炭酸リチウムを妊婦に使用した症例について
炭酸リチウムは躁病時の気分を安定させるために処方される薬です。しかし胎児における心臓奇形や催奇形作用(動物実験)が報告されているため妊婦には禁忌となっている製剤です。臨床で妊婦に対して使用した報告がいくつか上がっていましたので、妊婦に対する炭酸リチウムの使用状況につて確認してみました。
海外では双極性障害の治療薬として炭酸リチウムが処方されることがあります。妊婦への炭酸リチウム投与に関しては出生児における心臓奇形のリスクがあるため国内では禁忌とされていますが、疫学研究の結果では、炭酸リチウムにより催奇形性が生じるリスクについて、過去の報告が過大評価されている(心臓の催奇形性について、それほど頻度が多くない)と記されている報告もチラホラ目にしました。
以下に妊婦が炭酸リチウムを服用したときの妊婦および新生児についての報告を記します。
妊娠中の炭酸リチウム血中濃度についての報告
- 妊婦における炭酸リチウムの血中濃度を測定したところ、妊娠前(0.53mmol/l)→6週(0.49mmol/l)→20週(0.41mmol/l)→34週(0.35mmol/l)と妊娠週数がすすむにつれ血中濃度が徐々に低下することが示されています。出産間近の40週になると血中濃度は0.3mmol/lほどまで低下することもあります。この原因として筆者らはリチウムクリアランスが上がったためと推測しています。(炭酸リチウムは分解をうけずに尿中に排泄されますので、妊娠中の尿量の増加が要因としています)。
- 妊娠中に血中の炭酸リチウム濃度が低下する場合において、双極性障害の症状の悪化が見られた際は炭酸リチウムの増加が検討されます。増加したケースにおいて、出産後の血中の炭酸リチウム濃度が急上昇する報告を確認しましたので、妊娠中に炭酸リチウムを増加する際は出産後に注意が必要です。
- 新生児への影響については、妊娠初期に妊婦が炭酸リチウムを服用した群で催奇形性リスクが4%、飲まなかった群で4.3%という報告がありましたので、妊娠初期(特に最初の三ヶ月)に炭酸リチウムを飲むと新生児の催奇形性リスクがあがる可能性があります(有意差あり)。
妊娠最初の三ヶ月に炭酸リチウムを使用すると催奇形性リスクが上がる?
炭酸リチウム製剤のインタビューフォームには
- 妊娠末期の婦人には投与しないこと(分娩直前に血清リチウム濃度の異常上昇を起こすことがある
- リチウムは容易に胎盤を通過し、胎児に移行する。分娩直前までリチウムが服用された場合、出生児における新生児血清リチウム濃度は母親の値とほぼ同じ。
授乳婦とモーラステープについて
妊婦に対する薬剤の使用状況に関しては「免疫抑制剤の禁忌が解除」された例がありましたので、ほかの薬についてはどうかなぁと思いまして、海外で使用例がいくつかあがっていた「炭酸リチウム」について調べてみました。妊娠初期で「催奇形性」のリスクが上昇するという報告例がありましたので、日本で妊婦に禁忌解除となることは難しいかもしれません。
(厚生労働省の見解によると「催奇形性のリスクに有意差がない」ことが妊婦禁忌を解除するポイントなんだろうなぁと私は認識しております。)
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