ベンゾジアゼピン系の睡眠剤やZ薬(マイスリー、アモバン)などの眠剤はいわゆる”耐性”および”依存性”があるため、国としては他剤への切り替えを推奨されています。
私は調剤薬局で20年近く働いています。私の主観で恐縮ですが、”耐性=効かなくなった”を訴える方の多くが、長期服用が要因であるだけでなく、加齢が進むについてれて日中の活動量の低下し、夜間の睡眠の質が低下(不眠症の進行)が「眠れない」要因かなぁと感じております。
問題と考えるかは言及を避けますが、”依存性”はあります。「この薬を飲んでいるので眠れています」と言って良質な睡眠をとり続けて、何十年も生活している方は多数おられます。
「ゾルピデム錠5mgを1錠飲むだけで、入眠が改善されて睡眠に対する不満はなく、増量することなく5mgを10年継続服用して生活している方」
この方は、「依存している」状態と言うケースもあれば、上手に睡眠をコントロールしている方と考えるケースもあり、捉え方は様々です。
今回は「他の眠剤からデエビゴへ切り替えた日本人の不眠症患者61例」に関する報告がありましたので下記します。
調査期間:2020年12月~2022年2月
対象:不眠症患者61例
切替前の睡眠薬:ベンゾジアゼピン系薬、Z薬、ベルソムラ、ロゼレム、リフレックス、レスリン、抗精神病薬
デエビゴ錠への切り替え後3カ月における睡眠状況および切り替え後の薬の量について比較検討をしています。
デエビゴ錠へ切り替えた結果
アテネ不眠症尺度(値が大きいほど不眠傾向にある)の減少が確認されました。
1カ月後:-2.98ポイント
2カ月後:-3.2ポイント
3カ月後:-3.38ポイント
(有意差あり)
エプワース眠気尺度(値が大きいほど日中の眠気がある)は変わりありませんでした。
1カ月後:-0.49ポイント
2カ月後:0.082ポイント
3カ月後:-0.64ポイント
(有意差なし)
PDQ-5スコア(うつ病における認知機能評価:値が大きいほど認知機能低下がある)は減少しました。
1カ月後:-1.17ポイント
2カ月後:-1.05ポイント
3カ月後:-1.24ポイント
また、就寝時の薬の総量をジアゼパム換算量で計算した結果、デエビゴ錠への切り替え前が14.0mgであったのに対し、切替3カ月後は11.3mgまで有意な減少が観察され、デエビゴ錠への切り替えが薬の量の減少および日中の認知機能の改善にとって有益であることが報告されました。
2020年7月6日、不眠症治療薬(オレキシン受容体拮抗薬)デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mgが発売開始となりました。
デエビゴ錠は、既存の処方薬”ベルソムラ錠”と同じような薬理作用の睡眠薬ですので、いわゆる”クセになりにくい睡眠薬”・”処方日数制限がない睡眠薬”という区分になることが想定されます。平成30年の診療報酬改定以降、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を12カ月以上同一用法・用量で連続処方した場合は処方料の減算ルールが設けられておりますので、デエビゴ錠のように向精神薬に分類しないタイプの睡眠薬の需要は高まっているように感じます。
エーザイが不眠症治療薬“デエビゴ(レンボレキサント)”はベルソムラと同様の薬理作用を有する薬剤です(オレキシン受容体1と2に対する拮抗作用)。現在、第三相試験のデータまでが開示されているのですが、デエビゴとベルソムラの比較データは公開されておりません。今回は、これまでに開示されているデエビゴの薬理作用の中から睡眠剤としての特徴をまとめてみました。
睡眠剤としてのデエビゴ(レンボレキサント)について、一番興味深い記載内容は“10mg以上を服用しても有効性はかわらない”という記述です(第二相試験の報告より)。ベルソムラでも同様の見解かとは思うのですが、デエビゴの薬理作用は、”オレキシン(ホルモン)”という体内の目覚ましホルモンがくっつく脳内の部分である“オレキシン受容体”と拮抗することで、
“目覚ましさせない“=”眠りを促す“
という効果です。
”起きている状態”をオレキシン(目覚ましホルモン)がオレキシン受容体に100%くっついていると仮定した場合、薬によってオレキシン受容体を65%以上ブロックした時に、はじめて「眠いかも」という感覚となります(ベルソムラより)。レンボレキサントやベルソムラのようなオレキシン受容体拮抗薬は、非常に多くのオレキシン受容体を占有しなければ効果を発現しない薬と言えます。
ざっくりとしたイメージですが、デエビゴ(レンボレキサント)を10mg以上使用しても脳内のオレキシン受容体占有率に大きな変動はないため、睡眠薬としての”寝つき(入眠に対する効果)”には変化がないというデータが第二相試験を読んだ私の印象です。一方で、たくさんのデエビゴ(レンボレキサント)を飲むと、体内での代謝に時間がかかるため、日中まで眠気が持続する(睡眠時間が長くなる)という副作用が生じていました(睡眠の質に関してはたくさんのでも変わらない)。
翌朝の眠気持ち越しに関してはデエビゴ(レンボレキサント)1~10mgを飲んだ群では、眠気の持ち越しは無く、15mgや25mg服用群では眠気の持ち越しが報告されています。
デエビゴ5mg/10mg、ゾルピデム徐放錠それぞれを服用して8時間後の姿勢安定性については、デエビゴ服用群ではプラセボ群と同様に姿勢の安定性に影響はありませんでしたが、ゾルピデム徐放錠服用群では、寝起きのふらつき増が確認されました。(ゾルピデム徐放錠:ベースラインに対する平均変化量:5.0)
中途覚醒後の再入眠までの時間について
デエビゴ5mg群:―22.5分
デエビゴ10mg群:-28.7分
ゾルピデム徐放剤群:-21.0分
デエビゴ10mg群ではゾルピデム徐放群に比較して、有意に再入眠までの時間を短縮した。(-の値が大きいほど、再入眠までの時間が短いというデータです)
デエビゴによる副作用
一般的な副作用は5%以上に傾眠がみられています。
デエビゴ1mg群の傾眠率は3.1%
デエビゴ25mg群での傾眠率は22%
と報告されています。