日本国内の研究グループによる報告によると、脳内のヒスタミン神経を活性化することで、一度忘れた記憶を思い出す能力がUPし、忘れた記憶が回復するという研究報告がありましたので下記します。
脳内に分布しているヒスタミンという神経伝達物質がヒスタミン1受容体(H1受容体)にくっつくと、私たちの脳は活性化します(集中力が高まります。)しかし、集中している時間が長すぎると疲れてしまうので、脳内のヒスタミン量を抑制しようとする受容体も同時に存在します。それがヒスタミン3受容体(H3受容体)です。
H3受容体の働きを抑えるような薬があれば、脳内のヒスタミン量を抑制することを防止できるため、脳内のヒスタミン量がUPして、記憶力がUPするのでは?というのが今回の報告の狙いです。使用した薬剤は「メリスロン錠」「チオペラミド錠」です。どちらもH3受容体を抑える効果があります(H3受容体逆作動薬と表現されています)
マウスにAというおもちゃを与えると、マウスはAで遊ぶものの、すぐに飽きてしまう。Aに飽きたマウスにAとBという2つのおもちゃを与えると、Bで遊ぶ。(新しいおもちゃを好む)
しかし、マウスは3日もするとAで遊んだ記憶を忘れてしまいます。
マウスにAというおもちゃで遊ばせてから3日後に、AとBという2つのおもちゃを与えると、2つのおもちゃを同じように好みます。(3日前にAで遊んだ記憶は忘れている状態)
しかし、チオペラミドを投与されたマウスでは結果が異なります。チオペラミドを投与されたマウスにAというおもちゃで遊ばせてから、3日後にAとBというおもちゃを与えると、Bで遊ぶ率が高いことが示されました。(3日前にAで遊んだ記憶が残っているため、目新しいBで遊ぶ率が高いという意味です)
3日後にAとBを区別できる率に関して、チオペラミドを投与すると40%のマウスがAとBを区別できるのに対して、投与していないマウスでは区別できる率は10%未満でした。
興味深いことに、チオペラミドの投与量をUPさせると、1カ月後でも4割弱のマウスがAとBを区別できる状態にあることが示されました。
筆者らは上記のマウスの結果について、脳内のヒスタミン量がUPしたために、神経細胞が活性化し、記憶回復につながったのではと示唆しています。「チオペラミド」という物質は日本国内では薬としては販売されておりませんが、類似薬「メリスロン錠」という薬があります。筆者らは次に「メリスロン錠」をヒトへ投与した際に同様の結果が得られるかどうか調査しています。
被験者をメリスロン錠を飲む群、飲まない群に分けます。両群に128枚の写真を記憶してもらい、1週間後に写真を覚えているかテストします。結果はメリスロン錠を飲んだ群の方が平均で11%ほど記憶率が良いというデータです。ここまでのデータならば、「メリスロン錠を飲めば記憶が良くなるなぁ」という結果で終わるのすが、続きがあります。
上記の実験のうち、メリスロン錠を飲まなかった群について、正答率の低い準に6つのグループに分けます(1~6グループ)。この状態でメリスロン錠を飲んで同様の実験を行った結果、
初回で正答率が低かった群では、メリスロン錠を飲むことで正答率が上昇した(正答率25%→50%へ上昇した)のに対して、初回で正答率が高かった群では、メリスロン錠を飲むことで正答率が低下しました。
ヒトにおいて、メリスロン錠を飲めば一様に記憶力がUPするわけではなく、もともと記憶力が低い方がメリスロン錠飲めば、脳内のヒスタミン量がUPして記憶回復力がUPするのでは?という結果が示されたように感じます。メリスロン錠が既存の医薬品として承認されている薬剤ですので、今回の第一報を基盤として、より大規模な臨床実験にたどり着くことができればと期待したいです。
注意)めまい治療としてメリスロン錠・ベタヒスチン錠を服用している方に関して、自己判断で中止調節・増量しないよう筆者らは記載しています。
忘れた記憶の回復する薬の発見か?