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酸化マグネシウムの適正使用について2020年8月

酸化マグネシウムの適正使用について2020年8月

2020年8月、医薬品医療機器総合機構は「酸化マグネシウム製剤の適正使用に関するお願い」を公開しました。

酸化マグネシウム製剤の適正使用について(2020年8月)

医薬品医療機器総合機構が「酸化マグネシウム製剤の適正使用に関するお願い」を公開するのは2015年10月以来、2度目となります。

酸化マグネシム製剤はクセになりにくい下剤として重宝されている一方、長期服用や腎障害、高齢などの理由に高マグネシム血症を発症するリスクが高くなるとして、注意が必要な薬剤でもあります。

高マグネシウム血症の初期症状としては、嘔気・悪心・起立性低血圧・徐脈・倦怠感といった自覚症状があげられます。

2015年10月に、医薬品医療機器総合機構が「酸化マグネシウム製剤の適正使用に関するお願い」を公開した際は、新聞やTVなどでも取り上げられ、酸化マグネシウムを定期服用している患者様から「大丈夫かしら?」と、ご質問をいただいた記憶があります。

 

高マグネシウム血症を回避するための代替薬としては2018年に発売されたモビコール配合内用剤が候補としてあげられると思います。モビコールは酸化マグネシウムと同様にクセになりにくい製剤です。しかし、モビコールは1包6.8523gと大量の粉を飲む薬であり、成人の場合は1回に2包が通常量とされています。また、モビコールは1包あたりの値段が80円以上する製剤です。

そのため酸化マグネシウムと比較するとモビコール配合内用剤は「飲みにくく、値段の高い粉薬」ではあるのですが、背に腹は代えられないため腎機能が低下した方には有益な薬剤となります。

 

酸化マグネシウムをずっと飲み続けても大丈夫ですか?

 

長く飲み続けても癖にならない下剤として「酸化マグネシウム」製剤を長期間飲み続けている患者様がおります。長年同じ量を飲み続けても排便効果が実感できるため非常に有用な薬だと思います。酸化マグネシウムの薬の効き目に関しては耐性が生じない(癖にならない/効かなくなりにくい)ことはわかるのですが、では、ずーっと飲み続けた場合の体調変化はどうなんだろう?という疑問がわきましたので調べてみました。

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酸化マグネシウムを飲んだ場合の薬物動態について

 

酸化マグネシウム錠の添付文書やインタビューフォームには薬物動態(どのように吸収されて血液中をどの程度ながれてどのように排泄されるか)が記されておりません。ラットに大量の酸化マグネシウム(200mg)を投与した際の薬物動態を報告したデータによると、85%は吸収されずに糞便中に排泄され、残りの15%は小腸・結腸で吸収されて血液中を流れて尿中に排泄されたという報告があります。ヒトでの薬物動態のデータがありませんので、ラットのデータをヒトに置き換えて以下の薬物動態を検討します。

 

例えば緩下剤として1日酸化マグネシウムを2gのんでいる患者様を想定します。

 

酸化マグネシウム2g中に含まれるマグネシウム量は1.206gです。そのうち15%が小腸を経由して体内に吸収されると仮定すると、吸収されたマグネシウムの量は0.1809g(180.9mg)です。体内に吸収されたマグネシウムのうち73%は骨に吸着されます。それ以外の部位では腎臓に7.6%、脳に10.5%、筋肉に4.6%、心臓に4.4%へ分布し、血液中には0.5%しか移行しません。加えて、多すぎるマグネシウムは腎臓を経由して尿中に排泄されます。排泄量は体内にあるマグネシウムの量に依存するのですが、マグネシウム量として1日10~150mg程度(概算値)の幅をもって排泄量が調節されております。

 

上記の薬物動態を踏まえますと、1日に酸化マグネシウムを2g飲んでいた場合、その15%ほどが体内に吸収されるものの、そのほとんどが骨に吸着され、多いマグネシウムは腎臓経由で尿中に排泄されるので血液中のマグネシウム濃度には、ほとんど影響しない(高マグネシウム血症にはならない)ことがわかります。

酸化マグネシウムを飲んで高マグネシウム血症となる場合

 

酸化マグネシウムを飲み続けている日本人を対象とした高マグネシウム血症リスクに関する報告を三重大学病院行っております(2019年2月)

 

酸化マグネシウム(平均服用量:990mg/日)を飲んでいる320人を対象として高マグネシウム血症の発症リスクと発生要因を調べた報告によると

高マグネシウム血症グレード1(2.5~3mg/dl以上):62人

高マグネシウム血症グレード3(3.0~8.0mg/dl以上):13人

 

酸化マグネシウムを飲んでいる方の23%((62+13)/320人)が高マグネシウム血症であることが示されており、高マグネシウム血症を発症した患者様の発生リスクは以下の4点であると報告されております

 

・eGFR値(推算糸球体濾過量)が55.4ml/分以下→4.56倍リスクがUPする

・BUN値(血清尿素窒素)が22.4mg/dl以上→4.79倍リスクがUPする

・1日の酸化マグネシウムの服用量1.65g以上→2倍リスクがUPする

・酸化マグネシウムの連続服用日数36日以上→2.1倍リスクがUPする

 

上記の条件が、高マグネシウム血症を引き起こすリスク因子となります。酸化マグネシウムを飲み続けている方の中で上記の条件をいくつか満たす方に関しては、倦怠感・吐き気・徐脈・低血圧といった高マグネシウム血症の前兆となる症状が出ていないか注意喚起を行うことが大切だなぁと感じました。

酸化マグネシウム服用による高マグネシウム血症リスクについて(三重大学病院2019年2月)

酸化マグネシウムを飲み続けるといいことはあるのかどうか

 

酸化マグネシウムを飲み続けた場合、上記の条件を満たすと「高マグネシウム血症のリスク」がUPすることはわかりましたが、逆に飲み続けることで体にとって良いことはないのかどうか報告をしらべてみました。

 

酸化マグネシウムと認知症

 

台湾での小規模臨床報告のデータによると、酸化マグネシウムの服用歴がある方は、飲んでいない人と比較して認知症を発症するリスクが半分に減少したという報告が2017年4月にありました。酸化マグネシウムの服用を開始してから10年間の追跡調査期間中に認知症を発症したリスクを調査したところ、酸化マグネシウムを服用した群は飲まなかった群と比較してハザード比が0.517(リスクが半分に減った)まで減少したという報告です。

酸化マグネシウムが認知症リスクを軽減

低用量酸化マグネシウムと糖尿病

 

低マグネシウム血症は傷の治りが遅くなることが報告されており、糖尿病性足潰瘍患者さんにおいては症状の悪化をもたらすケースがあります。1日1回酸化マグネシウム250mgを12週間服用した群とプラセボ群とで足潰瘍の治療がどのように変化するか調査しておりいます。

 

12週間後のデータ(酸化マグネシウム服用群VSプラセボ群)

 

酸化マグネシウム服用群

血清マグネシウム濃度:+0.3±0.3mg/dl

足潰瘍部分の長さ:―1.8±2.0cm

足潰瘍部分の幅:-1.6±2.0cm

足潰瘍部分の深さ:-0.8±0.8cm

空腹時血糖:-45.4±82.6mg/dl

血清インスリン値:-2.4±5.6μIU/ml

HbA1c::-0.7±1.5%

 

プラセボ服用群

血清マグネシウム濃度:-0.1±0.2mg/dl

足潰瘍部分の長さ:―0.9±1.1cm

足潰瘍部分の幅:+0.8±0.9cm

足潰瘍部分の深さ:-0.3±0.5cm

空腹時血糖:-10.±53.7mg/dl

血清インスリン値:+1.5±9.6μIU/ml

HbA1c::-0.1±0.4%

 

糖尿病性足潰瘍患者さんの場合、酸化マグネシウム250mgを12週間飲み続けると、潰瘍サイズの減少、血糖値低下という有益な効果を及ぼす可能性が示唆された報告があります。

糖尿病性足潰瘍におけるマグネシウム補充

 

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業