2020年8月31日追記
シオノギファーマはバクタ配合錠の新しい剤形としてバクタ配合錠小型錠の製造販売承認申請を行ったことを報告しています。
従来のバクタ配合錠の直径は11mmであり、免疫用製剤や抗がん剤治療の治療中におけるニューモシスチス肺炎の予防投与として小児や高齢者使用する際に、錠剤が大きいことを理由に服薬に抵抗を示す問題がありました。
小児・高齢者における服薬コンプライアンス向上を目的として、子供が服薬可能な製剤の大きさや苦みに関する検討に関する製造方法の検討が行われ、1錠の直径を6mmに小型化し、その錠剤を4錠服用することで従来の1錠分に相当する製剤を開発し、製造販売承認申請に至ったとしています。
バクタ錠を連日または週に3回服用している患者様がおります。適応症は「ニューモシスチス肺炎の発症予防」です。場合によっては何年も飲み続けている方もおります。今回はバクタ配合錠を長期間連日服用する意味について調べてみました。
正常な免疫力をもつ方ならば、発症することはマレですが、AIDSなどの免疫不全患者、低体重児、臓器移植患者、血液腫瘍、骨髄移植患者、ステロイド治療患者、抗がん剤治療患者などの免疫力が低下している方が発症する日和見感染症の一つです。以前はカリニ肺炎と呼ばれていました。
ニューモシスチス肺炎にかかった場合、発熱・呼吸困難および乾性咳嗽が自覚症状としてあらわれ、無治療の場合は死亡率がぼぼ100%です。HIV感染者ではAIDS指標疾患の中でニューモシスチス肺炎の発症率が約40%と最も高く、死亡率(1か月あたり)は発症者の15~20%です。
免疫抑制剤使用患者等の非HIV感染者の場合は症状が急激な経過をたどることが多く、死亡率(1か月あたり)は非HIV感染者で約40%、特に人工呼吸管理を必要とする患者さんでは約60%にも及びます。また、基礎疾患として肺病変を有する患者さんでは、軽快後も肺機能障害が進行する等、予後不良であることが多いです。
ニューモシスチスとはどのような生き物か
これらのことから、免疫力低下患者さんがニューモシスチス肺炎に感染すると非常に危険な状態となるため、その予防として長期的にバクタ配合錠を服用することがわかりました。自己判断で中止調節すると、感染リスクが上がるので、くれぐれも正しく飲むようにお伝えする必要があります。
次に、ニューモシスチスという生き物について調べてみました。
調べてみると、ニューモシスチスは“特殊な分類の真菌”であることがわかりました。
以下に特徴をまとめます
・in vitro培養ができない
(試験管内では育てることができないため、詳しい生態がわからない)
・哺乳類(特に免疫抑制状態にした動物)の肺胞上皮細胞外で発育する
・通常の真菌と同様に体内にミトコンドリアを持ち、宿主組織内では細胞外で発育・増殖する
・ニューモシスチスの細胞膜には、真菌特有のステロール成分であるエルゴステロールがなく、その代わりにコレステロールなど他のステロールが含まれている。
(そのためエルゴステロールをターゲットとするファンギゾン注射や、ジフルカン・イトリゾール・ブイフェンドなどのアゾール系、ラミシールなどの抗真菌薬が効きません)
このようにニューモシスチスは特殊な細胞膜に覆われた真菌であり、さらに研究のための培養ができないため、治療のための選択肢が限られていることがわかりました。これらのことから、易感染を事前に防止する目的でバクタ配合錠を長期間服用することとなります。
さて、薬局で勤務していると、バクタ配合錠を長期間服用している患者様や、そのご家族の方から以下のような質問を受けることがあります。
「この薬をずっと飲み続けて耐性菌はできないの?」
「他の抗生剤に変えた方がいいんじゃないの?」
「いつまでバクタ配合錠を飲み続けるの?」
どれも答えは同じです。
「感染防止のため医師が必要と考える期間は服用をつづけます」
その理由を以下に記します。
Q1:バクタ配合錠をずっと飲み続けて耐性菌はできないのか?
この回答にはさまざまな角度から考える必要があります。
バクタ配合錠という抗菌剤(抗生物質・抗生剤とは呼びません)により殺菌できる菌種を大きく分類してみると
・グラム陰性菌
・ニューモシスチス・イロベチー(特殊な分類の真菌)
という2分類があります。さらにバクタ配合錠を処方するためには
“原則として感受性を確認する”ことになっております。
(耐性菌が発現していないことを確認するという意味です。)
ニューモシスチスは常在菌として多くの人の肺胞上皮細胞上にいます。しかし、「免疫または薬が効いているため感染していない」という現状をご理解いただき、ニューモシスチスに関しては耐性化していないことをお伝えします。
また、グラム陰性菌に関しては、グラム陰性菌に分類される細菌は星の数ほどあります。その中にはバクタ配合錠に耐性化している細菌もあるかもしれませんが、その際は「働きが全く異なる他の抗生物質を使用することが可能です」とお伝えします。
Q2:他の抗生剤(抗生物質)に変えたほうがいいのでは?
抗生剤(抗生物質)は細菌をターゲットとして使用する薬です。ニューモシスチスは真菌ですので効果がありません。唯一、ニューモシスチス肺炎の予防薬として適応を有している薬剤に“サムチレール内用懸濁液15%”という薬があります。効果はバクタ配合錠に劣りますが、“バクタ配合錠を飲んで副作用がでたため、使用が困難な方”にのみ適応を有しています。上記以外、抗真菌薬の内服薬では効果がありません。
サムチレール:ニューモシスチスのミトコンドリア内膜で行われる電子伝達系を阻害する働き
Q3:いつまでバクタ配合錠をのみつづけるのか?
免疫力の回復が確認されるまでです。ニューモシスチスは常に肺胞上皮細胞上にいると考えます。バクタ配合錠により“易感染”を防止しているとお考えください。