おじさん薬剤師の日記

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殺虫剤

殺虫剤は人体へ影響が非常に少ない理由(2022/9/11)

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殺虫剤は人体へ影響が非常に少ない理由(2022/9/11)

先日、自宅の中を飛んでいたハエをアースジェットでやっつけました。アースジェットを当てられたハエは、痺れるように震えながら床に落ち、動きを止めました。

家族と話していて「アースジェットってすごいよね」という話題から「一瞬でハエをやっつけるアースジェットってヒトには影響ないの?」という話になりました。

そこで今回は殺虫剤がヒトへほとんど影響がない理由について調べてみました。

結論:ヒトへの影響がおよび4500分の1だから

殺虫剤の主成分は「除虫菊」に含まれる「ピレスロイド類」という成分なのですが、各種生物に対するピレスロイド類の有毒性に関する報告によると

昆虫に対して0.45mg/kgが有害量であるのに対して

ラットに対して2000mg/kgが有害量であることが報告されています。

その差4500倍です。

ラットに対して2000mg/kgですので、一般的な哺乳類に対しては同程度の有害量があると考えます(猫は除外します。後述)

生き物の種類によって有害となる量にはこれほど差があるのですね。

ということで、アースジェットなどの殺虫剤は「ハエに対する有効濃度ではヒトへの影響はほとんどない」という結論となります。

 

以下は、アースジェットなどの殺虫剤がどのように虫をやっつけるかという薬理作用および我々人間が殺虫剤を摂取した場合、どのように排泄するかなど薬学に関する情報をまとめます。

アースジェットの薬理作用について

殺虫剤の主成分「ピレスロイド類」を吹き付けられると、ハエの体内ではどのようなことが起こっているかを調べました。

pyrethrin

pyrethrin

ヒトやハエなど、あらゆる動物の脳には上記のような神経細胞がたくさんあり、考えを巡らせています。具体的には細胞でのシグナルを軸索という部分を経由して、隣にある細胞にシグナルを伝達していくことで情報を伝えていきます。

軸索という情報を伝達する通り道の働きをもう少し詳しく見てみると、情報を伝えるときに「ON」、情報を伝えないときは「OFF」という2つの状態をうまく切り替えながら必要な情報を伝達しています。

細胞内にはもともと「カリウム+(プラスのカリウムイオン)がたくさんあるのですが、情報を伝える「ON」の時の状態というのは、一過性に細胞外にある「Na+(プラスのナトリウムイオン)」を細胞内に流入させることで細胞内のプラスの量を多くする状態(「ON」の状態)とすること意味します。

(その後「OFF」にしたいときは「K+」を細胞内から逃がして、細胞内の「Na+」と細胞外の「K+」を入れ替える(ナトリウムカリウムポンプ)ことで「OFF」の状態へ戻します。)

 

殺虫剤「ピレスロイド類」を吹きかけられたハエは「死ぬまでONの状態を続ける」

 

という状態となります。脳が「ONの状態をつづける」ということは脳内の情報が流れっぱなしで休まらない。過剰の興奮状態が永遠続くことを意味します。

するとパニック状態・制御不能・震戦といった状態を経て死に至ります。具体的には「運動協調の喪失およびマヒ」が死因となります。

アースジェットはこのようにしてハエを死に至らします。

 

上記の薬理作用を見ると、本当にヒトが浴びても大丈夫なの?と思ってしまいそうですよね。次にヒトが浴びても大丈夫な理由を以下に示します。

昆虫はヒトに比べて神経感受性が高いため「ピレスロイド類」の影響を受けやすく、体のサイズ小さいため皮膚からの吸収率が高いことが致死率につながります。一方、ヒトの場合は皮膚からの吸収率が低いことに加えて、肝臓で代謝(無害な物質に分解する)能力を有しているため、体内に取り入れてしまった「ピレスロイド類」を分解して尿中へ排泄することが可能です。

その結果、ヒトはハエにくらべて4500分の1しか効かない

ため、ほとんど無害であると言えます。

さらに言及しますと、ピレスロイド類は殺虫剤であるため農薬に多く利用されています。我々が普段から口にしている「野菜」には残留農薬として「ピレスロイド類」が付着しています。

 

ピレスロイド類をどれだけ日本人が摂取しているかを調査する方法として「ピレスロイド類の代謝物(3フェノキシ安息香酸)がどれだけ尿に含まれているか」という解析方法があります。

環境省環境保健部環境リスク評価室が行った「日本人における化学物資の暴露量調査」のデータを確認してみると

ピレスロイド類の代謝産物「3フェノキシ安息香酸」の尿中濃度の測定結果は中央値で0.24μg/g(クリアチニン補正)

その他の研究結果としては448人の男性について「3フェノキシ安息香酸」の尿中濃度を測定した結果は中央値で0.73μg/g(クレアチニン補正)

という結果も確認できました。

つまり、我々は日々の食生活で野菜を摂ることにより極々少量の「ピレスロイド類」を知らず知らずに摂取しては肝臓で分解して尿として排泄していたことがわかります。

以上のことからアースジェットなどの殺虫剤に含まれる「ピレスロイド類」をヒトが浴びても、ハエのような状態にはならないことがわかりました。

野菜に含まれる残留農薬「ピレスロイド類」

ちなみにアースジェットには2種類のピレスロイド類が含まれているのですが、その濃度はフェノトリン0.17w/v%、フタルスリン0.465w/v%といずれも非常に低い値となっています。

最近は1日1回1部屋にワンプッシュで蚊がいなくなるという製品も発売しておりますが、その濃度はトランスフルトリン16.7w/v%(現役100mlあたり)

という商品もあります。「トランスフルトリンの濃度高いのでは?」と思われがちですが、1日1回タイプということで用途が異なります。

アースジェットに含まれるフタルスリンやフェノトリンは速攻性やノックダウン効果が求められます。また日光からの安定性も必要です。そ

一方で、1日1プッシュタイプに含まれるトランスフルトリンは蒸散活性があり、常温で揮散します。

上記のように用途が異なるため、含有する濃度もことなると考えます。

 

pyrethrin-1

pyrethrin-1

最期になりましたが、哺乳類の中で「魚」と「猫」は高濃度のピレスロイド類を浴びない方がいいという情報がありますので下記します。必要な方はお読みください

2000年初頭に米国でピレスロイド類含有のペットの「ノミダニ駆除剤」が発売となりました。すると2003年1月~9月までの期間に、「ピレスロイド類含有のノミダニ駆除剤」を使用した猫で1331件の神経毒性症状が報告されました。

この原因を調査したところ、猫はヒトや犬にくらべて肝臓における解毒作用が弱く、ピレスロイド類を肝臓で代謝する能力が弱いため体内での蓄積量が高くなってしまい、毒性を発揮する濃度となることがわかりました。

米国ではピレスロイド類の濃度5~10%を超える製品は、猫で全身中毒症を引き起こす可能性があるため家庭用殺虫スプレー、ノミダニ駆除剤、シャンプーでの希釈量は1%未満とされています。

くれぐれも犬用のノミダニ駆除剤を猫にしようしないこと。また犬にノミダニ駆除剤を使用した場合は、一定期間、猫を近づけないこと(半減期を6時間と考えると3日ほどは近づけないこと)

ピレスロイド類から猫を守りましょう

魚に関しても同様で、自宅で観賞魚を飼っている場合は「1日1回1プッシュ製品」を観賞魚がいる部屋では使用しないよう記されていますのでご注意ください。

 

 

 

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執筆者:ojiyaku


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