美白でトラネキサム酸を飲むことによる血栓症のリスクは?

美白でトラネキサム酸を飲むことによる血栓症のリスクは?

シミや肝斑を薄く保つ目的でトラネキサム酸を長期的に服用されている方がおります。

医療用で使用する場合、トラネキサム酸は止血剤という分類です。

出血時に血管壁が敗れた部位をフィブリン覆って(血餅)止血をするわけですが、体内ではこの「フィブリン」を引きはがす作用をもつ「プラスミン」という物質も同時に存在します。「プラスミン」が多く存在すると、なかなか血が止まらない(フィブリンが集まりにくい)という状況となります。ここで「トラネキサム酸」を使用すると「プラスミンによるフィブリン分解」を抑えることが出来ますので、結果的にフィブリンが集まりやすくなり、血餅(血の塊)ができやすくなり止血が行われやすくなります。

この作用を逆手に取ると「血の塊が分解されにくい」=「血栓症」になりやすいかもしれない?

という可能性がチラホラするかもしれません。

そこで今回は、トラネキサム酸の投与が血栓症のリスクとなる可能性について調べてみました。

調査データ

出血患者(外傷、手術、分娩出血、頭蓋内出血、胃腸出血)に対して、止血剤としてトラネキサム酸の注射が行われた際に、脳卒中や静脈血栓塞栓症などの血栓症イベントがどの程度報告されているかを調べた―データを用います。

外傷(外傷性脳損傷を含む):34,488例
産婦人科 :28,089例
心臓手術 :10,528例
整形外科 :11,353例
頭蓋内(非外傷性):4057例
消化管出血 : 12,312例

その後、トラネキサム酸の注射剤と内服薬の血液中濃度の違い、換算を行い、美白で使用する量のトラネキサム酸による血栓症リスクについて示唆します。

結果

疾患別分類に関しては、頭蓋内出血(非外傷性)患者にトラネキサム酸を使用した場合、血栓症イベントリスクが1.3倍程度に高くなる可能性が示唆されました。一方で、外傷・手術・分娩出血・胃腸出血に関しては、トラネキサム酸の使用と血栓症イベントリスクに関して相関性は確認されませんでした。

ただし、高用量のトラネキサム酸を投与した場合、痙攣発作のリスクが増加するケースが報告されており、心臓手術時に高用量(≥100mg/ kg)のトラネキサム酸を使用した場合や、胃腸出血に対して1日4gのトラネキサム酸を使用した場合も発作のリスクが増加したと報告されています。

結論としては、トラネキサム酸が血栓症や痙攣発作のリスクを増加させる証拠はなく、出血患者に対して安全に使用することが出来ます。ただし、用量依存的に痙攣リスクが増加する報告があるため、高用量での使用は避けるべきとしています。

トラネキサム酸と血栓症のリスクについて

トラネキサム酸の注射剤と内服薬違いについて

以下にトラネキサム酸を注射した場合と飲んだ場合における血液中の濃度の図をしまします。

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ポイントは縦軸(血漿中濃度)です。

注射剤1000mg(静注)または500mg(筋注)を投与した場合の血中濃度を確認すると、投与直後に20~60㎍/mlの血中濃度を示し、その後緩やかに下降していきます。投与6時間後における血中濃度が5~10μg程度と読み取ることが出来ます。

 

一方で飲み薬250mgまたは500mgを投与した場合の血中濃度を確認してみると、投与から3時間後あたりに血中濃度がピークとなりますが、その濃度は3~6μg/ml程度です。これを1日3回朝昼夕食後に毎日飲むと仮定したとしても、注射剤を投与した直後のような高値を示すことはないでしょう。

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ただし、注射剤500mgを1日3回使用した場合の血中濃度は「5~20μg/ml」以上と想定され、飲み薬500mgを1日3回した場合の血中濃度は「4~6μg/ml」以上と想定されますので、投与量が同じであれば注射であれ、飲み薬であれ、そこまで大きな血中濃度の差はないということも見て取れます。

まとめ

・注射剤のトラネキサム酸を手術や出血時の止血剤として使用した場合において、血栓症のリスクが上がるという報告はない

・高用量(1日2g以上でトラネキサム酸をを使用した場合、痙攣発作を誘発する可能性がある

・注射剤のトラネキサム酸と飲み薬のトラネキサム酸の血漿中濃度は、投与直後だけを見ると注射剤の血漿中濃度が高いものの、同じ量を使用するのであれば、時間経過とともに注射剤・内服剤の差は少なくなる。

以上のことから私の個人的な解釈を記しますと、健常者が1日3回1回250mgのトラネキサム酸をシミ・肝斑の予防として飲み続けることで血液中のフィブリン凝集が増えて血管が詰まる(血栓症をまねく)ようなリスクは非常に低いと考えます。

注意)ただし、トラネキサム酸の添付文書には、脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎等の血栓のリスクがある患者さんでは血栓症があらわれることがあるため慎重投与とされています。

注意)人工透析を受けている患者さんでは血中濃度が上昇して痙攣発作を誘発する恐れがあるため注意することが記されています。

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業

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ojiyaku