ビオフェルミンやラックビーなど、医薬品として処方することができる“整腸剤”にはいくつか種類があります。適応症はいずれも「腸内菌叢の異常による諸症状」となっていますが、どのような観点で使い分けをしているのか、薬局勤務の私には、なかなか判別が難しいところがあります。ということで、今回は整腸剤の使い分けがどのようになされているかについて調べてみました。
○小腸上部
酸素が豊富なため、酸素を餌にする乳酸菌が生息する場所
・嚥下によりとりこまれた酸素が存在する
・酸素を利用してエネルギーを生産するタイプの細菌が生息する(善玉菌:乳酸菌など)
・乳酸菌は1分子のグルコースあたり38個のATP(エネルギー)を生産する。効率がよい
・1gあたり約1万個の細菌が生息する
ということで胃のすぐ下にある小腸では酸素を利用して活動することができる乳酸菌を中心とした細菌が、ATPというエネルギーをたくさん作りながら生息していることがわかります。
腸内細菌によって作られたATPエネルギーは腸管粘膜を経由してとりこまれヘルパーT17細胞などの免疫細胞の分化を誘導することで免疫応答の制御に寄与します。
腸管免疫という言葉がありますが、その根底を支えているのは腸内細菌あることが示唆されます。
○大腸
酸素が少ないためビフィズス菌が生息する場所
・酸素濃度が非常に低いためビフィズス菌などの嫌気性菌(酸素を嫌う菌)が大半を占める
・発酵によりエネルギーを産生するタイプの細菌が生息する(善玉菌:ビフィズス菌など)
・ビフィズス菌は1分子のグルコースあたり4個のATP(エネルギー)を生産する
・1gあたり約100~1000億個の細菌が生息する
・乳酸菌も10~1000万個ほど生息するが、酸素がないため発酵によりエネルギーを生産する
ということで、大腸では酸素濃度が低いため、発酵によってエネルギーを作り出す菌(ビフィズス菌)がたくさん生息していることがわかります。
大便の70%は水分、10%が食べかす、10%が腸粘膜のカス、10%が腸内細菌とその死骸ですので、たくさんの腸内細菌が私たちの便の形成に寄与していることがわかります。大腸における腸内細菌はとにかく数がたくさんいたほうが良さそうですね。
○小腸下部
・小腸上部と大腸の細菌が混在しています。
整腸剤に含まれている成分は大きく分けると
・ビフィズス菌
・乳酸菌製剤(ラクトミン)
・酪酸菌製剤(宮入菌)
・糖化菌
という4種類に分別できます。
・偏性嫌気性菌(酸素がないところで生育する)であるため、大腸で生育する。
・大腸におおける善玉菌の99%を占める
・大腸の管腔内pH5~7で生育できる。pH5以下、またはpH8以上では発育できない
・空腹時胃内pH1~2の環境下で60分の培養により死滅または失活する
・食後は胃内pHが4~5まで上昇するので、ある程度のビフィズス菌は生きたまま腸管まで到達できる
・空腹時胃内pHを5~6まで上昇させるH2ブロッカーとの併用によりビフィズス菌の生存率を上昇させることができる
胃薬H2ブロッカー/ガスター・ザンタック・アシノンの効き目を比較する
・通性嫌気性菌(酸素があってもなくても生育できる)であるため、酸素が存在する小腸上部で主に生育する。
・小腸下部や大腸でも生育できるが、エネルギー産生方式が、酸素を用いたATP産生から発酵によるATP産生に切り替えられるため、産生効率が非常に程度まで下がる
・大腸においてはビフィズス菌優位の腸内細菌叢に導く作用をする
・腸管腔内pH5~7で生育できる。pH4以下、またはpH8以上では発育できない
・pH1ではすべて失活するが、pH2では生存率が上がり、pH3~4では120分後でも生存できる
・食後は胃内pHが4~5まで上昇するので、乳酸菌は生きたまま腸管まで到達できる
・空腹時胃内pHを5~6まで上昇させるH2ブロッカーとの併用により、乳酸菌の生存率を上昇させることができる
・胃液や胆汁酸、腸液、消化酵素などの影響を受けずに腸に到達できる
・ビフィズス菌の発育を促進する
・有害物質産生菌もしくは腸管病原性細菌の発育を阻止する
・ビタミンB群を産生する
・消化管粘膜上皮細胞の増殖を促進する
・胃から結腸まで広範囲に分布する
・偏性好気性菌(酸素が無いと生育できない)ため小腸上部で発育する
・芽胞を形成するため熱・酸・アルカリに強い
・乳酸菌では分解できない“でんぷん”を糖化菌は糖へ分解することができる。その糖を利用して乳酸菌が増殖する(乳酸菌の増殖率を10倍アップさせる)
上記4種類の菌の特徴を踏まえた上で、既存の整腸剤について、消化管のどの部位で主に腸内細菌の育成に寄与するか分別してみました
ビオフェルミン配合散:1g中にラクトミン(乳酸菌)6mg、糖化菌4mg
ビオラクチス散:1g中にビオラクチス原末(乳酸菌)500mg
腸内細菌叢について
ビオフェルミン錠:1錠中にビフィズス菌12mg
ラックビー微粒N:1g中にビフィズス菌10mg
ラックビー錠:1錠中にビフィズス菌10mg
ミヤBM細粒:1g中に宮入菌末40mg
ミヤBM錠:1錠中に宮入菌末20mg
ビオスミン配合散:1g中にビフィズス菌4mg、ラクトミン2mg
レベニンS酸:1g中にビフィズス菌4mg、ラクトミン2mg
ビオスリー配合錠:ラクトミン2mg、酪酸菌10mg、糖化菌10mg
2022年2月、新型コロナ感染後の後遺症に関して、腸内細菌叢の豊かさおよび多様性がよいほど、新型コロナ感染後の後遺症が低いという報告がありました。
具体的には新型コロナウイルス感染前と比較して、感染後6カ月時点における腸内細菌叢が十分に回復している群は後遺症の発生頻度が低かったのに対して、腸内細菌が十分回復していない群では後遺症を患うケースが多いという報告です。
整腸剤の長期服用と定着に関しては以下の報告をご覧ください。
下痢の鑑別疾患は原因菌(細菌またはウイルス)が確認されない限りは特定することは難しいかとは思いますが、大腸型の下痢、小腸型の下痢に関して主な特徴をまとめました。
(両方の特徴を有した混合型もあります)
便の性状:少量・頻繁な粘血便
腹痛:強い
悪心・嘔吐:軽度
しぶり腹(便意はあるが便が出ない、あってもわずか):あり
発熱:高熱
原因細菌:カンピロバクター、赤痢、腸管出血性大腸菌、エルシニア、クロストリジウム
原因ウイルス:サイトメガロウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペス
便の性状:多量の水様便
腹痛:軽度
悪心・嘔吐:強い
しぶり腹(便意はあるが便が出ない、あってもわずか):なし
発熱:軽度
原因細菌:サルモネア、大腸菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ウェルシュ菌
原因ウイルス:ノロウイルス、ロタウイルス
下痢の識別疾患
私の主観ですが、上記のデータをもとに、下痢症状のときの整腸剤を使用する際のポイントを考えてみると
・「食事が摂れない」状況で整腸剤を使用する場合はH2ブロッカーと整腸剤を併用する
・食事が摂れる場合は食後に整腸剤を服用する。
・整腸剤の種類は下痢の症状をもとに選定する
軟便・水様便・吐気が続く場合は病院へ受診することが最優先と考えますが、市販薬で対処せざるを得ないケースもあるかと思います。
その際は、食後に整腸剤を飲むか、ガスター10やアシノンZといったH2ブロッカーと一緒に整腸剤を飲むという選択肢はアリかと思います。
整腸剤の成分リスト
ビオフェルミン配合散:1g中にラクトミン6mg、糖化菌4mg
ビオフェルミン錠:1錠中にビフィズス菌12mg
ラックビー微粒N:1g中にビフィズス菌10mg
ラックビー錠:1錠中にビフィズス菌10mg
ビオスミン配合散/レベニンS酸:1g中にビフィズス菌4mg、ラクトミン2mg
ミヤBM細粒:1g中に宮入菌末40mg
ミヤBM錠:1錠中に宮入菌末20mg
ビオスリー配合錠:ラクトミン2mg、酪酸菌10mg、糖化菌10mg
追記
整腸剤の一般名処方を多く見かけるようになりました。ビオフェルミン製剤や乳酸菌製剤の一般名処方は非常に名前が似ていて調剤過誤の原因にもなりかねないため、厚生労働省のホームページに記載されている一般名処方マスターには、例外コード品目(一般名が似ている薬を区別するための対策)がなされています。
例
(般)耐性乳酸菌10%→コレポリーR散10%やエンテロノンR散
(般)耐性乳酸菌1%散→ラックビーR散
(般)耐性乳酸菌0.6%散→ビオフェルミンR散
(般)耐性乳酸菌1.8%散→レベニン散
上記の4剤の常用量はいずれも1日3回、1回1gです。
エンテロノンR散の濃度が10%と高いわけですが、菌数でいいますと1g中に含まれるエンテロノンR散中の耐性乳酸菌数も、1g中のビオフェルミンR散に含まれる耐性乳酸菌数もともに100万〜10億個の生菌が含まれておりますので、小腸に対する乳酸菌の働きとしては同程度と捉えます。
2018年11月13日追記
ヨーグルトや整腸剤に含まれる善玉菌は体によいものという印象があります。しかし炎症性腸疾患などで腸の内側の粘膜(ムチン層)が損傷している場合にはヨーグルトや整腸剤が有害となるケースが報告されました。ビフィズス菌や乳酸菌には腸の内壁にしがみつくためにの”アドヘシン”と呼ばれる手がついているのですが、この手が腸の内側の粘膜にしがみつく場合は問題ありません。しかし、この手が腸の内側の炎症部位や損傷部位にしばみついた場合は、損傷部位の細胞へ有害作用を示すことがあり、一概に善玉菌とは言い難いようです。