白色ワセリンとプロペト軟膏の違い/ベトベトしないのはどっち?
白色ワセリンもプロペト軟膏も保湿剤や基剤として使用される軟膏で薬価も同じです。(一部の白色ワセリンで若干安い商品もあります)。
一般名処方として「白色ワセリン」と処方箋に記してある場合は、プロペト軟膏でも白色ワセリンでもどちらでも調剤することが可能です。
2剤の製品としての差は、プロペト軟膏の方が白色ワセリンに比べて純度が高い製剤となっており、プロペト軟膏の効能効果に「眼科用軟膏基剤」という文言が加わっていますので、目の周りにも安心して使用することが保証されています。
医療用医薬品ではなく、市販の化粧油製品に「サンホワイトY」という非常に純度の高いワセリンが販売されております。不純物が少ない白色ワセリン製剤の順位は
サンホワイトY>プロペト>白色ワセリン
となります。今回は上記3剤を赤ちゃんの肌に塗ったときの塗りやすさ、ベトベトしないで保湿効果を維持できる薬はどれかを調べてみました。
1:白色ワセリン製剤の融点(溶ける温度)について
白色ワセリンはパラフィンやナフテンといった複数の炭化水素が混ぜ合わさって精製される保湿剤です。その融点(溶ける温度)は36〜60℃まで製品よってさまざまです。この理由は純度の違いが一つの要因となっています。一般的に不純物を多く含むほど、その融点(溶ける温度)は高くなる傾向にあります。
一番純度の高い製剤であるサンホワイトYの融点が44.9℃、プロペト軟膏が46.3℃、その他の白色ワセリンは53〜60℃程度という報告がありますので、融点順となっています。少し極端な例なのですが、調理用の牛脂(不純物が多く融点が高い)とオリーブオイル(融点が低く常温では液体)を比較すると、融点が低い油ほどよく伸び、ダマにならいことがわかります。白色ワセリン製剤でも同様に融点が低いほどよく伸び、ダマにならずベトベトしないという特徴があります。
余談ですが、ステロイド軟膏にキンダベート軟膏という商品があります。キンダベート軟膏は純度の高いサンホワイトを基剤としており、そこに0.05%だけステロイド成分“クロベタゾン酢酸エステル”を加えた軟膏なのですが、0.05%の成分を加えただけで、その融点は50℃以上にあがります。(キンダベート軟膏は50℃の条件下で12ヶ月間、製剤として安定することが報告されています。クロベタゾン酢酸エステルは主成分なのですが、サンホワイトから見ると“不純物”であるため、融点があがることになります。)
2:白色ワセリン製剤の降伏値(粘り度合い)について
塗り薬がよく伸びるかどうかを比べる指標として“降伏値(こうふくち)”という値を用いることがあります。降伏値が低いほどよく伸びる塗り薬であると表現します。一般的には軟膏製剤よりもクリーム製剤の方が降伏値が低い(よく伸びる)と言えます。
サンホワイトY、プロペト軟膏、白色ワセリン、キンダベート軟膏の降伏値に関する報告をいくつか見つけましたので、その相対的な数値を記してみます。
サンホワイトY:130dyne/cm²
プロペト軟膏:480 dyne/cm²
白色ワセリン:1010 dyne/cm²
キンダベート:1480 dyne/cm²
上記のデータは軟膏の降伏値について報告しているデータを、プロペト軟膏を基準として相対的な数値として表したものです。降伏値が小さい製剤ほどよく伸びる製剤ですので、同じ量の軟膏を手にとった場合、サンホワイトYが一番良く伸びることがわかります。よく伸びるということは皮膚に薄く塗布することができるという意味ですので、塗ったあとのベトベト感は低下します。
3:白色ワセリン製剤の保湿効果について
ここまでのデータで純度の高い製剤ほど、融点がひくく、よく伸びることが示されました。最後にサンホワイトY、プロペト軟膏、白色ワセリンの保湿効果について記します。結果は3剤とも同程度の保湿効果が確認されています。
保湿した皮膚は水分保持量が高いため電気伝導率が上昇します。上記3剤を2週間使用した皮膚の電気伝導度の増加量を確認したデータによると、いずれも有意な伝導率がしめされ、その値に有意差はないことが示されています。(条件/温度:21-24℃、湿度:21-37%)
まとめ
- 白色ワセリン製剤は純度が高いほど融点(溶ける温度)が低く、降伏値(粘り度合い)も低い
- 融点が低く、降伏値も低い製剤は、よく伸び、ベトベトしにくい
- 白色ワセリン製剤による保湿効果は、純度や降伏値に依存しない
- 保湿剤は2mmの表皮(角質層とその下の組織)に染み込んで保湿効果をもたらす塗り薬ですので薄く塗っても効果は十分に確認されている(分厚く塗っても効果はかわらない:ヒルドイドより)