既存の抗血小板薬(血小板凝集抑制薬)であるバイアスピリンやプラビックスは血小板が固まるのを阻害することで血液サラサラ効果を示す薬剤であると同時に、その薬理作用のために出血に関する副作用(皮下出血・歯茎出血・口腔内出血)が付随するという特徴もありました。
新規作用機序の抗血小板薬ACT017は、ヒトの血小板膜表面に存在する糖たんぱく質(glycoprotein)Ⅵを標的として、高い親和性を有する抗体のような薬剤です。glycoprotein VIは血小板特異的コラーゲン受容体としての役割があり、血管の内側に広がっているコラーゲンとくっつくことで、血小板活性化を促す作用があります。ACT017が血小板膜タンパクglycoprotein VIにくっつくと、血小板が血管内皮のコラーゲンとくっつくことができなくなりますので、血液凝集が生じにくくなるという作用機序となります。
ACT017がバイアスピリンやプラビックスと比較して優れている点として、出血リスクを増加させることなく(最小限に抑えながら)血栓形成を抑制する薬剤であるという点です。
マウスでの研究成果として血小板膜表面タンパク(glycoproteinⅥ)を欠損させたマウスでは血液が固まりにくい状況にありながら、皮下出血がほとんどないことが報告されており、それを薬剤として実現した製剤がACT017という感じです。
(血小板膜表面上のglycoproteinⅥの働きをOFFにする=glycoproteinⅥを欠損するという感じです)
対象:健康な36人(男性13人、女性23人:平均年齢56歳)
投与量
ACT017:62.5mg/125mg/250mg/500mg/1000mg/2000mgまたはプラセボ
(投与量は、カニクイザルにおける薬理学的試験で、ACT017:80mg/kgが無毒性量であることを考慮して決められました)
投与方法
単回注射投与:最初の15分で全量の25%を投与して、残り75%を5時間45分かけてゆっくり投与する(合計6時間で全量投与します)
出血時間
試験開始前の出血時間:3~9.5分(平均:5.45分)
プラセボ群の出血時間:3~9.5分(平均:5.36分)
ACT017投与群の出血時間:2.5~14分(平均:6.22分)
ACT017投与群における出血時間はACT017の投与量と無関係でした。
例1
ACT017:125mg投与
初回出血時間:9分
投与6時間後の出血時間:12分
投与14時間後の出血時間:5分30秒
投与24時間後の出血時間:14分
例2
ACT017:500mg投与
投与15分後の出血時間:13分30秒
投与6時間後の出血時間:10分
投与10時間後の出血時間:10分
投与24時間後の出血時間:6分30秒
上記の例からも、ACT017投与後と投与前での出血時間に関しては臨床的な有意差は確認されませんでした。(ACT017を投与しても出血時間はプラセボと変化なし)
半減期:10.2時間
投与後の分布は細胞外液に含まれる
全身クリアランス(1.78~4.82L/h)
尿中排泄率:大部分は投与6時間以内に排泄されました
尿中排泄率:投与500mg群で0.5%、投与1000mg群で6.5%、投与2000mg群で19.8%と投与量に比例して尿中排泄率が大きくなっていました。
ACT017を125mg以上投与した群で、治療開始1時間後にプラトーが観察されており、その効果・持続時間は用量依存的に増加しています。
125mg投与群:血小板凝集抑制率:60%が6時間持続した
250mg投与群:血小板凝集抑制率:80%が6時間持続した
500mg投与群:血小板凝集抑制率:80%が8時間持続した
1000mg投与群:血小板凝集抑制率:90%が18時間持続した
2000mg投与群:血小板凝集抑制率:90%が18時間持続した
血液凝集抑制作用からの回復は2000mgよりも1000mgの方が早く、24時間後の抑制率は2000mg群では80%、1000mg群では55%であった。2000mg群では48時間後の血液凝固抑制率は30%であった。投与7日目までにはACT017は全て体外へ排泄され、血漿中には残存しません。
血小板数
試験開始前に3回、ACT017投与後に10回にわたり血小板数を調べた結果、プラセボ群・ACT017投与群ともに血小板数の有意な変動は観察されませんでした。
副作用
頭痛(8.33%)、頭部不快感(6.25%)
血液学的パラメーター(赤血球数・白血球数・ヘモグロビンレベル・凝固パラメーター(プロトロンビン時間・トロンボプラスチン時間)のいずれにおいてもACT017群・プラセボ群における変化は見られませんでした。
ACT017の第Ⅰ相臨床試験報告をみた私の個人的な感想ですが、ACT107は注射剤であるため、内服薬のバイアスピリンやプラビックスから、そのまま置き換わることは難しい製剤かとは思われますが、皮下出血の副作用を考えずに抗血小板効果を示すという薬理作用は、既存の治療薬では出血リスクが高い方や高齢者・重症例の方にとっては非常に有用な薬剤となる可能性があるなぁと感じました。