高血圧の薬をずっと飲み続けても大丈夫ですか?

高血圧の薬をずっと飲み続けても大丈夫ですか?

 

高血圧の薬を継続してお飲みいただいている方とお話をしていると

「この血圧の薬をずっと飲み続けても大丈夫なの?」

といった感じのお話をいただくことがあります。

 

このご質問に対しての基本的な回答としましては

「継続的に血圧を測ることで効果がでていることを確認すると同時に、数カ月に1度、採血を行うことで、肝機能・腎機能・造血関連や代謝関連の異常がないかどうかを検査して、飲み続けても大丈夫かどうかを確認しながら治療を続けることになります」

 

といった感じでお答えすることが多いです。しかし、この回答は患者様のご質問に対する本当の回答とはいいがいたところがあります。

 

「10年後・20年後もこの血圧の薬を飲んだとしても、この血圧の薬を飲んでいなかった人と比べて〇〇のリスクに差はないというデータがでておりますよ!」

といった感じの具体的なお話ができれば、説得力のあるお話しができるなぁと感じました。

 

そこで今回は、10年・20年と血圧の薬を続けた場合のリスクについて調べてみました。

(〇〇のリスクという部分には、日本人の死亡原因の1位:ガン・2位:心疾患・3位:脳血管疾患あたりのデータについてのリスクを検討してみました)

カルシウム拮抗薬を飲み続けても大丈夫かどうか

(ノルバスク・アムロジン・アダラート・カルブロックなど)

 

ノルバスク・アムロジン・アダラートCR・カルブロックなどのカルシウム拮抗薬を長年飲み続けた場合の〇〇リスクの度合いについて賛否両論さまざまなデータが毎年のように報告されています。例えばですが、直近5年間で報告されたカルシウム拮抗薬の長期服用データについて調べてみました。

 

カルシウム拮抗薬を飲み続けた場合の肺がんリスクについて(2019年5月)

 

肺がん患者4174例を対象として、カルシウム拮抗薬を飲んでいた場合と他の降圧剤を飲んでいた場合とで肺がんの発症率に差があるかどうかを比較したデータが開示されております。

他の降圧剤を飲んでいて肺がんを発症した比率を“1”としたとき

 

カルシウム拮抗薬を飲み続けいた場合(5年未満)の肺がん発症率は1.12倍

カルシウム拮抗薬を5~10年飲み続けた場合の肺がん発症率:1.22倍

カルシウム拮抗薬を10年以上飲み続けた場合の肺がん発症率:1.33倍

 

というデータが開示され、筆者らはカルシウム拮抗薬の使用期間が長くなると、他の降圧剤と比較して肺がんの発症率が中程度あるいは有意に増加することが示唆されるとまとめています。

カルシウム拮抗薬を飲み続けた場合の肺がん発症リスクについて

カルシウム拮抗薬を飲み続けることと前立腺がん特異的融合遺伝子T2E陽性前立腺ガンリスクを低下させる(2017年2月)

 

カルシウム拮抗薬を飲み続けいた場合の前立腺がん発症リスクに関しての報告です。カルシウム拮抗薬の服用は前立腺がん全体のリスクとは関連性がないことが示されているのですが、一部の前立腺がんに対してはリスクを低下させる可能性が報告されています。

 

欧米男性での報告によりますと、カルシウム拮抗薬の服用は、前立腺がん特異的融合遺伝子T2E陽性前立腺ガンの相対リスクを低下させることが示唆されました。(オッズ比:0.38)

 

カルシウム拮抗薬の使用は、前立腺がんの悪性度を判断するスコア(グリーソンスコア)およびT2E陽性前立腺がんに対する相対リスクを低下させる可能性が示唆されております。

カルシウム拮抗薬の服用とT2E陽性前立腺がんリスクの低下について

カルシウム拮抗薬を飲み続けた場合の前立腺がん発症リスク(2019年3月)

 

前立腺がん患者4346人を対象としてカルシウム拮抗薬を飲んでいた場合と他の降圧剤を飲んでいた場合とで前立腺がんの発症率に差があるかどうかを比較したデータが開示されております。

他の降圧剤を飲んでいて前立腺がんを発症した比率を“1”としたとき

 

カルシウム拮抗薬を飲み続けた場合の前立腺がん発症リスク:1.1倍

わずかな増加が確認されました。

カルシウム拮抗薬を10年使用した場合、前立腺がん発症リスク:1.27倍

というデータが開示されており、カルシウム拮抗薬を継続使用すると、使用期間と相関して前立腺がん発症リスクも増加する可能性が報告されています。

カルシウム拮抗薬を飲み続けた場合の前立腺がん発症リスク

カルシウム拮抗薬またはACE阻害薬を飲み続けた場合の乳がん発症リスク(2017年1月)

1~2年間カルシウム拮抗薬を服用した場合の乳がん発症リスクと2~12年間カルシウム拮抗薬を服用した場合の乳がん発症リスクに差は見られませんでした。一方、ACE阻害薬を長期間服用した場合、乳がん発症リスクの低下が示唆されました。

 

ACE阻害薬を服用した場合の乳がん発症リスクを確認してみると

降圧剤としてACE阻害薬1~2年使用した場合の乳がん発症リスク1とした場合、2~3年の使用の発症リスクは0.84、5~6年のACE阻害薬の使用で乳がんの発症リスクは0.76、9~10年で0.63、10~11年で0.69となっており、いずれも服用開始時の乳がん発症リスク“1”を下回っています。さらに、ACE阻害薬を飲み続けることで、乳がん発症リスクが低下しているようにも読みとれます。

 

ACE阻害薬が乳がん発症リスクを低下させた仮説としては、アンジオテンシンⅡ産生をACE阻害剤が抑制することに起因し、アンジオテンシンⅡが血管新生を促進する作用をACE阻害薬が妨げたことで、がん細胞の栄養源を絶ったことや誘発ガン細胞の増殖を抑制したことが、その背景にあるのではと示唆されております。

カルシウム拮抗薬・ACE阻害剤による乳がん発症リスクについて

上記の報告のほかにも、カルシウム拮抗薬を飲み続けると乳がんの発症リスクが〇〇となる(変わらないという報告もあれば、上がるかもといった報告もあります)などなど、カルシム拮抗薬とガンの発症リスクについて、言い切れることは何一つありません。

 

今回、カルシウム拮抗薬を飲み続けることで生じるリスクについて調べた私の感覚としましては、カルシウム拮抗薬は、もしかしたら何かしらのガンの発症リスクをUPさえるかもしれないし、しないかもしれない。一方で、それ以外の降圧剤(ACE阻害剤・ARBなど)はガンの誘発と関係ない・または、ガンの発症率を低下させた。といった報告をたびたび目にしました。

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まとめ

カルシウム拮抗薬

飲み続けることで、何かしらのリスクがあるかどうかは何とも言えません。最近の海外の報告を確認してみても「〇〇ガンの発症リスクが△△となるかもしれない」といった推測・示唆する報告を確認しました。言い切れることはありません。

 

ACE阻害薬・ARB

飲み続けることで、もしかしたら〇〇ガンの発症リスクが少しだけ低下するかもしれないし、変わらないかもしれない。心血管リスクを少しだけ低下させるかもしれないし、かわらないかもしれない。腎臓保護作用については確立している。

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業