腸内細菌とインフルエンザウイルスについて(2019年2月データ)
テレビコマーシャルや雑誌などで
「〇〇乳酸菌飲料・ビフィズス菌飲料を飲むとインフルエンザウイルスに感染しにくくなる?免疫力UP?」
といったようなフレーズを、数年前に目にしたような記憶がありました。当時は半信半疑で見ていたような記憶があります。
米科学アカデミー(PNAS2019年2月4日)に、腸内細菌とインフルエンザ・免疫力に関する論文が公開されました(東京大学医科学研究所のチーム)ので、概要を見てみました。
外気温がウイルス感染後の免疫応答に与える影響
室温36℃(高温環境下)で飼育されたマウスは、室温22℃で飼育されたマウスと比較して、インフルエンザウイルス・ジカウイルス・フレボウイルス(マダニ媒介性の血小板減少症を引き起こすウイルス)などに感染後の免疫が低下することが見いだされました。
高温環境下で飼育されたマウスは食事摂取量が低下しており、摂食量の低下が免疫応答の低下につながることが示唆されたので、36度(高温環境下)で飼育しているマウスに「酢酸・酪酸・プロピオン酸」という3つの短鎖脂肪酸(通常の食事で腸内細菌が作り出します)やグルコースを与えたところ、低下していたウイルスに対する免疫応答が部分的に回復することが見いだされました。
この研究はマウスによるものですが、腸内細菌が感染症の予防につながる可能性を示唆する成果であり、ヒトでも確認する必要があると筆者らはまとめています。
高温環境下はインフルエンザA感染に対する免疫応答を弱める
2019年1月に、大阪大学の研究チームが「腸内細菌が作り出す乳酸・ピルビン酸」が腸壁に存在するマクロファージを活性化させるはたらきを英科学雑誌nature電子版に報告したばかりですが、今度は腸内細菌が作り出す酢酸・酪酸・プロピオン酸でも何かしらの免疫応答が回復するデータが報告されました。(いずれのデータもマウスによる実験です)
これらのデータは、発見されたばかりですので、今後、ヒトにおける臨床データで、どこまでの効果が期待されるか期待が高まるところです。
乳酸菌・ビフィズス菌飲料を摂取することに関する私のイメージ
以下は私の個人的なイメージです。
大阪大学のデータも、東京大学医科学研究所のデータもいずれも腸内細菌由来の代謝物を直接マウスに投与した結果、免疫力がUPしたという成果を報告しています。
腸内細菌由来代謝物:ピルビン酸・乳酸・酪酸・酢酸・プロピオン酸
これらのデータを見る限り、“活発に活動する腸内細菌がいる”または“腸内細菌の餌となるような食事をとる(代謝物がたくさんできる)”ことがインフルエンザの予防(免疫力UP)につながるような気がします。
小腸において乳酸やピルビン酸がマクロファージを活性化して病原菌をやっつける仕組み
ヨーグルトや乳酸菌飲料を連日摂取しても、劇的に腸内細菌のバランスがかわることはありません。以前、整腸剤を飲むと腸内細菌のバランスがかわるかどうか調べてみたところ、整腸剤の服用を2週間間行ったあと、服用を中止した結果、30%の方には整腸剤に含まれる菌が腸内に定着したものの、服用を中止すれば徐々に減っていく。(70%の方の腸内には定着しない)。さらに、既存の腸内細菌に対して大きな影響を及ぼすような量は定着しない。
というデータを確認したことがあります。
上記のことを踏まえますと、私個人としてはCMで放送されているような高価な乳酸菌飲料を連日飲むというよりは、“ヨーグルト(種類は問わない)や発酵品などを毎日食べる”ことで、
腸内細菌由来の代謝物が増える=腸内の免疫力UPにつながる
という解釈となるような気がします。
高温環境下はインフルエンザA感染に対する免疫応答を弱める