海外で麻酔薬として使用されている「エトミデート」を、リキッド(液体)として吸引する「電子タバコ」を使用している日本の若者の映像がニュースで報道されていました。ゾンビのように立てなくなっていました。
日本国内では「エトミデート」は医薬品として承認されていないだけでなく、指定薬物として区分されていますので、所持や使用は「犯罪」となります。
ここでは、興味本位でゾンビタバコを使用してみようと思う若者への注意喚起として、エトミデートへの理解を深めるための情報を記載します。
日本でエトミデートを含む「イミダゾール骨格をもつ静脈麻酔薬」が医薬品として承認されておりません。
主な理由は
• 副腎抑制作用
エトミデートは副作用として副腎皮質ホルモンの合成を抑えることが知られています。これにより、ストレス反応や免疫機能に影響が出る可能性があり、特に重症患者では問題になります。
• 代替薬の存在
日本ではすでにプロポフォールなど安全性・利便性の高い静脈麻酔薬が広く使われており、臨床的に「エトミデートでなければならない」場面が少ないと判断されています。
• 薬事承認の優先度
新薬承認には臨床試験や安全性評価が必要ですが、既存薬で十分対応できるため、エトミデートを承認する優先度が低かったと考えられます。
• 国際的な使用状況の影響
欧米でも「心疾患患者など循環動態に配慮が必要なケース」で限定的に使われる傾向があり、広く第一選択薬としては用いられていません。
• エトミデートは脳のGABA受容体という部分に作用し、神経の働きを抑えます。
GABA受容体は「脳を落ち着かせるスイッチ」のようなものです。神経が興奮しすぎないようにブレーキをかけて、安心したり眠ったりできるように働きます。
GABAってなに?
• GABA(ギャバ)は脳の中で働く「神経伝達物質」のひとつです。GABAはその中でも「落ち着け〜」と伝える役割を持っています。
• 受容体(レセプター)は、神経細胞の表面にある「スイッチ」や「鍵穴」のようなものです。
• GABAがこの受容体にくっつくと、神経細胞の中に塩化物イオン(Cl⁻)が流れ込みます。
• すると神経細胞は「興奮しにくい状態」になり、情報の伝達がストップします。
• つまり、GABA受容体は脳の活動にブレーキをかける仕組みです。
エトミデートは脳内のGABA受容体に作用する成分ですので、エトミデートが脳内に到達すると、「脳内のスイッチがOFF」となり、意識がなくなる・筋肉が動かしにくくなるといった状態になります。そのため個人が乱用すると転倒や事故につながります。
医療用としては「静脈注射」として投与される成分ですので、これをリキッド吸引した場合の効果持続時間に関する臨床データは確認できません。
ただ静脈注射をした際の効果持続時間(半減期:75分)から考慮しますと、吸引した場合、30秒程度で効果が出始め10数分程度の効果がでる製剤であると示唆します。
ここで考えられる危険性についてですが、「遊び半分・興味本位」で使用しても効き目が数分で切れること」なんですね。
自己皮下注射とは異なり、吸引方法が容易・入手方法も容易というのが若者を中心に広まった要因かもしれません。
「意識はもうろうとし、体は勝手にガクガク動いて、足には力が入らない」自分の状態を例えば「動画」で撮影したとします。
15分程度でシラフに戻るため、「もう一回吸いたい」と思ってしまい、何度も何度も繰り返し吸ってしまうことが予想されます。
これを繰り返すと、「依存症(やめられない状態)」になりやすく、さらに「オーバードーズ(過剰摂取)」となるリスクが高まります。
追記:2023年12月25日
オーバードーズによる市販薬中毒で搬送された患者122人の平均年齢25.8歳(女性が8割)
一度に飲む薬の平均錠数:101.8錠
「精神的に楽になる」という安易な期待でオーバードーズをした結果、嘔気・不整脈・意識障害・頭痛などの症状を呈します。
また、たくさん飲んでしまった薬を除去するため、医療機関では薬を吸収させないための活性炭を飲ませたり、血液中に溶け込んだ薬を取り望奥ために血液の浄化などの対処をします。
オーバードーズは、上記のような症状が出るだけでなく、呼吸停止による死亡例があるほか、肝障害が残る場合もあるため、安易なオーバードーズでその後の将来の選択肢を狭めないようにしてください。
追記:2023年12月15日
東京都目黒区の小学生女子児童が市販薬を過剰摂取して救急搬送されたニュースを目にしました。
市販のパブロンゴールドなどに含まれるジヒドロコデインやメチルエフェドリンの過剰摂取が目的と思われます。
メチルエフェドリンによる高揚感・ジヒドロコデインによる多幸感やフワフワした感じを目的としてオーバードーズ(過剰摂取)をしている様です。
ジヒドロコデインは小児で呼吸抑制が報告されている製剤であり、2019年に「12歳未満の小
児に禁忌」と厚生労働省がルールを改定した経緯がある成分です。
そのため、子供の命を守るためにも、興味半分で市販薬を不適切に使用しないこと、また添付文書には注意事項や禁忌事項がしっかりと記されていますので、最低限は目を通していただきたいと感じます。
コデインリン酸塩等の12歳未満の小児における使用の禁忌移行について
追記:2023年12月1日
若者による市販薬の過量服用(オーバードーズ)に関して、厚生労働省は薬物乱用のある咳止めや風邪薬の販売規制を強化する方針をまとめました。
20歳未満は大容量の製品や複数個の購入ができなくなります。
また、販売に関しては対面または映像と音声によるオンライン購入を原則として、薬剤師などが氏名や年齢を確認することになります。
若者がパブロンゴールド(金パブ)をオーバードーズ(過量服用)することで高揚感・多幸感(イライラが治まる)・フワフワ感を楽しむという記事を目にしました。Yahoo知恵袋には「金パブ」に興味はあるものの副作用や依存性が怖いための、そのあたりを探るような質問内容が多く記されていることを知りました。
Yahoo知恵袋を見ていると、金パブに含まれている「アセトアミノフェン」をたくさん飲むと肝機能障害・肝臓を痛める可能性があるという記載を多く見かけました。そこで今回は「金パブ」をたくさん飲むと体の中で何が起きるのかについて「アセトアミノフェン」を中心に記してみたいと思います。
アセトアミノフェンの上限については一般的に5000mg~10000mg以上を1回服用すると何らかの肝障害を起こす可能性が高く、15000mg以上を1回服用すると劇症化すると考えられています。
金パブ中毒者では1回に2000~3000mgのアセトアミノフェンを使用している事例を目にしました。んーん、ぎりぎりの量ですね。(医療用医薬品として、整形外科医が鎮痛目的で1回1000g程度を使用することはありますが、金パブ中毒者はその2~3倍を一度に使用している事例があるようです)
1回に3000mgのアセトアミノフェンを一度に飲んだ場合、体の中では2800mg程度のアセトアミノフェンは肝臓にて油分の多い液で包み込まれて、そのまま尿として体外へ排泄されます。問題は残りの200mgのアセトアミノフェンです。肝臓には食べ物や薬を加工する“酵素”というものがあります。200mgのアセトアミノフェンは肝臓の“CYP2E1やCYP3A4“という聞きなれない”酵素“によって酸素を付加されて、肝臓を攻撃する”NAPQI“という副産物へと変換されてしまいます。
NAPQIは肝臓に対して非常に毒性が高く、危険な物質であるため通常であれば、通常の状態であれば身体は、その対応策としてグルタチオンという物質とNAPQIを結合して不活性化(無毒化)する対応をとります。
しかし、CYP2EIという酵素をたくさん作るタイプの人や、アルコールを飲んだ後(CYP2EIがパワーアップしている)では、肝毒性のあるNAPQIが予想よりもたくさん作られてしまいます。その結果、体内のグルタチオンが枯渇してしまい、NAPQIによって肝臓が攻撃されてしまいます。これが肝機能障害です。肝機能障害の程度がひどい場合は肝性昏睡(意識を失う)ケースも報告されております。
以下はアメリカでの報告ですが、1日4000mgのアセトアミノフェンを14日間連続服用すると、肝機能が上昇したという報告があることから、アセトアミノフェンは1日3000mgを超えないよう勧告しています。
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アセトアミノフェンと肝障害に関しては肝臓の酵素“CYP2EI”の量がポイントになっていることがわかります。しかし自分のCYP2EIの量が多いかどうかは知るすべがありません。
一つ言えることは、アルコールを連日多く摂取し続けると、CYP2EIの活性が高まるという報告がありますので、連日アルコールを摂取している状態でアセトアミノフェンを過量服用すると肝障害をり患しやすい可能性が示唆されます。
金パブを過剰摂取する若者の心情としては「他人に相談できない悩み」があったり、「単なる興味本位」であったりと、事情を推し量ることはできません。
アセトアミノフェンを過剰摂取して肝臓に何らかの毒性が生じると「だるい・食欲がない・吐き気がする」といった初期症状が現れます。それでもなお、肝臓へのダメージが蓄積すると、皮膚や目が黄色くなる(黄疸)、尿の色が濃くなるといった自覚症状が起こりえることを認識して、過量服用による臓器ダメージを十分理解してほしいと思います。