喫煙と腸内細菌の関係について
「喫煙は体に良くないですよね」に関する情報です。
タバコを吸ってる方で、お腹の調子がわるい、便の臭いが強い、いつも便がゆるい(下痢気味)といった方がおられた、「喫煙と腸内細菌」に関する情報が何かお役に立てるかもしれません。
以下に「喫煙と腸内細菌」との関係についてマウスにおけるデータで興味深い報告がありましたので記します。
マウスに1日2時間タバコの煙、又はきれいな空気を吸わせて、28週間(半年)経過した時点における腸内細菌の状態を調べたデータです。
結果は、タバコの煙が腸内細菌の組成を変化させ、一部の悪玉菌の量が増えました。
具体的にはE.lenta(エガセラレンタ)と呼ばれる悪玉菌の増加が確認されました。
エガセラレンタは本来であれば、ヒトやマウスの腸内の中でごくわずかに生息している細菌なのですが、タバコの煙を長期間浴びると、腸内における割合が増加し、どうやら悪さをするようです。
エガセラレンタはリウマチ患者や潰瘍性大腸炎の患者でも増えていることが報告されており、いわゆる膠原病(自己免疫疾患)に関与している細菌であることが示唆されています。
今回のマウスによる報告では、タバコの煙により悪玉菌であるエガセラレンタの濃度が上昇し、善玉菌(Lactobacillus)の減少が報告されました。
その要因として、タバコの煙にさらされたマウスの便には胆汁酸の中のタウロデオキシコール酸(TDCA)の上昇が確認されました。タウロデオキシコール酸とエガセラレンタの増加には正の相関が確認されました。
つまり、タバコの煙に半年間さらされたマウスの腸管内には2次胆汁酸のうちタウロデオキシコール酸の量が増加し、それにより悪玉菌であるエガセラレンタの濃度することで腸内細菌のバランスが悪玉寄りに変化が生じたことが示唆されます。
腸内細菌のうちエガセラレンタの割合が増えると、マウスの腸管バリア機能が低下し、大腸の透過性が高まります。するとタウロデオキシコール酸などの腸管にとっての有害物質がより多く大腸の上皮細胞の細胞間隙(細胞と細胞の隙間)に入り込み、上皮細胞の異常増殖が進んでしまします。
細胞の異常増殖=大腸がん
ですので、結果的にタバコの煙を長期間あびると、大腸がんリスクが高まることになります。
エガセラレンタは過敏性大腸炎の患者さんでも増殖していることが報告されていますが、エガセラレンタの増殖は発がん作用だけでなく、炎症性IL-17およびTNF経路の誘導が報告されています。
これらの報告も、エガセラレンタが炎症性サイトカインIL-17経路を活性化して発癌リスクを高めるという今回の報告に寄与していると考えられます。
また興味深いことに、タバコの煙に長時間さらされたマウスから採取した便(エガセラレンタがたくさんいる)を無菌マウスに移植しところ、結腸細胞の増殖が進んだことが確認されました。つまりエガセラレンタをたくさん含む便を移植すると、腸管バリアが低下し、無菌マウスの腸管内でエガセラレンタが増加することで結腸細胞の異常増殖が進んだことが示唆されました。
以上のことから、タバコの煙は腸内細菌叢へ悪影響を及ぼし、悪玉菌であるエガセラレンタの増殖により、腸管バリア機能を知恵化させ、発がんおよび炎症性サイトカインの誘発に寄与することが示唆されました。