることができる
・神経繊維の伸びを抑制するセマフォリン3A軟膏は製造困難
・アレロック(オロパタジン)にはセマフォリン3Aを増やす効果があるかもしれない(マウスでの実験です)