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隔日服用するメルカゾール錠の効果について(1日おきに服用した甲状腺内メルカゾール濃度について)

隔日服用するメルカゾール錠の効果について(1日おきに服用した甲状腺内メルカゾール濃度について)

甲状腺機能亢進症の治療として

メルカゾール錠 1錠/1× 隔日服用(1日おきに服用)

という処方箋を目にすることがあります。甲状腺機能亢進症の維持量として1日おきに服用するという指示です。メルカゾール錠の血中半減期は6時間程度ですので、隔日服用による効果がどれほどなのか調べてみることにしました。
(添付文書での維持療法は1日5~10mg/1から2回に分割経口投与)

>甲状腺機能亢進症とヨウ化カリウムについて</span></a>
「今日の治療薬」でメルカゾールの「特徴」を見てみると、
2015年版までの記載には
「甲状腺内濃度が維持されるので1日1回の投与で有効」

と記されていました。

メルカゾール服用後の時間経過と甲状腺内濃度

甲状腺機能亢進症・バセドウ病に対するヨウ化カリウム(ヨウ化カリウム丸)のはたらきについて

しかし2016年版の記載からは
「甲状腺内濃度が維持されるので隔日投与でも有効」

“1日1回→隔日投与”へと今日の治療薬上のメルカゾール錠の特徴が変更されています。
効果時間の延長が確認されたということでしょうか。

メルカゾールの薬理作用は甲状腺内において甲状腺ペルオキシダーゼを競合的に阻害することで甲状腺ホルモンの産生過程を阻害するというものです。

メルカゾールの阻害作用は「競合阻害」ですので、甲状腺内でのメルカゾールの量が一定以上満たされている時間に応じて、効果を有する時間も延びると考えてよいかと思います。

メルカゾール錠のインタビューフォームには組織移行性に関するデータは記載されておりませんでしたが、
Intrathyroidal concentrations of methimazole in patients with Graves’ disease.
J Clin Endocrinol Metab 57:129–132.
という1983年に報告されたデータで、甲状腺内メルカゾール量を確認することができました。

報告は、甲状腺機能亢進症のため甲状腺の摘出手術を予定している20名の患者さんを対象としておこなわれたデータです。甲状腺切除の3~6時間前にメルカゾール10mgを服用した群と、甲状腺切除の17~20時間前にメルカゾール10mgを服用した群において、切除された甲状腺内に残存するメルカゾール濃度を測定しています。(n=20)

結果は
甲状腺切除の3~6時間前にメルカゾール10mgを服用した群
甲状腺組織内濃度:518ng/g
血中濃度:102ng/ml

甲状腺切除の17~20時間前にメルカゾール10mgを服用した群
甲状腺組織内濃度:727ng/g
血中濃度:16ng/ml

被験者20人によるデータですのでバラツキはあるものの、メルカゾール錠の血中濃度が経過時間に応じて減少するのに対して、甲状腺内濃度は維持または微増していることが分かります。

メルカゾールの薬理作用は甲状腺内においてペルオキシダーゼを競合的に阻害するわけですから、服用17~20時間後においても十分量が甲状腺内に留まって抗甲状腺作用を示していることが示唆されます。

甲状腺は15~20gほどの組織ですので上記の甲状腺内濃度から計算すると甲状腺内に存在するメルカゾール量は0.01mg程度です。服用後3~20時間の間、その量がある程度一定に保たれていると考えると(投与量の0.1%程)非常に効率よく標的組織へ移行する製剤と言えるのではないでしょうか。

20時間後以降のデータはありませんが、メルカゾールは48時間時点で68%が尿中排泄される製剤であること、また14時間で血中濃度が102→16ng/mlへ激減することを考慮すると、血中から甲状腺内に補充されるメルカゾール量も激減していきますので、20時間以降の甲状腺内濃度は時間依存的に減少していくことが予想されます。

以上のデータより、服用したメルカゾールの血中濃度は6時間ほどで半減するものの、甲状腺内濃度は17~20時間時点では十分維持されているため24時間程度は効果が減弱することなく安定した効果があるといえます。これらのデータをもとに薬が安定して作用する“定常状態”について考えてみます。

“半減期 × 4 > 投与間隔”

この式を満たす薬が“定常状態がある薬“と言えますので

隔日服用している患者様の甲状腺内のメルカゾールに関して言えば
半減期(24時間以上)×4 >48時間(隔日服用のため)

となり、上記式を満たしますので十分効果のある投与方法と言えることがわかりました。
甲状腺および治療薬剤に関する情報

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ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業

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ojiyaku