複雑性尿路感染症に対しオラペネム小児用細粒を高用量で投与するとカルバペネム系点滴に非劣勢
世界で唯一の経口用カルバペネム系抗生物質「オラペネム小児用細粒」について、複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎に対してカルバペネム系抗生物質(点滴)との治療成績のデータが公開されました。
被験者:複雑性尿路感染症または急性腎盂腎炎で入院中の868人(18歳以上)
オラペネム小児用細粒:1日3回、1回600mg内服群(449例)
エルタペネム(カルバペネム系抗生物質:日本未承認薬):1日1回1g静脈内投与(419例)
治療期間:7~10日間(菌血症を有する場合は14日間まで使用)
結果
オラペネム小児用細粒服用群:264例/449例(58.8%)で全奏功
エルタペネム点滴静注群:258例/419例(61.6%)で全奏功
治癒判定時における治癒率は
オラペネム小児用細粒服用群:93.1%
エルタペネム点滴静注群:93.6%
とどちらも高い割合での治癒率が報告さました。
有害事象に関しては両群で同等であり、下痢、頭痛が報告されています。
オラペネム小児用細粒服用群:25.7%(下痢:5.7%、頭痛:3.8%)
エルタペネム点滴静注群:25.6%(下痢:4.4%、頭痛:3.8%)
上記の結果より、オラペネム小児用細粒は複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎の治療においてエルタペネム静脈注射と比較して非劣勢であることが報告されました。安全性に関しても同程度であることが示唆されます。
上記の報告で注目点はオラペネム小児用細粒の成人服用量です。
日本国内ではオラペネム小児用細粒の成人服用量は
耳鼻咽喉科領域感染症、肺炎に対する投与量として
1回250mg1日2回が報告されています。
1日服用量はトータルで500mgです。
オラペネム小児用細粒の成人使用例
今回は急性腎盂腎炎または複雑性尿路感染症に対しての服用量ですので感染症は異なりますが、1回600mg1日3回ですので、1日服用量は1800mgと高用量であることをしっかりと認識する必要があります。
塩野義製薬が新規抗菌薬「セフィデロコル点滴静注」を承認申請(2022/3/30)
塩野義製薬は新規抗菌薬「セフィデロコル点滴静注」を日本で承認申請したことを発表しました。
セフィデロコル点滴静注はカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すグラム陰性感染症を起因とする感染症に対する治療薬となります。
米国では2019年11月に承認され、欧州連合では2020年4月に医薬品として承認されています。
適応症としては感染性の高いグラム陰性菌によって引き起こされる複雑尿路感染や、重症肺炎に対して使用されています。
セフィデロコル点滴静注は世界保健機関の必須医薬品リストに掲載されています。
2019年11月15日米国にてセフィデロコル点滴静注が医薬品として承認
セフィデロコル点滴静注の薬理作用
セフィデロコル点滴静注は新規の抗菌薬であり「シデロフォアセファロスポリン抗菌薬」という分類の抗菌薬に属します。
セフィデロコル点滴静注は鉄と結合することで細菌の細胞内へ侵入します。細菌が養分である鉄を取り込むために利用する鉄トランスポーターを介して、鉄と一緒に細菌内に能動的に運ばれます。その後、細胞膜と細胞外膜の2枚の生体膜の間に効率よく取り込まれ、細胞壁の合成を阻害することで抗菌作用を示します。
副作用
セフィデロコル点滴静注の米国における添付文書には
多剤耐性グラム陰性感染症の重症患者さんを対象とした試験において、セフィデロコル点滴静注を投与された患者さんは、他の抗生物質と比較して全死亡率が高いという警告が記されています。(死亡原因は不明)
有効性について
複雑尿路感染症患者448名を対象とした治験において、セフィデロコル点滴静注を7日間投与された被験者の菌消失率は72.6%、その他の抗生物質を投与された被験者の菌消失率は54.6%
臨床効果は2群間で同等と評価されています。
レカルブリオ配合点滴静注用2021年11月9日発売開始
MSDは2021年11月9日、カルバペネム系抗菌薬「レカルブリオ配合点滴静注用」の発売を開始しました。
日本初のカルバペネム系抗生物質製剤とβラクタマーゼ阻害剤との配合剤となります。
含有成分:イミペネム水和物/シラスタチンナトリウム/レレバクタム水和物(新規βラクタマーゼ阻害剤)
〈適応菌種〉
本剤に感性の大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、緑膿菌、アシネトバクター属
ただし、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株に限る
レカルブリオ配合点滴静注用の効果・抗菌作用について
レカルブリオ配合点滴静注用とは
・レレバクタム水和物:βラクタマーゼ阻害薬
・イミペネム水和物:カルバペネム系抗菌薬
・シラスタチンナトリウム:デヒドロペプイチターゼ阻害薬
を含む抗菌薬です。
海外での臨床データがいくつか散見されましたので、レカルブリオ配合点滴静注用について調べ見ました。
レカルブリオ配合点滴静注用に含まれる成分のうち、イミペネム水和物が細菌をやっつける主成分であり、シラスタチンナトリウムが体内においてイミペネムの分解を抑えることでイミペネム効き目をサポートする成分です。
レレバクタム水和物というのが、新たに開発された成分で、細菌がつくりだすβラクタマーゼを阻害する作用があります。
βラクタマーゼとは、ペニシリン系やセファロスポリン系、場合によってはカルバペネム系などの抗生剤の重要な構造部分を不活性化してしまう酵素で、細菌が抗菌剤から生き残るために産生する酵素のことです。
レレバクタム水和物は、細菌が抗菌剤から自身を守るために産生する酵素(βラクタマーゼ)のはたらきを阻害することで、抗菌剤の活性を維持し、イミペネム(菌をやっつける主成分)が細菌をやっつけやすくするようサポート役を担う成分です。
ここまで調べた限りではレカルブリオ配合点滴静注用はすごいなぁという感想でした。実際、
イミペネム/シラスタチンの合剤では、やっつけることができないグラム陰性病原菌に対して、レカルブリオ配合点滴静注用を投与した結果、7割程度の臨床効果が得られたことが報告されています。
そのためレカルブリオ配合点滴静注用は既存の抗菌剤では治療効果が得られない菌種(カルバペネム耐性腸内細菌など)に対する適応機種が得られることが予想されています。@
レカルブリオ配合点滴静注用があらゆる細菌に対して万能かというと、決してそのようなことはなく、既に海外の報告ではメトロβラクタマーゼ産生エンテロバクターや、カルバペネム耐性アシネトバクターバウマンニに対してはレカルブリオ配合点滴静注用に含まれるイミペネム(菌をやっつける主成分)が不活性化してしまう報告されております。
(レレバクタム水和物ではメトロβラクタマーゼを阻害できない)