おじさん薬剤師の日記

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副作用 睡眠薬

ベルソムラが「癖にならない睡眠薬」と説明される理由について

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ベルソムラが「癖にならない睡眠薬」と説明される理由について

追記:2018年11月14日

慢性不眠症患者における中等度の筋トレまたはストレッチが睡眠に及ぼす影響について

不眠症患者を対象として中等度の筋トレを行う群(10例)、ストレッチを行う群(10例)、何もしない群(8例)に分けて4か月の治療を行った結果が公開されました。

中等度の筋トレやストレッチが慢性不眠症の質を改善

結果

・睡眠持続時間

中等度の筋トレ群:+1.2±0.3時間

ストレッチ群:1.6±0.6時間

何もしない群:-0.1±0.2時間

 

・入眠後の目覚め

中等度の筋トレ群:-9.3±2.8分

ストレッチ群:-7.1±3分

何もしない群:3.6±4.2分

 

・睡眠効率

中等度の筋トレ群:4.4±1.8%

ストレッチ群:5±0.8%

何もしない群:-2.3±2%

 

・不眠症重症度指数

中等度の筋トレ群:-10.5±2.3

ストレッチ群:-8.1±2.0

何もしない群:2.3±1.8

 

以上の結果より、中等度の筋トレやストレッチは、慢性不眠症患者の睡眠の質を改善するとまとめています。「最近眠れないなぁ」と感じる場合にベルソムラのようなくせになりにくい睡眠薬を使用する方法もあれば、中等度の筋トレやストレッチを行うという方法もあるのかもしれません。

 

不眠症状を改善するために「ベルソムラ錠」が初回処方されるケースがあります。処方医によっては「これまでの睡眠薬に比べて癖になりにくい睡眠薬です」という説明を刷るケースがあります。今回はベルソムラが「本当に癖になりにくいんですか?」と患者様から質問を受けたときの私なりの回答を記してみます。

ベルソムラ錠に関する薬学的な説明

脳内ホルモン“オレキシン”のはたらきについて

回答:「不眠症」だけの症状であればベルソムラは癖にならずにずっと効果的に眠りを促す効果があります。しかし、情動変動により夜間の不安やイライラなどの自覚症状がでてくると、脳内ホルモンのオレキシン(後術します)が増加しますので、相対的にベルソムラが効かなくなることがあります。この場合は、症状がかわったために効かなくなったと解釈します。情動変動がなく落ち着いた就寝生活が続く限りはベルソムラは非常に有用な薬です。

 

以下に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とベルソムラ錠の違いを記します。

 

不眠症で一番処方量が多い睡眠薬郡はベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬郡です。この種類の薬はアドレナリンとかドーパミンと呼ばれる「興奮・覚醒」を促す脳内物質の量を抑制することで睡眠を促す作用があります。(この働きをもつ薬をGABA受容体作用薬と呼ばれます。GABAというスイッチを押すと神経細胞内の興奮物質の量を減るため眠れます)。

 

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は脳内に存在するGABA受容体というたくさんのスイッチのうち27%を占有するだけで眠りが促されます。1種類の睡眠薬を飲んでも、いまいち眠れない場合は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が追加されることがありますが、追加されると占有率が上昇して眠りをさらに促します。(睡眠薬によるGABA受容体の占有率が上がると、アドレナリン・ドーパミンの脳内放出量が減少するため、眠りが促されます)。

 

いわゆる睡眠薬をのんで「癖になる」とは、この占有率がどこまでも上昇していくというイメージが想像しやすいように感じます。

ベルソムラ錠に関する薬学的な説明

脳内ホルモン“オレキシン”のはたらきについて

一方で、ベルソムラは上記とは異なる働きで睡眠を促します。脳内ホルモンの中に「オレキシン」という覚醒を促すホルモンがあります。(オレキシンを鼻内に噴霧すると脳内が覚醒し、サルでの実験では24時間以上眠らなくても認知能力が低下しないというデータがあります)。ベルソムラ錠は覚醒ホルモンのオレキシンが作用するスイッチをオレキシンの代わりに占有することで、覚醒効果を減弱させて眠りを促すという作用です。

 

ここで興味深い点は、覚醒ホルモン“オレキシン”が作用するスイッチ(受容体)のうち65%以上をベルソムラが占有しなければ睡眠効果がでないという点です。ベンゾジアゼピン系とは異なり、ベルソムラ錠では半分以上のスイッチ(受容体)を占有しなければ睡眠作用が発現しないのです。

 

さらに血液を流れるベルソムラ錠の濃度に関しても非常に厳密に計算されていて、オレキシン受容体を65%占有するためには0.33μMという濃度が必要なのですが、ベルソムラ錠20mgを1錠飲むと、服用後8時間の間は血液中の濃度が0.33μMを超えると算出されています。

 

実生活に沿って考えます。寝る直前といのは、覚醒ホルモン“オレキシン”が減少しております。さらにベルソムラを飲むことでオレキシンの効果を弱め、眠りを促します。8時間後、朝を迎えると脳内のオレキシンの濃度が増えると同時に、ベルソムラの効果が減弱していき、受容体占有率が65%を下回った段階で目が覚めます。

ベルソムラ錠に関する薬学的な説明

脳内ホルモン“オレキシン”のはたらきについて

以上のように、ベルソムラ錠というのは、オレキシン受容体の占有率とその持続時間から考えて、計算に基づいて設計された薬であることがわかります。また計算上から20mg以上の用量が認められていない薬であることもわかります。

 

ここまでを踏まえましてベルソムラ錠が「癖になりにくい睡眠薬」であることを考察します。

 

ベルソムラ錠20mgを1錠飲むと脳内の覚醒ホルモン“オレキシン”が結合するスイッチ(受容体)を65%以上占有することで眠りを促します。ヒトの脳内ホルモン“オレキシン”は朝に増えて、夜に減ります。規則正しい生活を続けているのであれば、夜間にオレキシンが急上昇することはありません。そのために「癖になりにくい」という説明がしっくりきます。

 

しかし、情動(不安やイライラ)に伴う自律神経系の乱れにより、昼夜を問わずに大脳辺縁系や側坐核から「オレキシンをたくさん作ってドーパミンやアドレナリンを増やしましょう」という命令が脳からでることがあります。この場合はベルソムラの効き目が相対的に弱まります。このような症状は「ベルソムラが癖になって効かなくなった」わけではなく、症状が変わったために「オレキシンが増えてベルソムラが効かなくなった」と解釈します。

ベルソムラ錠に関する薬学的な説明

上記は非常に言い訳がましい表現なのですが、ベルソムラ錠が「脳内のオレキシンの日内変動(朝に増えて、夜に減る)」ということを前提として開発された薬であるために、その前提が崩れるとベルソムラの効き目を説明することができなくなってしまうと私は解釈しています。

 

 




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